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「私は、私は――」

ミズキの口から声が絞り出される。しかし、その先は口をパクパク動かすだけで言葉になっていない。

その様子から、ヒソカは心は決まっていながらも理性がその先を言わせないのだろうと感じた。当たり前だ、彼女を求めるその道は破滅の道。行き着く先は死しかないのだから。

「ねえ、ミズキ」

今から自分がする事はミズキをより苦しみへと追い立てるもの。そうと分かっていながらヒソカはそれをせずにはいられなかった。あの男の場所には行かせない。灼けつく業火がヒソカを駆り立てる。

ヒソカは手元のカードをしまい、ミズキの背後へと回り込んだ。

「ボクは思うんだ。彼女が生きているか死んでいるか。それってそんなに大事な事なのかなって」
「何を言って――」
耳元で囁くと、ミズキの目が驚愕で見開かれた。
「よく考えてごらん。キミがしたいことは何だい?」
「何って、彼女を取り戻す……」
「それは彼女を取り戻せば全て終わることなのかい? キミの大切な彼女を陥れ、苦しめ、汚した存在を放っておく事になっても?」

ミズキはおそらく彼女を助ける事と敵を倒す事をイコールだと思っている。しかし、物事はそう簡単には進まない。ビターラッドの襲撃の件が良い例だ。ミズキは何かしらの核心を持ってビターラッドの襲撃を決めたが、そこに彼女の姿はなかった。つまり、糸を引く者と実行する者が複雑に入り乱れているという事だ。彼女を取り戻しても、裏で糸を引く者に辿り着けない可能性もある。

「大事なのは彼女を取り戻す事でも、もちろん彼女の生死でもない。そう、尊厳だ。これを取り戻さない限り、もし彼女の身体を取り戻したとしても、キミの大切な彼女は汚されたまま。キミは命よりも大切だな彼女が汚されたままだなんて、そんな事許せるのかい?」


ミズキは彼女を大切に思っている。それは一般的な敬愛の類を超え、信仰の域に達し始めている。ミズキは彼女が幸せであるのなら一生会えなくなっても構わないと、にべもなく言うだろう。ミズキの本質は、彼女と共に過ごす日々を求めてはいない。

「彼女の幸せは何だい? キミに会う事かい? キミと変哲のない毎日を過ごす事かい? 尊厳を傷つけられたまま? 見えない恐怖に怯える日常を過ごすことになっても? キミは本当にそんな事を彼女が望んでいると思っているのかい?」
「そ、れは……」
「ズダボロにされた尊厳を抱えながら生きる彼女を見たいのかい? 笑顔の裏に隠された苦しみを見ないふり気づかないふりをしてキミは生きるのかい? ……キミが本当に望んでいるのはそんな事ではないはずだ」
ミズキは押し黙った。ヒソカはさらに言葉を続ける。
「昨晩、キミはビターラッドのボスの部屋で正気を失っていた。その事からボクはてっきりキミはあの場で彼女の死を知ったのかと思っていた。……けど今、キミは彼女を生き永らえさせるための支払いを済ませている」
ミズキのポケットからはみ出ている書類にわざとらしく視線を落とす。
「ミズキ。キミは今、彼女が生きているか死んでいるか分からない状況にいるんじゃないかい?」
「そ、それは――」
「生きているか死んでいるか分からないあやふやな状況。だからこそ、心では求めていながらも踏ん切りがつかない。その先の一歩が踏み出せない。違うかい?」
推測にしか過ぎなかったが、おそらくミズキの様子からして真実だろう。
「でもね、よく考えてごらん。彼女が生きていても死んでいても、ミズキ、キミのする事に大きな違いはないんだよ」
「違いが……ない?」
「そう。もし彼女を生きたまま取り戻したしても、キミは彼女の尊厳が汚されたままでは心穏やかではいられない。そしてもし彼女が既に死んでいたとしてもキミは心穏やかではいられない。大切な彼女を陥れ、苦しめ、汚した存在を許す事が出来ないからだ。そうだろ?」
「……」
「ねえ、ミズキ。もし今一度彼女と会う事があって……それがこの世なのかあの世なのかは別として――キミは今のこの状態で胸を張って会うことができるかい?」
「……あの世? 会う?」
「そう。実は僕はねえ、あの世の存在ってのを信じているんだ。キミは死んだ後、天に昇り、あの世で再び彼女と出会う。待ち焦がれた瞬間だ。一歩ずつ近寄り、互いに手が触れ合う距離まで行き、そして、キミは立ち止まる。彼女の顔を見て、だ。……ねえミズキ、おのれ可愛さに自分を裏切った人間を目の前にして、彼女は何を思うんだろうね?」

