もしも夢主がゾルディック家に連れて行かれたら 〜掃除編〜




星様、べーた様、その他無記名の方から、番外編のゾルディックIF話が面白かったとコメントを頂きました。ありがとうございます。私、おだてられると木に登ってしまうくらいの単純な人間なので、「コメントっ!!!!むっちゃ嬉しい////////」と思っているうちにあれよあれよと第二弾が頭の中に出来上がっておりました(笑) ネタ先行のショートストーリーとなりますが、楽しんでいただけると嬉しいです。




・ 「夢主がもしゾルディックの執事になったら〜」というIF設定の話です









カタン、と小さな音が背後から聞こえ、ミズキは掃除していた手を止めて顔を上げた。扉の向こうに姿を現したのは、揉み上げから続く短く切り整えられたあご髭と逆三角のメガネが特徴的な長身の男、ゴトーであった。執事服をビシリと着こなし、身体の芯がブレることなく颯爽と歩くゴトーからは、執事としての威厳が漂っている。


「うげぇ……」


ゴトーを目にしたミズキは、ゴトーに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。イルミに執事服を着せられてからこのかた、ミズキは強制的に執事見習いをさせられていた。何度か逃げ出そうと画策をしたのだが、その度になぜかゴトーに見つかってしまい、「てめぇ、まさか、逃げ出そうとしているんじゃねぇだろうな?」とメガネをクイと上げながら威圧感たっぷりに問われればミズキは「いや……あの……ちょっとトイレに行こうとしてただけだ……」と答えることしか出来なかった。


「掃除は終わったのか?」
ゴゴゴゴ……と背景から音が漂ってきそうな中、ゴトーがミズキに問いかける。
「まぁ……なんとかな……」


投げやりに答え、ミズキは手に持った雑巾をポンとバケツの中に投げ入れた。ぴちゃんと飛んだ水飛沫が掃除をしたばかりの床に数滴落ち、それを見たゴトーのこめかみがピクリと動いてオーラが揺らめく。くそったれ……。そんなゴトーに、ミズキはそそくさと地面に飛んだ水飛沫をぬぐい、今度はちゃんと絞ってからバケツの淵に丁寧に掛けたのだった。

出会いからして最悪だった二人の関係は何日か経った今でも良くなることはなく、二人の間には殺伐とした空気が流れていた。

なんだよ嫌味でも言いに来たのかよ、とミズキは心の中で悪態をつく。そんなミズキを眼鏡の奥でじっと見据えながら、ゴトーは緩慢な動きでミズキが掃除したばかりの棚に近寄った。


「掃除が終わったと言っていたが……これで、か?」


そう言ってゴトーはミズキが掃除したばかりの棚を人差し指でつーっと撫でた。わずかにだが指先に埃がついている。ゴトーは嫌味ったらしく指先をふっと吹き、ミズキにじとりと視線を投げかけた。


なんだよ、それ!!!
お前はどこぞの姑かよ!!!
こんなことやる奴、テレビでしか見たことねぇよ!!!


そう叫びたくなる言葉をぐっとミズキは飲み込む。仮とはいえこの男は上司なのだ、言い返したところで何も良くはならない。


「すいやせんっした。やり直しマス」


とりあえず謝っとけ。そんな気持ちが透けて見えるぶっきらぼうなミズキのその物言いに、ゴトーのこめかみがまたピクリと動く。


「てめぇ、口の聞き方がまだ分かってねぇようだな?謝り方も知らねぇのか?」


あーー、もう、面倒臭ぇな、この男。そう思うも「謝り方も知らない阿呆」だと思われるのも釈だったので、ミズキは最上級の敬語を使って言葉を返した。


「私めの掃除に至らぬ点があり、申し訳ございませんでした!以後このような事がないよう、細心の注意を払って掃除をさせて頂きます!!」
「ほぅ……なんだ、ちゃんと言えるじゃないか」


てっきり「そんな馬鹿丁寧な物言いをしてオレをバカにしているのか?」と言われるとばかり思っていたミズキは、予想外の言葉にキョトンとしてしまった。


「あ……いえ、そんな事は……」


ミズキは馬鹿にされることには慣れていたが褒められることのには慣れていない。今まで顔を合わせれば皮肉ばかり言うゴトーに認められるような言葉を掛けられ、ミズキは素で照れてしまっていた。


「オレは、お前はやれば出来る奴だと思っている」


嫌味ったらしいゴトーが言ったとは思えない雨でも降りそうなその言葉に、ミズキはもうどう反応していいか分からず、右に左にと視線を動かした。もじもじと組んだ指先を何度か動かし、ミズキは「あ、ありがとうございます……。そう思って頂けて嬉しいデス。しょ、精進します……」と途切れ途切れに言葉を返す。


手懐けられている気がしなくもなかったが、褒められて悪い気はしない。こいつ……意外といい奴かもしれない。ミズキがゴトーを見直し始めたその時、眼鏡の奥でゴトーの瞳がキランと光った。


「では、オレが直々にゾルディック流の掃除の仕方を教えてやろう」
「……え?はひっ!?」
「なんだ、嫌なのか?お前、精進しますと言っただろう?」
「え?……あ、はい……えぇ!?」
「口答えするな、まずは雑巾を持て」
「え?雑巾?」
「早くしろ」
「え、あ……はい」
「最初は床拭きだ。ゾルディック家では、大理石の床は一マス三十回拭く、分かったか」
「さ、三十回!?」
「そうだ、さっさとやれ」
「こ、こう?」
「なんだ、その力の入れ方は!もっと腰を入れて拭け!」
「こ、こうですか!?」
「そうだ、それを三十回だ。……なに黙って拭いていやがる、ちゃんと回数を声に出して数えろ!」
「い……いち、に、さん、し……」
「声が小さい!」
「いちっ!にっ!さんっ!しっ!ごっ!ろくっ!……」


回数を大声で数えながら大理石の床を雑巾で拭くミズキと、腕を組んでその様子を満足そうに見下ろすゴトー。「前言撤回!!やっぱりこいつ良い奴なんかなかったぜっ!!くそっ!!!」そう思うも、全てが後の祭りだった。ミズキは湧き上がる怒りを力へと変え、大理石の床をゴシゴシと磨いていく。ミズキの数を数える投げやりな大声が、二人しかいない大広間の中を何度となく通り抜けてゆくのだった。







「ゴトー、なんかあった?なんか嬉しそうなんだけど。」



その夜、仕事から帰ってきたイルミを出迎えたゴトーは、主から予想外の声を掛けられた。イルミ様に感情を悟られるほど顔に出ていただなんて執事失格だ。そう思うも昼間の出来事が面白かったのは事実だった。昼間、あの子供はなんだかんだ言いながら、大広間の大理石の床を手拭きでピカピカに磨き上げた。普段はモップ拭きで済ませている床を、だ。途中で音を上げるかと思ったが、子供はそれをしなかった。広大な床を手で拭く作業は単純ながらなかなかの重労働で、年季の入った掃除夫でも嫌がる仕事なのだ。


「あの子供、なかなか見所があります」
「……そう?」
「躾次第なところもありますが」
「ふーん。」


部屋に向かうイルミの横顔が、どこか嬉しそうに見えたのはゴトー見間違いではないだろう。明日は、もっと違う仕事をさせてみようか。そう思いながら、ゴトーはイルミの後を歩いていったのだった。


「くっそ……あのメガネ。こりゃ明日筋肉痛確実じゃねぇーか」


執事見習いの部屋の片隅に備え付けられた粗末なベットの上で、ミズキは両手首をぶらぶらと振った。普段使う筋肉とは違う筋肉を使う雑巾拭きは想像以上に辛く、ミズキの両腕は疲労でパンパンに腫れていた。あのメガネ、いつかぎゃふんと言わせてやる……。ミズキは目を閉じ、ゴトーがぎゃふんという姿を想像した。それだけでなんだか気が晴れてゆくようだった。疲労した身体にまどろみが心地良く、ミズキは数分としないうちに眠りに落ちていったのだった。

ミズキがゾルディックの執事として一人前になる日は来るのだろうか。そんなミズキの執事奮闘記は明日も明後日も続くのであった。




FIN




執事の仕事を熱心にするあまり、姑みたいになっているゴトーさん、可愛いです////


[prevbacknext]



top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -