もうすぐで目的の部屋に着くという時だった。

ク「突き当たりを右に曲がって三番目の部屋だな。ばっちり覚えたぞ」

カルトは先ほどから何も言わず
ぼんやりとしたまま後ろについている。

ク「大丈夫か?体調でも悪いのか?」

カ「あ、いや」

クラピカが何かを言おうと口を開いた瞬間

ギィ。
扉が開く音がした。


ク「ん?」

何の気なしに扉が開いた部屋を見た。

カ「ああ、その部屋は」

まず最初にクラピカの瞳に飛び込んできたのは無数の人形だった。というかフィギュアだった。

ク「 な" 」

可愛い物も数が多いと恐怖を覚えるとはこのことをいうのだろう。

部屋の中が妙に薄暗いせいで
不気味さが強調されている。

ク(な、なんだ…ここ)

さっさとここから立ち去れば良いのだが
金縛りにあったかのように足が動かない。

以前テレビで見た怖い話を思い出したのだ。
人形のタタリというやつである。

ふと、部屋の中から何やらもぞもぞと音がした。

薄暗くてよく分からないが
もしかしたらあれかもしれない。魔物かもしれない。

ク(う、な、なんだここ!!動け…足!!動けぇぇー)


やがて、暗闇から人影のような物が現れた。


ク「ひっ」


ボサボサの髪
むくんだような腫れた顔
どてっ腹
青白い顔


「コフ ー 」


恐怖心を煽るだけのガラガラ声。
そいつはギロリとこちらを向いた。


ク「あ、わ…わわ」


何かに飢えたような鋭い目つきと、ばっちり目が合った。


ク「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」


クラピカは一目散駆け出した。




ミルキ「何あの子。新入りのメイド?」

カ「あ、ミルキ兄様おはようございます」

寝起きのミルキはいつにもまして、ハスキーボイスだった。





キ「はっ」

イ「キル、目が覚めた?」

ア「お兄ちゃん、大丈夫?」

キ「クラピカに…呼ばれた気が…」

イ「空耳だと思うよ」

キルアは未だにぐらついていた。
立てる気がしない。

クラピカが迷子になるだなんて日常茶飯事すぎて何も思わなくなっていた今日この頃だが、自分の家での迷子は本気で笑えない。

何しろ自分の家は異常すぎるくらい異常なのだ。
愛の鞭を与えてやらなければ息子達は育たんと妙にスパルタを気取る親父によって、忍者屋敷ですかというくらいにトラップが仕掛けられている。

クラピカほどの念の使い手ならばどうにかなるだろうということも分かっている。

しかしクラピカはミケに食べられそうになる直前に虫歯を数えていた。そのような彼を心配せずにいられる訳がない。

キ(クラピカ…大丈夫なの?)

冗談抜きで泣きそうだった。
カルトがついているから安心だ…とは思う。

しかしクラピカは足が速い。

一人でに走り出してしまえば
カルトじゃ追いつけないだろう。

キ「クラピカに何かあったら俺…どうすればいいの…」

イルミとアルカが傍にいようとも
弱音を吐かずにはいられなかった。

彼らが思っているよりも
キルアは深く落ち込んでしまっている。

キルアの落ち込みっぷりに流石のイルミも動揺しかけた時だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

不意に絶叫が聞こえたかと思ったら
バタンと音を立て、いきなり扉が開いた。

ク「キルアーーー!!!」

涙を浮かべたクラピカが部屋の中へと飛び込んできた。

キ「ク、クラピカ!!良かった、無事でうぶほぉっ」

クラピカが無事だったことに心から安心して
抑えていた何かが弾けそうになったと思ったら、いきなり強い力でしがみつかれた。
そのまま床に倒されて身動きが取れなくなる。

キ「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええーーーーーー///////」

ク「ひっく、ま、魔物が…魔物が、わ、わわ@#&☆※」

キ「ちょ、く、くらぴか!?どどどどどどどどうしたのいきなり(な、な、何これ!何この天国!!!ああもうよくわかんないんだけど神様仏様本当ありがとう夢ならどうか覚めないで!)」

