18





暗い闇が続いている
歩いても…歩いても…歩いても…歩いても
出口は見つからない

私をとりまく闇たちが
足音もなく忍び寄り
私をぐずぐず溶かしてゆく


殺セ殺セと追い立てながら



ヤメテ もう ヤ メ テ
殺したくない 殺したくなんかないの
モ ウ 嫌ダ 嫌ダ 嫌……嫌なの
誰 カ   助 ケ テ



貴方の声だけが私の道しるべ
気が狂いそうな闇の中
私は声を頼りに歩き出す

貴方の声だけが道しるべ
声を頼りにまた歩き出す







4.破裂寸前の心




「もうやめて!!こんなのもうたくさんだよ……やめて……。」


まるで鈍器で殴られたような痛みが絶え間無く続いている。あの女の人の悲痛な叫びが頭の中でガンガン響いて、痛みと苦しさで吐き気がした。


ーーーそう、今日も私は夢を見ていた。もう何度見たか分からない、ボンキュッボンの黒髪美女の出てくる18禁のエロい夢。今日もあの姉さんはベットの上で男の人と一緒にいて、今日も私は幽霊みたいな存在になってその上空に浮かんでいた。


「ううう……嫌だ…やめて……うう……くそ……」


いつもと同じただのSEXなら、いつものように見て見ぬふりをして過ごす事も出来た。だけど、今日のは見ていられない。怒りが心の底から湧き出してカーッと頭が熱くなる。



憎い
憎い
憎い
あの男たちが憎い




怒りと憎しみで目の前がチカチカとした。


「ぐっ………ひゃぁ……やめて……や、めて……」


途切れ途切れにしてお姉さんが懇願の声を上げる。強引に剥ぎ取られた衣服。紐で縛られた腕。乱暴に掴まれた髪。頬に出来た青い痣。今お姉さんは、三人の男から暴行を受けていた。


「おらっ、てめぇ、ドコの組の者だ!?」
「女だからって手を抜くと思ったのかぁ、ぁあん?」
「ぐふっ……やめて…私、何にも知らないわ…やめて、本当よ。」


凌辱する男達への強い嫌悪感と燃えるような激しい怒りが、私に中に流れ込んでくる。ハァハァハァと肩で息をして心を落ち着けようとするけれど、腸が煮えくり返るような強い怒りに、手がぶるぶると震え出した。


「こ、殺…してやる……殺してやる、殺してやる!!!」


今ここに鈍器があったなら、私は間違いなくこの男たちに殴りかかっていただろう。それくらい私の怒りは激しかった。今まで感じたことがないくらいの激しい怒りーーーでも、私はもうこの感情が自分の感情で無いことに気づいていた。

親友の由紀に「あんたはもっと自己主張するべきだよ!怒る時はちゃんと怒って言うべき時にはちゃんと言わなきゃ!!」って諭されるくらい怒りの感情の薄い私に、あんな人を殺したいと思うほどの強い怒りが生まれるはずもなかった。感受性が豊かだとか、同一視をしているとか、そんなレベルの問題じゃない。あのお姉さんが自分なのか、自分があのお姉さんなのか分からなくなる程の強いソレーーー


今私が感じている感情は、"あのお姉さんが感じている感情"ーーーそれに間違いがなかった。


「ぐふっ……うう……」

お腹を蹴り上げられお姉さんが呻き声を上げる。蛙みたいな顔をした男がそれをいやらしい目で舐めるように見ている。

「ほぉ〜ら、サッサと吐けよ。そうすれば俺らが後で気持ちよーくしてあげるからさぁ〜。」
「ギャハハハハ、その通りだぜ、姉ちゃん!」

男は不細工な顔にお似合いな下品な笑い声を上げて、お姉さんの豊満な胸を形が変わるほど強く揉みだした。ぶち殺したい。臭そうな舌でお姉さんを汚していくこの男を八つ裂きにしたかった。


でもーーー、私はそれをしなかった。周囲に干渉できないからじゃない。近くに鈍器がないからでもない。屈していないーーーこんな状況でありながらお姉さんはこの男達に屈していない、それが分かっていたからだった。



『負けるもんか!!』という強い想いが私の胸を撃ち抜く。体が身震いするほどのその感情に、お腹の底がカーッと熱くなる。


『お姉さんは決して折れていない』


怒りと嫌悪感に隠れているけれど、確実に存在するお姉さんの闘争心が、じわりじわりと強くなってゆく。体の底から力が湧いてくる気がした。

ーー何か勝算がある。

確証があったわけじゃないけれど、なぜだかそんな気がした。


「私……本当に何も知らないのぉ。許して、お願いだから……。」


お姉さんが弱々しく項垂れて懇願の声を上げる。腰から足への曲線美が美しい。血と傷にまみれてもなお美しいお姉さんの体を見て、男たちが唾をゴクリと飲んだのが分かった。

「私、なんでもするから……だから、お願い……もう殴らないでぇ……」


ウッ、クッ、グスッ、と嗚咽を鳴らしながら涙をポロリと流す 。顔にはらりとかかった黒髪がなんとも色っぽい。お姉さんはそばにいたゴリラ顔の男の足元にすがり、助けを請うようなでも色気に溢れた瞳で男をジッと見上げた。


「何でもいうこと聞くからぁ……お願い、します……」


お姉さんの色香に当てられたのか、ゴリラ男はペロリと舌なめずりした。

「ははっ、何でもするってよ。どうする?」
「そりゃーもちろん決まってるっしょ!」
「ははっ、じゃぁ、お前は今から俺らの性奴隷な。ぶっ壊れるまでヤってやるよ。」
「俺らのチンポでズコズコバコバコ犯してやるぜ!」
「くへへ、口も尻穴も穴という穴を全部塞いでやんぜ。」


これから三人の男に犯されるだなんて恐怖以外の何者でもないのに、お姉さんからは『してやったり』という歓喜の思いが伝わってきた。もしかして、これは何かの作戦なのだろうか。


「おら、しゃぶれよ!口と舌だけでなぁ〜。」


フヒヒ、と笑いながらゴリラ男は自身のアレを取り出した。私の目が腐るんじゃないかってくらいの汚いアレで頬をペチペチと叩かれ、お姉さんからは「こいつ殺したろかー!!」ってくらいの強い怒りが流れ込んできた。けれどお姉さんは顔にはそれを出さないで、素直に男のモノを口に含んだ。


その途端、私の胸がチクッと傷んだ。この感情は、たぶん、罪悪感。勝手な推測だけど、このお姉さん好きな人がいるんだと思う。何か事情があるとはいえ、こんな奴等の言いなりになるのは悔しいだろうな。私は唇を噛み締めた。


その後どれくらいの時間が経っただろうか。


お姉さんは三人の男にかわるがわる犯されていった。欲望のままに陵辱されるお姉さんを見るのは苦しくて辛くて堪らなかったけど、私はお姉さんを信じてそれに耐えていた。

ーーとその時、お姉さんが男たちに見えない所で小さく口を動かした。
「やっと発動条件が揃った」と。


「え?発動条件?」と私が理解するより先に、お姉さんが大きな声で叫んだ。


『【吸い尽くす生命力(バキューム・オーラ)】!!!』



その声と同時に、男たちの体からモヤモヤした湯気がぶわりと立ち上ぼり、お姉さんの下腹部にギューンと吸い込まれていった。竜巻のようなその風に、私は思わず目をつぶる。


ーーー今のなんだったの……?


風がおさまった頃に目を開けると、状況は一変していた。さっきまで性欲ムンムンで、脂ぎってんじゃないかと言いたくなるくらい目をギラギラさせていた男たちが、膝をついて固まっていた。何があったんだろうと、訝しげに思いながら男たちを覗き込む。


「え……なにこれ……」


男たちの顔からは、生命力やハツラツさというものが消え去っていて、三人とも一様に10歳も老け込んだような顔になっていた。


「え、何この状況…?……えっと……お姉さんが叫んで、男たちから湯気がブワッとでて…それで、風が吹いたと思ったら……。まさか、お姉さん何か吸ったの!?」


理解の追いつかない状況だったけれど、これがお姉さんの作戦でお姉さんはこの時を待ってジッと耐えていたんだということだけは分かった。


「あぁ!さすがお姉さんだ!!!」


この大どんでん返しの活躍劇に、私は思わず手を叩いた。お姉さんに聞こえていないのは百も承知だったけど、称賛の拍手を惜しみなく送った。



どこからともなく風が吹き始め、私の髪がサラッと揺れた。ああいつもの風だ。いつものお姉さんのSEXが終わった後に吹く風。この風に耐えて、次に瞼を開ければ私の部屋に帰れるんだ。いつもと違う展開でビックリしたけど、いつも通りの変な夢。少しだけリアリティがあって、少しだけ感情が揺れ動くだけのーーーただの夢。


そう思いながら、私はこれからくる突風に備えて体を強張らせた。




ただの夢、いつもと同じただの夢
私は繰り返し繰り返し呟いた


精巧過ぎる家具と部屋
リアル過ぎる音と臭い
胸を貫く熱い衝動

自分の経験からは
決して生まれ得ない
数々のソレらに蓋をして、私は呟く



これは夢だと、何度でも







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