あの世での再会。それは明らかな嘘だった。ヒソカは死んだ後の死生観など持ち合わせていないし、死んだらただの塵となると考えている。しかし、ことミズキに関しては「あの世で彼女に会う」という死生観は有効に思われ、事実ミズキは今までのどの言葉よりも強く反応を示していた。

「い、嫌だ……。アマンダに嫌われるなんて嫌だ……」
「クク、そうだろうねえ。……さて、ミズキ。ここにトランプのカードがある」

ヒソカは手元からトランプ一式を取り出し、右手から左手へとパラパラパラと高速で移動させる。

「この一枚のカード。そう、ジョーカー。キミの大切なアマンダを陥し入れ、苦しめ、汚した存在だ。これは、依然としてこの世に存在し、今もなお息をし続けている。キミはこの存在を許す事が出来るのかい?」
「――許せるわけないだろっ!!」


ミズキの瞳は真っ赤に燃えていた。やっと、やっとだ――。ヒソカは震え立つ心を抑えつけてミズキに向き合う。

「では、改めて問おう」
ヒソカは再び三枚のカードを取り出した。赤・黄・青の三枚のカードだった。
「キミの『赤』はなんだい?」

その問いかけに、もうミズキが口ごもる事はなかった。

「決まっている! アマンダを陥し入れ、苦しめ、汚した存在を――アマンダの尊厳を奪った人間をぶっ殺す! アマンダが生きているだとか死んでいるだとかそんなの関係ねえ!! オレの命尽きるまでそいつを追いかけ探し出してぶち殺す! それがオレの『赤』だ!!」

ミズキは一息で言い放った。そこに迷いの一欠片もなかった。
――勝った。ヒソカはクロロのいるガラナス山に意識を向けた後、笑った。

「そう……それでこそ、ボクのミズキだ――」

ミズキを叩きつけ、二度と後戻りできない道へと進ませてしまった。ミズキは今後一切自分の命を顧みる事なく進み続けるだろう。例えそれが死に繋がるとしても、だ。
もう昔の関係には後戻りできないだろう。あの山で笑い合う事もじゃれ合う事もないだろう。今後確実に訪れるであろうその未来に、ヒソカはまつ毛を震わせた。

「ミズキ……」

ミズキの手へとヒソカの手が伸ばされるも、その手は途中で止まり何も掴まないまま元の場所に戻された。

「それじゃあ、行こうか」
いつもの声色に戻ったヒソカがミズキの腰に手を回す。
「はぁ!? 行くってどこに?」
「ヨークシンだろ?」
「何でオレが行くこと知ってんだよ……つーか、お前もヨークシンに行くのか?」
「あれ? 言ってなかった? ボクもヨークシンに用事があるんだよ」
「聞いてねぇーよ!!……まぁ、アレか。この時期世界中のならず者がヨークシンに集まるからな……お前がヨークシンに用事があるっつーのも、当たり前のことなのかも……な」

一人勝手に納得するミズキを横目に、「電話を盗み聞きしていたなんて言えないな」とヒソカは思った。

「ボクの予約した飛行船はVIP専用なんだ。キミが乗る予定の船より数段良い船だよ?」
「なんで、お前と一緒に行く事になってんだよ!」
「嫌かい? 旅費はボクが持つし、五つ星料理が食べ放題だよ?」
「え!?いや、まあ……そんなにヒソカが言うなら、別に一緒に行ってやってもいいけど。つーか、手を離せ!何勝手に腰に手を回してんだよ!」

腰を掴まれた状態でミズキはバタバタと暴れ、ミズキの右手にはめられた腕輪がヒソカの頬を擦り、赤い傷を作った。

「あ、ごめっ……」

申し訳ない顔で謝った後、ミズキは右手にはめられている腕輪へと視線を落とし、唇をキュッと噛んでから、決意した瞳で顔を上げた。

「ちょっと付き合ってくれ……」

そう言ってミズキが向かったのは、ストックスを縦断する大きな水路の橋だった。横道から下水道の濁った水がレンガ造りの時代を感じさせる水路へと排出されている。
ミズキはポケットから取り出した紙をビリビリと破いて空中へと投げると、右手首から腕輪をそっと外した。

そして、ほんの一瞬だけ、あの時クロロの前でしていた心露わな顔をした後、ミズキはそれを水路へと放り投げた。太陽の光を受けてキラキラと輝きながら放物線を描いたそれは、視線の先でポチャンと小さな水音を立てた。

「……もう、いいぜ」

振り向いたミズキは太陽を背負っていたせいで影を作っており、どんな顔をしているのかヒソカには分からなかった。

「今のは何だったんだい?」

ヒソカはその行動の意味を知りながら、ここで何も聞かないのは逆に不審に思われると思い、問いかけた。

「別に、お前には関係ねえ事だろ、気にすんな」

ぶっきらぼうに帰ってきた言葉はヒソカの予想通りのものだったが、今はとにかくミズキが腕輪を捨てたという行動に意味がある。ミズキはあの男と決別し、そしてヒソカの手の元に転がり落ちてきた。それは紛れも無い事実である。