ク「に、人形がたくさんいてな、その中から出てきた妙に丸くて青白くて鳴き声コフーで虚ろで鋭い目をした何かと目があってうわぁぁぁぁぁん呪われるーー!」

キ「こ、怖かったねそれ、無事で本当に良かったよ!(そ れってミルキじゃね?)」


ア「お兄ちゃん…良かったね。ぐすん」

感動の再会に瞳を潤ませるアルカ

イ「……」

死に物狂いで走ってきたと思ったら
いきなり弟にしがみついて騒ぎ出した金髪の姿を
イルミは黙って見つめていた。

キルアが嬉しそうにしているから問題ないはずなのに、何故だか面白くない。
どうしてキルアだけに飛びつきやがるのか。

しかも即座に。
こちらには目もくれないで。

ピカチュウを渡してやったのは誰だと思ってるんだ。

イルミは黙って金髪の襟を捕まえた。

ク「わ!」

無理矢理キルアから引き剥がす。

キ「何すんだよ馬鹿イルミ!」

イ「君が怯えてるのは魔物じゃないよ。うちのミルキを魔物呼ばわりしないでくれるかな。確かに役に立たないしオタクだけど今の時代はオタクにきゃーきゃーいう女の子だっているんだからミルにだって希望はあるよ」

ク「そうなのか?オタクはモテるのか?」

キ(イルミの奴、何さりげなく隣に座らせてるんだよ…)いらっ


ア「イルミお兄ちゃん…楽しそう!」

滅多に見ることのないイルミの生き生きとした姿(至って無表情)に

アルカは幸せそうに微笑んだ。

会話する二人の仲を裂こうと
イルミの隣からクラピカへと伸びるキルアの手をさりげなく阻害しているのは意外だけど

なんだかんだいっても青筋浮かべて殺意メラメラでバチバチ静電気を放っているキルアお兄ちゃんも楽しそう。

ア「あたし、クラピカさん好きだなぁ」

イルミお兄ちゃんもキルアお兄ちゃんも大好きなクラピカさんを、自分が好きにならない訳がない。


カ「結局辿り着けましたか。良かったです」

ア「カルト!」

ふと、クラピカの視線がカルトへ向けられる。
目が合った瞬間カルトの心臓がどきりと音を立てた。

ク「お前のおかげで私は戻ってこれたのだよ!礼を言うぞ」

カ「別に…。あなたのためじゃなくて…兄様達が心配するから…」

だんだんと顔が赤くなる。
何故だか金髪の顔を直視できなかった。

カ「とにかく目的が果たせて良かったです。それじゃあボクはこれで」

ク「何故だ?お前も一緒に遊べばいいだろう」

カ「何言ってるんですか、ボクは



イ「カルト、何で入り口に立ったままなの?」


カ「え?」


ア「そうだよ。早く入りなよ」

キ「カルトも一緒に遊ぼうぜ」

一瞬だけ、頭の中が空白になる。
再び金髪と目が合い、満面の笑みを向けられた。


カ「…………はい。」


いつも扉の外から眺めるだけだったこの部屋に
カルトは初めて足を踏み入れた。
ほんのささいなことなのに、その一歩がどうしようもなく嬉しかった。


カ「もしも再び来ることになって、あなたが迷子になったりしたら、またボクが案内してあげますよ」

テトリスでガチバトルを繰り広げる長男と三男
それを応援する四番目

白熱するバトルの最中、独り言のようにぼそりと呟いた。

金髪はきょとんとした表情を浮かべたが


ク「ああ、またお前達に会いに来るのだよ」

やがて優しげに微笑んだ。

その笑顔を目の当たりにして
顔が火照るのを感じたカルトは確信した。

この金髪
やっぱりただものじゃなかった


ーENDー

after words



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -