見守られてる



 善逸は私にだけ冷たかった──いや、冷たいというか、世間一般的に見たら普通の対応なのだけれど──善逸が他の女の子に接するときに比べれば、冷たかった。他の女の子にはデレデレと求婚するというのに。私にだけ、一切そういうことはしない。私は善逸が好きだ。きっかけはあまり覚えていないが、いつのまにか、そういう感情を抱いていた。私は彼のように耳が良くないので、恋に落ちた音には気づかなかったのだ。でも、こんなの失恋確定じゃないか。ある意味特別な存在ではあるが、ちっとも喜べるようなもんじゃない。
 私って、そんなに女の子らしくないのだろうか。私が女の子らしい、可愛らしい女の子だったら、結婚したいと思ってくれたのだろうか。そう炭治郎に溢してしまった時、困ったように「気にするな。名前は十分女の子だ」と言ってくれたけど、きっとただの優しさだろう。

「しのぶさん……」
「そんなに暗い顔をして、どうしたんですか?」

 ここは蝶屋敷。私、善逸、炭治郎、伊之助は、ここで機能回復訓練をやらせてもらっている。まあ、最近まで、善逸と伊之助は参加してなかったが。
 私は、いつでも笑顔で話を聞いてくれる、虫柱であるしのぶさんが大好きだ。地位が大きく異なると言うのに優しく接してくれるしのぶさんに、私はとても懐いている。

「どうしたら、女の子らしくなると思いますか?というか女の子らしいってなんなんでしょうか……」
「名前さんは十分女の子らしい方だと思いますが」
「そうですか……?じゃあ善逸が私を女の子扱いしてくれないのは、顔の問題ですかね!?」
「落ち着いてください。名前さんは可愛らしいですよ。自信持ってください」
「しのぶさんとお付き合いしたいです……」
「それはお断りさせていただきますね」

 わあものすごい笑顔で振られた。そんなことよりも、しのぶさんに(お世辞かもしれないが)女の子らしい可愛らしいと褒めていただいたことがものすごく嬉しい。

「もうそろそろ訓練の始まる時間ですよ」
「あっほんとだ!お話を聞いていただいて、ありがとうございました」
「いえいえ、またいつでも来てくださいね」

 柔らかい笑顔を見て、この人に一生ついて行こうかななどと考えながら部屋を出る。
 訓練場に行く前に、自室(三人と一緒の部屋でも良かったが、女の子だからダメだと強く言われ一人部屋になった)に向かうと、扉の前に善逸が立っていた。

「どこ行ってたのさ」
「しのぶさんのところに行って来たよ」
「ずるい!俺も連れてけよ!」
「やだよー」

 なんでだよお!と言う善逸。いや無理です貴方のこと相談してたんだから!なんて死んでも言えない。そう考えながら、自室に置いていた日輪刀を手に取る。

「そういえば、もうすぐ訓練始まる時間だよ?行かないの?」

 そろそろ始まる時間だ。訓練場にもう着いていてもおかしくはない。

「……名前のこと待ってたんだよ」
「あら、ありがとう。じゃあ一緒に行こっか」 

 そっぽを向く善逸にそう言うと、じゃあ行くぞと歩き出したので慌てて追いかける。
 あぁこの嬉しい!っていう感情も、善逸にはバレてるのかな。私の恋心は、本人になん筒抜けだろうな。それでも進展がないってことは……つまりそういうことだ。悲しいけど、でも、今のままでも幸せだ。
 こうして二人で歩く時間がもっと続けば良いのに。そう考えるが、訓練の時間は近い。

(いつになったらくっつくんだろう)
 二人で訓練場まで来たのを見た全員が、そう思うのであった。







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