昨日の味方は今日の敵



※小説版「片羽の蝶」ネタ
※ガッツリネタバレ
※アニメ派の方は注意




 元音柱・宇髄天元による柱稽古が始まり、善逸が罵詈雑言を飛ばされながらめちゃくちゃにしごかれていたのが心配だったので、休憩中に、善逸の元へと向かうことにした。

「もういやだ!もういやだあああああ!早く帰って、禰󠄀豆子ちゃんの顔を見たい!癒されたい!」
「なっ?お、お前、まさか……恋人がいるのか?我妻」

 思わず足をピタリと止めてしまう。物陰から覗くと、地べたに倒れ込み、泣きながら悶える善逸の姿があった。

「ないな」
「うん、ない。絶対ない」

 周りの反応に、思わず笑いそうになる。まあ、あの姿を見たら誰もがそう思ってしまうだろう。更には、禰󠄀豆子ちゃんは妄想の脳内彼女だろうと言われてしまっている。そして周りの隊士達の脳内彼女──胡蝶様、恋柱様、蝶屋敷の継子の娘──と様々な名前が上がっている。
 これは、どう考えても女が入ってはいけない話だ。休憩が終わる前になんとか善逸と話がしたいが、いけるだろうか……。私は、この話が終わって落ち着くのを、物陰で待つことにした。

「いや、禰󠄀豆子ちゃんいるからね?蝶屋敷で俺のこと待っててくれてるからね?妄想とか言わないで!悲しくなっちゃうんだから!っていうか、禰󠄀豆子ちゃんじゃなくて──」
「いいんだよ。我妻」
「無理すんな」
「これ食うか?」
「元気出せよ」
「いやいやいや、そんなやさしい声で言わないで?禰󠄀豆子ちゃんはホントにいるんだって!きっと、次会った時には『おかえり、ぜんいつ』って俺の名前を呼んでくれるんだ!」

 終わる気がしない。
 この話はきっと休憩が終わるまで続くだろう。どうしよう。私も疲れているし、一人で休憩していようか──

「そんでもって俺は名前を娶って、毎日、寿司やうなぎを食べさせてあげて、綺麗な着物を沢山買ってあげて、末永く幸せに暮らすんだ!!」

 ──思わずドキリと心臓が跳ねる。

「うんうん」
「脳内彼女が二人もいるのか」
「脳内だからいいじゃないか」
「うなぎ美味えよな」
「俺らは、いつまでもお前の味方だからさ」
「ガンバ!」

 先輩たちのやさしい眼差しが、善逸に降り注がれている。どんだけモテないと思われてるんだ善逸は。あ、日頃の行いか。そう一人で納得してしまった。

「だから脳内じゃないって!名前は俺の恋人だ!」

 善逸がそう叫ぶも、周りの隊士達はそれを信じない。
 ──ホントのこと、なんだけどな。
 そう、私は善逸の恋人である。惚れた理由とか聞かれても、いつのまにか好きになっていたのだから仕方がない。というか、善逸の魅力は私だけがわかればいいし、私だけが知っていればいいのだ。

「というか、さっきから名前の音がするから近くにいるからね?脳内じゃないからね?」
「音?」

 思わずギクリとした。そうだ、あの人は耳がいいからこうやって物陰に隠れていてもバレてしまうのだ。バレていては仕方がない、とひょこりと顔を出すと、善逸はすぐに私の名前を叫びながら飛びついてきた。

「名前!会いたかったよおおおお!もう大変だよお!俺だけ名指しで罵詈雑言浴びせられてさ、竹刀でバシバシ叩かれるしさあ!」
「大変だったね、ヨシヨシ」

 さっきは禰󠄀豆子ちゃんの顔が見たいとか言ってたのに……と少し思いつつも、そう言って頭を撫でてやると、口元を緩ませながら余計にしがみついてきた。本当に嬉しそうで、可愛い。

「の、脳内彼女じゃないだと……?」
「たった今からお前は俺たちの敵だ」

 周りの隊士達の空気が変わった。先程のやさしい眼差しはどこへ行ったのか、みんな敵を見る目をしている。しかし善逸は誇らしそうな表情で、「ほら、言っただろ!脳内彼女じゃないって!」と主張している。

「塵共、休憩は終わりだ」

 宇髄が竹刀をバシバシ言わせながらやってきたおかげで、その表情はすぐに崩れることとなったが。







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