「さあ、行こうか、ヨークシンに」

ヒソカは大げさにポーズを取ってミズキを出迎え、その腰に手を回した。ミズキに嫌がる素振りはなかった。それなのにヒソカは胸に広がる不安を拭い去ることが出来なかった。

あの男がチラつく――。

ヒソカは後手にトランプを一枚取り出すと、ミズキが腕輪を投げ捨てた水路へとトランプを飛ばした。白いカードが、八月の青空を切り裂いて消えていった。







ヒソカがミズキを陥れている同時刻、駅前の高層タワーのホテルの一室で、一人の男が紫煙をくもらせながら、電話で誰かと話していた。

「……ええ、先ほどあのガキは帰りました。ええ、ええ。……様子、ですか? いつもと変わりませんでしたよ。終始生意気な目つきで私を睨んでおりました」

ジョンはソファの背もたれに寄り掛かりながら、自分で淹れた紅茶を喉の奥に流し込む。

「それにしても今日は妙ですね。わざわざあのガキに、前もって電話を入れろだなんて……。あのガキは時間にはきっちりしている奴ですよ?」

今日の指示を訝しげに思ったジョンが電話の主にそう問いかけると、電話の主は数秒何かを考え込んだ後、「実はな……」と重々しげに言った。

『昨晩未明に、ビターラッドファミリーが襲撃を受けたのだ』
「襲撃、ですか?」
『ああ。しかも、全滅だ』
「全、滅?……でも、あそこはそう簡単に潰されるほど弱くはないですよ、戦闘員の数も手にしている重火器の数も警備の厳重さも、この界隈では飛び抜けていますよ、一個小隊レベルじゃないと……」
『それが、襲撃者は依然として不明らしい。監視カメラのデータもない、目撃者もいない、そんな状況なため、地元の警察はおろかあの界隈の連中も敵対勢力の襲撃だと思っているらしい。しかしね、私はこれがゾルディックの仕業ではないかと思っているんだよ』
「ゾルディックですか!?……も、もしやまち針みたいな銀色の武器が現場に落ちていたのですか?」
『ほう……よく知っているね』
「いや、以前そのような話を小耳に挟んだだけです」
『そう、噂話の域を出ないがね、ゾルディックの一人にそういった武器を使う人間がいると、まことしやかに言われているだよ。だが、君に伝えたいのはその事ではない』
「……と言いますと?」
『子供のね、足跡があったみたいなんだ』
「子供、ですか?」
『子供もしくは小柄な女性の、成人男性の足跡とは思えないものが現場にはあったそうだ』
「も、もしや……あの子供がやったと仰るんですか!?」
『可能性の一つとしてあり得ない話ではない。あの組織はアマンダが昔所属していた組織だからねえ。彼女に繋がる情報はことごとく消し去っているが、何かの拍子でそれを知ってゾルディックに依頼していたとしてもおかしくはない』
「しかし、ゾルディックは法外な料金を取る上、普通の人間なら連絡を取り付ける事さえ困難なのに……」
『この間あの子供がした仕事の一覧を見せて貰ったが、時間と金とコネを使えば、辿り着けないことも無いだろう。それに、今私たちに払っている七百万ジェニーをこの先十年二十年とゾルディックに支払い続ける覚悟があるのなら、金の問題も解決できる。まあ、あの即払いを原則とするゾルディックに分割払いの交渉が出来れば、の話だけどね』


男は電話口で「ふっふ……」と笑い声を零した。それは地面でのたうち回る姿を高台から見下ろして楽しむような、絶対的強者の立場にいる人間の笑いであった。


『本当に興味の尽きない子供だ。ふっふ……ハワード君、あの子供を必ずヨークシンに送るんだよ……』


その言葉を最後に電話は切れ、ジョンは短くなった煙草の火を灰皿に押し付けた。眉根には「あの子供にそんな価値があるのだろうか――」、そんな不可解さが深く刻まれている。

ジョンは息と共に煙を吐き出し、ホ遥か眼下に広がる、今頃あの子供がいるであろうストックスの街を、ホテルの窓から感情の無い瞳で見下ろした。




山際へと沈む太陽が紅色の光を放つ頃、クロロ=ルシルフルは石畳の道を駆けていた。右手には金色の円環が幾重にも重なった羅針盤。その目には焦りと苛立ちがちらちらと見え隠れしていた。

突然の電話にミズキが様子を豹変させてから六時間が、ピクリとも場所を動かなくなってから三時間が経っている。その間、クロロは何度もミズキの元に駆けつけようと思ったが、裏の世界に住む人間は己の取り引きに他人が介入する事を嫌うので、ミズキを裏の世界の住人、あるいは裏の世界に片足突っ込んでいる人間だと見抜いているクロロは、いくら動揺を隠せない相手との取り引きとはいえ他人である自分が介入する事は礼儀に反すると思ったのだった。

もちろん、腕輪と羅針盤がある限りミズキを見失う事は無いという考えもあるし、連絡先を渡した以上、向こう側から連絡をさせたいという恋愛駆け引きの思惑もあった。

しかし、羅針盤の針に従ってやってきたクロロが目にしたのは壁面がレンガで造られている古ぼけた水路で、さらに針の示すままに水路を下りると、壁面にへばりついている金色の物体を見つけた。ミズキに渡したはずの腕輪だった。

「あの、男……」

クロロからぞわりとオーラが立ち上る。出っ張りか何かのせいで壁面にくっついていると思われた腕輪は、クロロの見覚えのあるもの――ヒソカのトランプで縫い止められていた。ご丁寧に持ち主が分かるよう、たっぷりとオーラが染み込ませてある。

クロロの脳裏にパナトニア共和国に到着して直ぐの日のことが浮かぶ。あの日、シャルナークと連れなって腕輪の位置を調べている最中、クロロはヒソカに出会った。ただの偶然かと思ったが、あの時のヒソカはやけに羅針盤に描かれた紋様を気にしていた。
そして、昨晩見た監視カメラの映像。あのシルエットは間違いなくヒソカだ。そう、ヒソカとミズキは前々から何らかかの関係があったのだ。間違いない。

「オレの存在に気付いて、慌てて奪いにきたってところか。……待っていろ、ヒソカ。お前なんかに渡しはしない」

額に巻いていた白い包帯を外したクロロは、もう人の良さそうな好青年の顔はしていなかった。真っ赤な夕陽に照らされた横顔には、まるで闇のように底のない真っ黒な瞳と、目の合ったものを震え上がらせる鋭い眼光、そして、何者も恐れない不敵な笑みがあった。

クロロは、A級賞金首『幻影旅団』の団長、それ足らしめる男の顔で、紅に染まる街路を振り向きもせずに歩いていった。コツコツコツ……と靴の音が、やけに大きく響いていた。





クロロがストックスの街を去ってから数時間後、パドキア共和国のククルーマウンテンへと帰り着いたイルミは、仕事の報告がてら向かったシルバの部屋で、新たな仕事を言いつけられていた。


「え、ヨークシン?オレが?」

小首を傾げたイルミの目の前にいるのは、波打つ銀色の髪を持つ筋骨隆々な男、シルバ=ゾルディック。イルミの父親であるシルバは、イルミよりふた回りも大きい体を持っており、黙っていても放たれる威圧感は獅子を想像させた。

「そうだ。オークション期間中、毎年何かしらのゴタゴタがあるからいつもオレか親父かがヨークシンに向かっていたが、今年は仕事が詰まってて動きが取りづらい。何か大きな仕事が入るようなら別件をキャンセルしてオレたちも向かうが、特に何もないようなら……」
シルバはイルミの瞳を正面から見据える。
「オークション期間中のヨークシン界隈の仕事は、イルミ、お前がやれ」
イルミはパチパチと二回瞬きをした後、眉頭を不満げに歪ませた。
「確かミルがヨークシンに向かってるんじゃなかった?」
「……ミルキは何か個人的な用事で向かったと聞いている。あいつは馬鹿ではないが、オレや親父の変わりが出来るほどではない。だから、お前が行け」

数秒の沈黙の後、イルミは大きく息を吐いた。

「……分かった。それで、今のところ何件の仕事が入っているの?」
「現時点ではゼロだ」
「え、ゼロ?」
「だが、オークションハウス内では揉め事は起こさないと言いながら、毎年秘密裏に暗殺の依頼をしてくる連中のことだ、今年もくだらない揉め事が原因で暗殺を依頼してくることだろう」


それから一時間後、イルミは空の上にいた。ヨークシンへの旅路の支度は、既にゾルディックの優秀な執事たちが済ませており、イルミはただ飛行船に乗り込むだけで終わった。

既に夕食もシャワーも済ませており、イルミは自室にある窓際のソファに座り、ぼんやりと外を眺めていた。窓の上空には澄み渡った星空が広がっており、眼下にはまるで闇のような鬱蒼とした森が広がっていた。


「ヨークシンオークションか……。一度ミズキのところに様子見に行きたかったのに……。」


心持ち不貞腐れた顔でぼそりと呟くと、イルミは懐から携帯端末を取り出した。

「居場所を追跡――じゃない、メールを……」

言いかけてイルミの動きが止まった。

イルミの頭に浮かんだのは、昨晩の錯乱状態のミズキだった。針を使わないイルミの念は拘束力が弱く、何が原因で取れてしまうかは念を掛けた本人でさえも分からなかった。
まさか念を掛けて半日と経たない内に取れてしまったと夢にも思っていないイルミは、ミズキに悪影響を与える事を危惧してメールを送るのを止めたのだった。


「やっぱり無理にでもゾルディックに連れてくるべきだったな。」


ぼそりと呟かれた言葉は誰に届く事もない。同じくぼそりと呟かれた「ミズキ、会いたいな……」という言葉も、誰に届く事もなく、飛行船のごうんごうんごうん……という稼動音に消されていった。イルミの目は、遠く見えないはずのストックスの街の方へと向けられていた。


様々な思惑が入り乱れながらも、夜は刻一刻と更けてゆく。三人の男の一人の少女を巡る戦いは、ヨルビアン大陸へと場所を移し、さらに激しさを増してゆくのだった。


ヨークシンオークションの幕が遂に上がる。




→→あとがき&アンケート

[ 16.決意 7/7 ]


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