耳は良いが頭は悪い



「ごめん、実は僕、善逸のことが好きなんだ」

 ある日、同じ鬼殺隊で行動を共にしている名前に、泣きながらそう言われた。告白ってやつ。普段の俺なら喜び狂って、すぐ結婚を申し込んでいたと思う。だが、コイツは例外だ。

「……ごめん、俺、女の子が好きだから」

 そう、名前は男だ。今まで、男として一緒に行動してきた仲間だ。たまに、女の子のように可愛く見える時があって困惑することもあったが、俺は同性が恋愛対象ではない。女の子が大好きなのである。
 俺が断ると、名前は微笑んだ。しかし、大きな瞳からぽろぽろと溢れる涙は止まらない。

「そうだよね。善逸が僕みたいに女の子らしくない奴なんて、好きになるわけないよね」

 "女の子らしくない"
 その言葉に違和感を覚える。いや、そういう問題じゃないだろう。決して、振る舞いとかの問題ではないのだ。名前が女の子だったら正直全然イケる。イケてしまう。でも、君は男の子なんだ。そういうことなんだ。と、口にはしないが心の中で考える。

「正直、女の子だったら結構可愛いと思う」

 あ、これ絶対余計なこと言ったな。口に出してからそう気づき、名前の様子を恐る恐るうかがうと、なぜかきょとんと目を丸くさせている。涙は少し瞳に溜まっているものの、もう流れていない。

「えっと……善逸って性別とか、音で聞き取れないの?」

 そりゃできる。男女では身体の構造が異なる為、大きく音が違う。
 聞き取るのは、善逸にとって容易いことであった。

「……ん!?あれ、おかしいな」

 え、ちょっと待ってなにこれ。今まで気づかなかったけど、近くから女の子の音がする。音の方向は……一人しかいない。
 容易いことではあるが、音に気づかない──すなわち、馬鹿である。

「え、ちょっと待て……名前から女の子の音がするんだけど!?え!?」
「ごめん、てっきり音でわかってると思って……男装してること、言わなかった」
「えええええええええ!?」

 じゃあ俺、女の子に告白されてるのおお!?!?
 この俺が!?自慢じゃないけど、今まで散々女の子に振られ打たれたことしかないこの俺が!?女の子に……告白され!?

「てっきり僕が……私が女の子らしくない格好だから、ずっと男の子扱いされてるのかと思ってたんだけど……」
「いやそんなことないよ俺が気づいてなかっただけ!!正直俺名前のこと可愛いなって思ったりすることあったんだよねでも俺女の子が好きだから絶対気のせいだとか思ってさ!確かに女の子みたいにいい匂いするから戸惑ったことだってあったよね!なんで気づかなかったんだろう!ほんとに俺が馬鹿だったよ!だから俺と結婚してくれ!」
「お前絶対女の子だったら誰でもいいだろ」

 告白されたはずなのになぜか打たれた。







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