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アマンダさんの子供に生まれて以降、私の意識は水面に浮く木の葉のように浮き沈みしていて、前に意識が浮上してから次に意識が浮上するまで数ヶ月間が空くこともざらにあった。しかし、その日ーー、初めてあの匂いを嗅いだその日は、珍らしく私の意識が浮上している日で、その日の出来事は今でも私の中で強烈に残っている。


「どうしても、考えを変えることはできないのか!?」


切羽詰まった声が聞こえる。アマンダさんの声でもニコールの声でもない。


「できないわ。これは考えに考え抜いた結論なの、分かってブラッド」
「ボスは離反者を許しはしない。でも、君は優秀な人間だ。ボスだって君を手放すのは惜しいはずだ。君の方から戻って誠心誠意謝れば全てを許してくれるだろう」
ブラッドと呼ばれた甘く鼻につく匂いを漂わせる男が、アマンダさんに懇々と説明している。
「できない、それはできない相談だわブラッド。私はニコールを愛しているの、そんなこと出来るはずはないじゃない……」
「アマンダ、いつまでも過去の男にすがるのはよしなさい。あの男は君と子供を置いて消えたんだよ?」
「違うわ、違う!あの人は殺されたのよ、あいつらに!……だって、ニコールは言ってくれたわ、私を幸せにしてくれるって。私を守ってくれるって。ニコールは私を置いて消えたりはしない……」
アマンダさんのすすり泣く声が聞こえる。
「そうかもしれない。けれど、現実問題、ニコールはここにいないじゃないか……」


そう言えば、何回か前の意識の浮上の時からニコールの姿を見ていなかった。どうやら、私の戸籍上の父は死んだか失踪したらしい。でも、それが分かっても私の中に何かの感情が生まれることはなかった。


「泣かないでくれ、アマンダ……。僕だって君を苦しめたいわけじゃないんだ。ただ、組織に戻ってくれと言っているだけなんだ、分かってくれ……」
「分かってないのはブラッドあなたの方よ!組織に戻れって簡単に言うけれどそれがどういうことか分かってるの!?あの新しくボスになったあの男に愛人にされながら、敵方の勢力を削ぐために好きでもない男と延々寝続ける日々が待っているのよ!?……そんなの無理よ、私はニコールを愛しているの……」

アマンダさんが、顔を手でうずめその場に崩れ落ちた。

「アマンダ、ボスは執念深い男だ。君には特別に目を掛けていたから……君が組織を逃げ出してから何年も経っているのに、君の追跡命令を未だ解除していない。君が組織に戻るか君が死ぬまで、この命令は解除されないだろう」
「その『特別に目を掛けている』が嫌なの、分かってブラッド……」
「はぁ……、なんで分かってくれないんだ、アマンダ。ボスは命令を解除していない。そして、僕は君の居場所を突き止めてしまった。僕はかつての仲間を殺すことはしたくないんだ、分かってくれ、アマンダ……」
「できない、できないわ……。それに、私、知っているの。連れ戻すのは私一人だけだって。ニコールもこの子も保護の対象に入っていないって、知っているの!」
「それがなんだって言うんだ!いいじゃないか、子供くらい! それで命が助かるなら安いもんじゃないか!!」
その言葉にアマンダさんが息を飲んだ。
「普通の子供ならまだ分かる……けれど、この子は別だ!!こんな……こんな、笑いもしない反応も返さない、出来損ないの子供になんでそんなに執着しているんだ!!現実を見ろ!!無駄死にしたいのか!?」

話の流れから察するに、どうやらこの男はアマンダさんと同じ組織にいた者らしく、『特別に目を掛けられていた』アマンダさんは、夫と子供を見捨てることを条件に、殺されずに済むらしい。私は殺されるのだろうか。自分のことなのにどこか絵空事のようなぼんやりとした感覚で私は思った。別に、殺されたって構いやしない。もう、既に死んでいるのと変わらないのだから。

視界の隅でアマンダさんが肩を震わせているのが見えた。「ブラッド、分かったわ」そう言ったアマンダさんの声は、先ほどまでの泣き声とは打って変わって冷静さを帯びていた。当たり前の選択だ。生きるか死ぬかの選択なら誰だって自分の命を選ぶ。私だってあの空間で自分の命を選び手を血で染めてきたのだから。


「やっと、分かってくれたか」
「ええ、分かったわ。あなたとは話が通じないってことが」
「アマ、ンダ……」
「この子は私の子よ。命に代えても守り通すわ。話は以上よ。もう帰って……帰って……帰れ、帰れぇーー!!!」

アマンダさんの怒鳴り声を聞いたのはこの時が初めてだった。男は「さようなら、アマンダ。君と分かり合えなくて悲しく思うよ。……24時間だ、昔の仲間のよしみで24時間だけ待ってあげよう。しかし、そこから先、僕と君は他人となるーー。覚悟しておきなさい」そう言って、甘く鼻につく匂いを放ちながら帰っていった。


「ミズキ、愛してる……愛してるわ……愛している……愛しているの……」


アマンダさんは物も言わない私に抱きついて、うわ言のようにその言葉をずっと繰り返していた。アマンダさん、アマンダさん、アマンダさんーー。何よりも強く美しい私の憧れの人。身を呈して私を守ってくれたアマンダさんに、私の頬を温かい物が流れていった。暗い暗い闇の中で粉々に砕け散った私の心に、一筋の光が戻ってきた瞬間だった。


その次の日から本格的な逃亡生活が始まった。平均して3ヶ月、早いときは2週間で住む場所を変えた。場所を移る時はアマンダさんが組織の動向を事前に掴んだときか、『鼻につくあの甘い香り』を嗅いだときだった。

依然として視界は白く霞がかかり、聞こえる音にはノイズが混じり、物を触っても手袋を何重にもつけているような鈍い感覚でしか感じられなかったが、それでも時が経つに連れて意識が浮上している時間が長くなり、わずかばかりだったが身体が動かせるようになっていた。

浮上する意識の中で考えるうちに、私はこの状態は身体に渦巻く大量のオーラが原因なのではないかと思うようになっていた。私が今抑え込むことができるオーラ量は全体の1割ほどしかなかったが、それでもオーラを操作しようと努力をした日は、いつもより身体が動くような気がした。相変わらず意識は浮き沈みしていたが、私は時間が許す限りオーラ操作に力を注ぐようにになっていた。

逃亡生活は苦しいものだった。アマンダさんは日に日にやつれてゆき、美しかった彼女の顔には疲れが刻まれるようになっていた。それでも、アマンダさんが私を邪険にすることは一度もなく、今までと変わらず溢れる愛を私に注ぎ続けてくれた。

朝目が覚めるとアマンダさんは優しい笑顔で「おはよう」と言って私を抱き締め、昼には「ミズキと食べるご飯は世界一美味しい」と喜び、夕方には夕陽を見ながら私を優しく撫で、夜には「ミズキと過ごせる毎日が幸せで堪らないわ」と言っておでこにおやすみのキスをした。物も言わない感情も返さない出来損ないの私に、だ。


怒りに溢れていた私に微笑んでくれたのは、貴方だった。
憎しみにまみれていた私を包み込んでくれたのは、貴方だった。
苦しみに喘いでいた私を抱き締めてくれたのは、貴方だった。
絶望にうちひしがれていた私を愛してくれたのは、貴方だった。

貴方がいたから私は壊れなかった。
貴方がいたから私は希望がもてた。
貴方がいたから私は生きてこれた。


貴方は私の唯一の光



彼女のおかげで、粉々に砕け散った私の心は少しずつ戻っていった。心の中に渦巻いていた、怒りも、憎しみも、悲しみも日を経つに連れて薄くなっていった。果てがないと思っていた絶望感と虚無感にも、ぼんやりとだったが終わりが見え始めた。

早く、彼女の想いに応えたいーー。身体を動かしたい。言葉を伝えたい。笑顔を返したい。私は意識がある間中、ずっとオーラ操作に勤しんでいた。そして、ついにその時は来た。今でも忘れはしない。あれは、夜空の美しい冬の日だった。私がこの世界に生まれてから九年と七ヶ月もの歳月が経っていた。

その日、頭の中で唐突にパンっと言う音が鳴り響き、白く霞がかかっていた視界が突然クリアになった。今まで聞こえていたノイズも消え、直接的な感覚を持って物を感じるようになっていた。抑えるだけで精一杯ではあったが、体内に渦巻いていたオーラの全てが私の支配下に入った瞬間だった。


「ア、マンダ……」


それが、生まれて初めて発した言葉だった。その言葉を耳にしたアマンダは、驚きに目を見開いた後、ボロボロと涙を零した。溢れる涙を拭いもせず、アマンダは私を抱き締めながら「ミズキ……ミズキ、ミズキ、ミズキ、ミズキ……」と何度も何度も私の名前を呼んだ。

鼓膜を震わす彼女の声から、皮膚に伝わる彼女の温もりから、熱く、激しく、それでいて蕩けるように温かい感情が私の中に止めどなく流れ込んでくる。私もアマンダのことを精一杯抱きしめ返した。気づけば涙が溢れていた。


『この人のために私は生きよう』


その時、私は心に誓った。

始めはただの憧れだった。夢の中で見る美しい女性。どこにでもいる大学生だった私は、彼女の美しさ、機転の早さ、そして、何者にも屈せず決して諦めない彼女の強さにーー、憧れるようになっていた。その憧れはあのネジで頭をキリキリと締め上げられてゆくような凄惨な空間の中で次第に熱く深く掛け替えのないものへと変容し、そしてそれはこの世界に生まれてからの十年間で確定的な物へとなった。


彼女は私の光で、私の希望で、私の救いーー。胸を占めるこの想いをどんな言葉で表現したらいいか、未だに私は分からない。「好き」なんて言葉では表せない、「愛している」なんて言葉でも表せない。彼女はこの世の何よりも尊い存在となっていた。


その日から、アマンダと別れる半年の間は今までで一番幸せな時だった。優しい笑顔で「おはよう」と私を抱き締めるアマンダに「おはよう」と返し、「ミズキと食べるご飯は世界一美味しい」と喜ぶアマンダに「私もだよ」と返し、「おやすみ、ミズキ」と言ってキスをするアマンダに、お返しのキスをする。幸せで幸せな時間だった。

この世の何よりも美しく、強く、優しい彼女と一緒に居られるだけで、私は天にも昇る心地だった。彼女は私の唯一神。彼女の隣で彼女に愛を注がれ続ける私は、この世の誰よりも幸福な存在だ。何気ない日常の全てが特別で、手を繋いで見た夕陽も、散歩をしながら見上げた満月も、何もかもが煌めいて見えた。


アマンダが私とお喋りをする時間をとても喜んでくれるから、私はよく喋るようになった。アマンダが喜怒哀楽を伝える私の様子を嬉しそうに見てくれるから、私はオーバーリアクションに感情を表すようになった。アマンダが喜ぶから、アマンダが嬉しそうにするから、アマンダが、アマンダが、アマンダがーー。

私の行動基準の全ては彼女となった。アマンダが喜ぶことは何でもしてあげたかった。だから、アマンダに「あなたを守るためなの……ごめんなさいね」と言われた時、私は異を唱えることもなく男として振る舞うことを決めた。理由は聞いていない。聞く必要もなかった。

その日から私は自分の呼び名を「私」から「オレ」にした。内股気味だった足もガニ股になるようし、語尾に「だぜ」をつけ、振る舞いが粗暴になるようにした。好きなお菓子は「エクレア」や「マカロン」なんて可愛らしいものではなく「うまいん棒」や「ガリンガリン君」、好きな色は「ピンク」や「パステルカラー」なんて可愛らしいものではなく「赤」や「青」、若干男の子らしさに偏りがあったかもしれないが、私は他にも色々と考え得る限りの「男の子らしさ」を作り上げ、そして、それを実践していった。

苦痛なんかではなかった。むしろ、アマンダが喜ぶ姿に近づいていることに恍惚とした快感さえ感じていた。

男の姿をするようになってから、アマンダと一緒に外に出る機会が増えた。既に成人しているアマンダが性別を偽ることは難しいが、子供の私なら性別はいくらでも誤魔化せる。おそらく、私が男であることはあの甘い匂いを放つ敵の目をくらますのに都合が良かったのだろう。私は勝手にそう結論づけていた。

しかし、男であることが板についてきたそんなある日、私はある問題に気づいた。私の中の過去の記憶が加速度的に消えていっているのだった。『白い子供』であった時は、あんなにありありと思い出すことができた友達の顔も両親の顔も、もうぼんやりとしか思い出すことができなかった。


記憶が失われているーー。


それは例えようがない恐怖だった。過去の事を忘れていくのが怖かったのではない。アマンダを守ることができない子供に成り下がるのが怖かったのだ。過去の記憶はアマンダを守るのに必ず役に立つ。だから、貯金がつきたためにエステティシャンとして外で働くようになっていたアマンダが家を留守にしている間、学校に行っていない私は、昔の記憶を手繰り寄せ、自分の知識として脳に留まるよう過去の記憶を繰り返し繰り返し頭の中に思い浮かべた。

その甲斐あって、私は身体の年齢以上の知識を身につけることができた。この世界では、十歳過ぎた辺りから働いている子供が数多くいる。逃亡生活にお金は必要不可欠だ。これからは私も働いて、アマンダを助けるんだ。

この世の何よりも尊く美しいアマンダ。貴方のためなら全てを捧げても構わない。この命だって惜しくない。何よりも大切な貴方。今なら言える。十年間私に注ぎ続けてくれたその言葉の返事を。この半年間ずっと気恥ずかしくて言えなかったその言葉を。


『私も貴方を愛しています』ーーと。


そうだ、この言葉を花と一緒に贈ろう。アマンダの好きな花と一緒に。
私はアマンダに喜んで貰いたい一心で、以前アマンダがテレビを見ながらポロリと零した「白百合、綺麗ね。私の一番好きな花よ」という言葉を頼りに外に出た。「最近、危ないから外にでちゃダメよ」という言いつけを破って……。


この言葉は未だ迷子のまま、私の胸でさ迷っている。
満月の夜、忽然と消えてしまったアマンダと共にーー。






「ミズキ……ミズキ……」


突然肩を揺すぶられ、私はハッと目を開けた。目の前にはこちらを心配そうに覗き込むイルミの姿があった。どうやら私は電話を掛けた後に気を失っていたらしい。


「イ、ルミか……。オレが電話してからどれくらい経っている?」
まだボーッとする頭に手を当てて起き上がる。
「んー、二時間半かな?」
「そっか、意外と早かったな」
「うん。飛ばしてきたからね。」
「そっか、ありがと、な。イルミ……うっ」

一眠りしたおかげで体の方は随分とましになっていたが、それでも万全ではなく、私はくらりとバランスを崩してしまった。


「大丈夫?」


優しい声が頭上から降ってくる。逞しい胸板と力強い腕を肌に感じる。鍛え抜かれた筋肉に強靭な精神力、そしてずば抜けて高い戦闘力。その全てを持つ彼が私の頼みでこの場所に来てくれた。なんて頼もしいのだろう。あれほど心の中で荒れ狂っていた焦燥感が嘘のように引いていき、なぜか涙がこみ上げそうになった。

イルミ、イルミ、イルミーー。

貴方が来てくれなかったら私はこのまま悲願を達せできずにこの場所で朽ち果てていたかもしれない。ありがとう、イルミ。私は、イルミの胸板に額をつけて「ありがとう」と小さく呟くと、顔をグッと上げた。


「目標は、100m程先にある『ビターラッドファミリー』の本拠地だ!構成員はおよそ80〜100名の中規模組織。念能力者の数、警備の形態、装備の種類、屋敷の見取図等、全て不明!!イルミ……それでも、一緒にやってくれるか?」


こんな不利な状況でいいのだろうか。そう不安に思い尋ねると、イルミがふっと目を細めた。


「うん、いいよ。ミズキだけ特別。」


そう言ってイルミは私の頭をくしゃりと撫でた。なんて心強い言葉だろう。心が一気に晴れ渡ってゆく。イルミ、大好きだよ。『この世界』で出来た初めての友達に向かって心の中でそう言うと、私はイルミの胸を拳でトンと叩いた。


「よっし、行くっ……」


言葉途中に後ろから何かが飛んでくる。反射的にイルミから飛びのき、飛んできた方を睨みつける。イルミも厳戒態勢に入っている。張り詰めた空気が流れる。敵は"絶"が上手くどこに隠れているのか探し当てられなかったが、しかし、壁の向こう側に何者かがいる事は間違いなかった。

敵が投げつけてきたものは何だったのだろうか。私は、イルミと私がさっきまで居たところにチラリと視線を送った。まさかーー。その投げられたものがトランプだと理解したのと、壁の向こう側から男が姿を表したのは同時だった。


「キミたち、ナニをしているのかな?」


壁の向こう側から姿を表したのはヒソカだった。いつもの髪型、いつものメイク、いつもの服装、いつもの奇怪なポーズで立っていた。しかし、その顔はどこか不機嫌そうだった。


「こんな所で二人でこそこそと……。いったい何を企んでるんだい?ボクも混ぜておくれよ◆」


抑揚のついた独特の喋り方も話す内容もいつものヒソカと変わりなかったのに、どこか苛立たしそうだと思ってしまったのはなぜだろうか。

「ねえ。何でここにヒソカがいるの?連れてきた覚えはないんだけど。」

イルミが不機嫌そうに言う。確かイルミは「知り合いをプルゥースト公国まで送る」と言っていた。もしかしたら、この「知り合い」はヒソカだったのだろうか。

「電話の後、確かにボクは降ろされたよ、ゾルディック私用船からね◆でもね、その後すぐに飛行船をチャーターしてキミの後を追ったんだ♣」
「そのまま帰れば良かったのに。なんで来たの?」
「キミの様子が少しいつもと違ったからね♠イルミがボクに隠したがる事って言えば、弟の事か後は……」


そこで言葉を切ると、ヒソカは私の方をチラリと見た。


「クック◆ビンビン感じちゃったのさ、これは何かあるなって♣」
ヒソカは舞台俳優のように大袈裟な足つきで、私とイルミの間に割って入った。
「そう言うのは普通、ピンと来たって表現するんじゃない?まぁどうでもいいけど。」
「流石はボ・ク。予想通り◆」
そう言ってイルミの肩に腕を乗せたヒソカに、イルミはじとりと視線を送る。
「ヒソカってホント人の話聞かないよね」
はぁと溜息をついてイルミはその腕を振り払った。
「ボクを除け者にして、二人きりでナニをしようとしたんだい?」
イルミの邪険な態度を物ともせず、ヒソカは言葉を続ける。
「ヒソカじゃないんだから何もしないよ。あえて言うなら暗殺だよ暗殺。組織の抹消依頼があったの。」
「依頼?ミズキからかい?」
「そうだよ?」


やけに絡むヒソカに不機嫌そうなイルミ。相変わらずこの二人は仲が良いんだか悪いんだか訳が分からない。二人の会話を聞きながらそう思うも、しかしながら一緒にいるということは仲が良いのだろうと私は勝手に結論づけ、二人の側に行った。


「まぁまぁお前ら、喧嘩すんなよ。なぁ……ヒソカ、オレ達は今からあそこに見える『ビターラッドファミリー』っていうマフィアンコミュニティーをぶっ潰すつもりなんだけど。ヒソカはどうする?手伝ってくれんのか?」
「もちろんさ♣」

ヒソカはにっと目を細めると、私とイルミの間にぐっと身体を捻じ込んだ。今日のヒソカはやけに私とイルミの間に入りたがる。私が親友のイルミの側にいるのが気に食わないのだろうか。そうは思ったが、それはこれからの大事の前に取るに足らない事だったので、私は突っ込みを入れるのをやめた。

イルミ=ゾルディックと奇術師ヒソカ。私の知る限り最強の二人が揃った。これ以上心強いことはなかった。もう、アマンダを取り返したのと同じだった。

私は「サンキューな」と言ってヒソカの胸元を拳でトンと叩くと、「よっし、いっちょぶっ潰しに行きましょか!!」と二人に声を掛けた。


上弦の月が私たち三人を照らし、薄暗い路地の道に長い長い影を作っている。風がさあっと吹き、甘い臭いを屋敷から運び込む。次の瞬間、そこに三人の姿はなく、地面を蹴る足音だけが静かに響いていた。



貴方は私の希望。
貴方は私の救い。
貴方は私の光。

待っていてください、私が助けるその日まで。
生きていてください、私と再び会う日まで。

必ず必ず見つけ出すから。
必ず必ず会いに行くから。
必ず必ず助け出すからーー。


あの日沸き上がったこの思いが、実現するまであと少し。
この時の私は疑いもせずにそう思っていた。


それがとんでもない間違いだったと気づいたのは、全てが終わった後だった。




→→あとがき



[ 13.夢と現の交錯点 6/6 ]



この章を持ちまして第二部終了です。夢主の「過去」と「現在」、そして「夢」と「現」が一つに重なった章でした。いかがでしたでしょうか? 次はアマンダさん奪還を目指す『女神奪還編』となります!



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