ヒソカとイルミと黒猫と





ハロウィンネタのSSです。本編12章以降の設定。本来なら10/31にアップすべきだったのですが、12章の執筆が遅れたため季節外れなこの時期のアップとなっておりました。


ヒソカとイルミとミズキのお話です。








「トリック・オア・トリート!」


ガラナス山でのいつもの鍛錬の途中、「よーし、一旦休憩にすっか!」と言って意気揚々と木陰に向かったミズキが、小走りで戻ってくるやいなやイルミとヒソカに向かってその言葉を言い放った。いかにも何か企んでいますと言った感じの悪戯な顔をするミズキの頭には、獣の耳らしきものがついている。


「なに、それ。」
「化け猫だよ、化け猫。ハロウィンの定番衣装じゃねーか!」
「ハロウィンって……。もう結構日にちが経ってるじゃないか◆」
「細かいことは気にすんじゃねーよ。ハロウィンってもとはどっかの国の収穫祭が起源なんだろ? 収穫祭なんて国によってまちまちだし、十一月上旬まで収穫祭で祝っててもおかしくねーだろ」
「なにその強引な理論。」
「水指すなよイルミ、せっかく仲良くしているゴミ拾いの爺さんがくれたんだからさ。お前らの分もあるぜ?ミイラ男に狼男、ドラキュラなんてのもあるんだぜ!……ま、生ゴミと一緒に捨ててあったからちょっと臭うけどな」
「やだよ。そんなの着たくない。」
「同じく◆」
「なんだよ、潔癖性だなー。いいよ、オレ一人でやるから。……な、どうだ?似合ってるか?」


いつもの生意気な顔つきはどこに行ったのやら、ミズキは無邪気な顔で二人に向かって猫のポーズを取る。頭には猫耳、手元にはピンク色の肉球のついた猫の手、腰には長い尻尾がついている。針金が入っているのか腰につけられた尻尾はミズキが動くたびに右に左にピョコピョコと動いていた。

これはなかなかーー。イルミは顎に手を当てながら「うん、似合ってるよ。」と率直な感想を言った。その言葉にミズキはふふんと鼻を鳴らし、もう一方の反応はどうだろうかとヒソカの方を見た。


「なにそれ。仮装のつもりなの?」


予想に反してヒソカの反応は酷く冷たいものだった。木の幹に腰掛けたまま気怠そうに身体を斜めにし、大きなため息をついている。


「ミズキ……。キミ、それで仮装しているつもりなのかい?」
「え……、そのつもりだけど。つーか、コレ、ハロウィンの仮装用に売られてる商品だし。なんだよ、ヒソカ、これが仮装じゃなけりゃ何が仮装になるっつーんだよ」
ミズキはぶっきらぼうに言った。
「はぁ、全くキミは何も分かっていない。そんなその辺で売っている服を来て仮装していると言い張れるだなんて、まだまだだ子供ね♣」
ヒソカの明らかに小馬鹿にした物言いにミズキはムッとした。
「じゃあどういうのが仮装だって言うんだよ、ヒソカは」
「そうだね、例えば去年ボクがハロウィンの仮装をした時。これは天空闘技場の人気闘士のハロウィングラビアってヤツだったんだけど…」
「グ、グラビア?雑誌か!?」
「この時のボクは、素肌に包帯を巻くだけの衣装で。もちろん専属のメイクを付けて血糊も使ったよ。場所はスタジオなんて安っぽいものは使わず、古城で。これは数世紀前には由緒正しいとある王族が使っていたものさ◆」
「す、すげーな……」
「最新の機材と最高のスタッフ。もちろんボク自身も、『ミイラ男』らしく見えるポーズを何十と取ったさ。ボクは今までこういうのを『仮装』だと思っていたからさ、そんな子供騙しの衣装を着て招き猫のようなポーズをしているだけで仮装だと言い張っているキミがちゃんちゃら可笑しくて……ネ♣」

ヒソカは鼻で笑った。確かにミズキはその辺で売っている大量生産品を着ているし、「化け猫」らしいポージングの一つも出来ていない。超一流の仮装を経験しているヒソカから見たら低レベルな仮装に違いないだろう。でも、だからといってここまで馬鹿にされるいわれはない。ミズキはヒソカにつかつかと歩み寄った。


「うるせーよ、これしか持ってねーんだからしょうがねぇじゃねーか!!お前のそんな仮装と比べんじゃねーよ!!」
「自分の低レベルを棚に上げて逆ギレかい?」
「逆ギレなんかじゃねーよ、正当な反論だ!!」
「おやおや、仮装のポージングの一つも出来ないくせに、どの口が『正論』を言うんだい? 悔しかったら『化け猫』らしいポーズの一つでもやってごらんよ」
「ふざけんなよ、ヒソカ。そこまで言うんだったらやってやろーじゃねぇか!」
「じゃあ審査員はボクとイルミ。キミが思う『化け猫』のポージングをボク達の前でやってごらん?」


突然名前を呼ばれたイルミは、「え、オレ?」といった感じで自分を指差していたが、突然始まったよく分からない二人の戦いを止めるのが面倒なのだろう、ため息をつくだけで何も言い返さなかった。それを「是」と取ったミズキは、二人の前で「化け猫」っぽいポーズを始めたのだった。


「に"ゃー!!」
「ダメ」
「ぐわー!!」
「ダメ」
「ガオー!!」
「なにそれ、ライオンのつもり?」


どんなポーズを取ってもヒソカに全て駄目出しをされてしまう。次第にミズキは苛立っていった。


「あーーー!!!全てにダメ出ししやがって!!!じゃあ何が『化け猫』っぽいっつーんだよ!!!」
ミズキは頭に付けていた猫耳を叩きつけて叫んだ。
「それすらも分からないのかい?どう見ても『猫』らしさが足りないじゃないか、ねぇ、イルミ?」
突然話題を振られたイルミはまたもや「え、オレ?」という顔をするが、ヒソカの鋭い視線に促されるようにして同意の言葉を渋々口にする。
「……あー、確かに『猫』っぽさがない、かも。ミズキのは『化け猫』っていうより『化け物』って感じするし。」
「だってさ、ミズキ」
「あーもー、猫っぽさってなんだよ、意味分かんねーよ……」
「猫も分からないのかい?」
「流石に猫は分かるっつーの!!」
「じゃあ、猫のような行動をしてみればいいじゃないか。ちょうどそこにクロスズメがいる。あれを猫のように狙って捕まえてごらん」
「あのスズメを猫が取るように?……分かった」


ミズキは、五メートルほど先にいるクロスズメに標的を定めると、両手を地面に付けた。


「ミズキ、猫はもっと姿勢を低くするものだよ?」
「こ、こうか?」
ミズキは地面に顔をつけるほど姿勢を低くした。
「ダメダメ。猫は前方の姿勢を低くしながら、後ろ足はいつでも飛びかかれるように軽く曲げておくだけにするんだ」
「こ、こうか?」
ミズキは、『伏せ』の状態をしながら、腰を上に上げた。
「まだ甘いね。猫は背骨がもっとしなやかなんだ。背中をもっと反らさないと猫らしいとは言えないね」
「なるほど、そうか……」


ミズキはヒソカの助言に従い、腰を上げながら背中を反らした。それは俗に言う『女豹のポーズ』だった。しかし、五メートル先にいるクロスズメに意識を向けているミズキは、自分自身が『女豹のポーズ』をしていることに気づいていない。


「猫は獲物を狩る際に、腰を振る。これは、獲物に狙いを定めている間に凝り固まった身体をほぐすためと言われているのさ。腰を振り、体にバネを溜め、タイミングを合わせて飛びかかる。さぁ、やってごらん?」


ミズキは、ヒソカのその指示に何ら疑問を持つことなく腰を左右に振った。その動きに合わせて腰に付けた尻尾が右に左にとピョコピョコ揺れる。ミズキは今、ヒソカとイルミに背中を向けている。つまりは、二人に向けて女豹のポーズをしながら見せつけるようにお尻を振っていることになるのだった。


「う……ん、これはなかなか……◆」


ヒソカは吊り上がった口元を手で隠しながら、右に左にと揺れるミズキのはお尻を凝視していた。最初からヒソカの目的はコレだった。うまく誘導できれば儲けもの。その程度の考えで始まったこの遊びだったが、事態は予想以上に思惑通りに進んでいる。堪えきれなくなったヒソカは、口を手で隠しながらも喉をククッと鳴らした。


その視姦とも言えるヒソカに、イルミが鋭い視線を向ける。そんなヒソカにイルミが懐の鋲を投げつけるのと、ミズキがクロスズメに飛びかかっていくのは同時だった。


「やった!取れたぞヒソカ!クロスズメ!!鳥が飛ぶより早く捕まえられたぞ!!」


得意満面な笑みで振り返ったミズキの目に映ったのは、互いに交戦するヒソカとイルミの姿だった。


「え……ちょっ……」


さっきまで「化け猫」っぽいポージングの審査をしていたはずなのに、何がどうしてこうなったのか。ミズキは周囲の木を巻き込みながら戦う二人に目を白黒させた。


「おいおいお前ら、どうしたんだよ?」


戸惑いながらも問いかけるも、二人が戦闘をやめる気配はない。むしろ二人の戦いは時間が経つごとに激化していく。


「ちょっと、待て……。お前らが戦うとこの場所が荒れんだよ、この間の戦いでえぐれた地面が見えねーのか、おい……ヒソカ、イルミ……」


ミズキの声は二人には届かない。その間も木は薙ぎ倒され、地面に幾つもの穴が出来てゆく。ミズキは怒りで肩を震わせた。


「お前らが仲が良いのはよく分かったから!!!!ものすんごく分かったから!!!!だからさっさと戦いをやめてくれぇぇぇぇ!!!!!」


ミズキの懇願は二人の耳には届かない。膝からがくりと地面に崩れ落ちたミズキの頭から猫耳のカチューシャがポロリと転がった。



おしまい







相変わらず仲が良いヒソカとイルミ。策士なヒソカ萌え。ヒソカは誘導が上手そうです^^


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