推しに抱かれないと死ぬ!



※こちらは原作完結前に書いていたお話です。なので善逸が大人になった際に柱になっているという設定です。ifとしてご覧ください。




 気がつくと、見知らぬ部屋にいた。私が今まで何をしていたか、どこにいたかが思い出せない。一体私はなぜここにいるのだろう?そう思っていると、見知らぬ女の人が目の前に現れた。不思議と眩しくて、顔が見えない。そして、女の人は言う。

「貴方がこの世界で生きる為には、一番愛する人に処女を捧げなくてはならないの。急いで。この世界に繋ぎ止めなければ、貴方は消滅してしまう」

 言っている意味がわからない、と口を開けたときには、もうその女の人はいなかった。処女を捧げる?私が消滅?一体どういうこと?
 そう考えていると、いきなり部屋の襖がスパーンと音を立てて開けられた。

「大丈夫?怪我はない?」

 そこに現れた人物を見て、私は全てを理解してしまった。

 どうやら私は、鬼に閉じ込められていたらしい。そこを助けてくれたのが、目の前の金髪の男性である。私が無事なことを知り、良かったと微笑んでくれた。私は彼のことを、自己紹介されずとも知っている。だが、私の知っている彼よりも大人びて、背が高いのが気になるが……羽織の柄からして、間違いない。
 我妻善逸。
 ──トリップというやつだ。
 あの女の人の言っていた“この世界”すなわち“鬼滅の刃”の世界にトリップしてしまった私は、一番愛する人──つまり、私の推し──我妻善逸に、し……処女を、捧げなければ消滅、つまり死ぬ、というわけで……。いやいや、そんなことできるわけないでしょ。第一、今出会ったばかりである。顔の血の気が引いていくのを感じる。
 差し出された手を握ると、ぎゅっと握り返してくれた。そのまま立ち上がらせてもらうが、落ち着かない。これはどちらの手汗だろう。たぶん、いや絶対に私だ。

「顔色悪いけど、大丈夫?俺、家まで送ってくよ」
「あー……すみません、家ないので大丈夫です。助けていただいて、どうもありがとうございました」
「えっ、まってまって!これからどうするの!?」
「の……野宿」
「ダメでしょ!女の子なんだから!」

 そう言われてもあてがないのだ。あぁもうこれ、私死ぬしかないだろうな……。そう考えていると、彼は口を開いた。

「女の子にこういうこと言うのあれかもしんないけど……俺の家に来る?」

 え?



 お、お言葉に甘えて来てしまった……。

「お、お邪魔しまーす……」
「そんな緊張しなくても、何もしないからね!安心してくれていいから!!」

 いや、ナニかしてくれた方が安心できるんですけどね……今は……。なぜか焦っている彼に、そんなことをこっそりと思いながら、ローファーを脱いで上がらせてもらう。そういえば私、学校の制服だ。こんな見慣れないであろう格好の女を家に入れてくれるなんて……あ、まぁもし私が何かしようとしても、彼は強いから止められるか。
 案内された客室へ座ると、すぐにお茶を出してくれた。そこまで気を使わなくていいのに!と思うが、礼を言って飲む。美味しい。お茶をすすっていると、正面に彼が座った。そして、口を開く。

「とりあえず、名前聞いてもいい?俺は、我妻善逸」
「苗字名前です」

 聞かなくても知ってます、なんて言えるわけがなく……。大人しく名前を名乗ると、「名前ちゃんかぁ」と彼は微笑んだ。

「あ、我妻さんは……どうして私を家に?」
「善逸でいいよ!そうだなぁ……放っとけなかったんだよね。俺、人より耳が良いから、わかるんだ。そういうの」

 あぁなるほど……確かにあの時は死ぬほど怯えてたから、それが伝わったんだろう。鬼にじゃないけどね。

「それで思いついたんだけど……俺の家に住まない?」

 お茶を吐き出しそうになった。
 す、住む?何言ってるんだこの人は。危機感ってものがないの?

「俺は…… 名前ちゃんを攫ったような鬼を倒す仕事をしていて、自慢じゃないけど、偉い立場になれてさ。初めて自分の家を買ったんだ。でも……誰もいないってのはやっぱり寂しくて」

 偉い立場って……もしかしてこの善逸さん、柱か。柱なのか。

「結婚してくれ!って言ってるわけじゃないからね!俺、ずっと家族が欲しかったんだ。まぁ今まで女の子に振られ続けて……っじゃなくて!!とりあえず、家族になって欲しいとかじゃなくて…… 名前ちゃんには俺の帰りを待っていて欲しいんだ!」

 どうやら、柱になっても女の子からモテないことに変わりはなかったらしい。
 そういえば善逸さんは、騙されるってわかっていても女の子を信じて引っかかったりと、音に頼らず相手のことを信じようとする人だったことを思い出す。そう考えると、家のない見知らぬ女の子を住まわせる、というのは彼らしいかもしれない。

「お言葉に、甘えてもいいですか」

 そう言うと、善逸さんは「もちろん」と微笑む。推しが眩しい……!

「本当にありがとうございます、善逸さん!私……立派な家政婦になります!」
「家政婦!別に家事をしろとかそういうの言ってるわけじゃないよ?」
「いや、住まわせてもらうなら家事くらいやらせてください」
「そこまで言うならお願いしようかな」
 
 と、ニマニマしている善逸さん。
 家族が欲しい、その理由で女の子に“結婚してくれ!”とプロポーズする人だってことは知っている。だから、家族のような人ができて嬉しいのかな?なんて、勝手に解釈した。



 ターゲット……という言い方は悪いけれど、ターゲットと一緒に住むことができた。これはとても大きい進展だと思う。
 一つ屋根の下だからと言って、処女を……って流れにはならないけど。確かこの時代って、そういうものはすごく大事にされていると思うから、流石の善逸さんもそういうところはキッチリしている。
 突然の同居生活も、徐々に慣れていった。服や下着、布団は全て善逸さんが用意してくれた。そこまでしなくても!と思ったが、お金がなかったので素直に甘えた。本当に感謝しかない。そして、料理はうまくなったし、洗濯もだいぶ慣れた。洗濯機に入れてスイッチを押すだけ、ではない為、最初の方は一苦労だったけど。慣れってすごい。
 私の主婦スキルが上がった話はまあどうでもよくて、問題はどうやって、どういう流れで抱いてもらうかだ。……やっぱり、色仕掛け?

「名前ちゃん、ただいま」
「おかえりなさい、善逸さん」
「家に帰っても一人じゃない!やっぱり出迎えてくれる人がいるって最高だよ〜〜!!」

 ぜ、絶対無理!!
 善逸さんの姿を見て確信し、心の中でそう叫びながらも、「ご飯できてますよ」と言うと、善逸さんは喜びの声を上げながら着替えに行った。毎日喜んでくれるから、作りがいがあるもんだ。善逸さんのお嫁さんになれたら幸せなんだろうな〜と考えてしまって、頭をブンブン振る。別になりたいとかそういうのじゃない。そういうのじゃないんだから……!!と、自分に言い聞かせつつも、善逸さんに惹かれている自分がいた。もう画面の向こう側ではなく、目の前にいるのだ。徐々に“好きなキャラクター”から、“好きな人”に変わっていることには、流石に気がついていた。だからこそ、だからこそ抱いてなんて言えないのである!
 好きな人にそんなこと言うなんて、絶対無理……!この世界に来てからは主婦らしいことしかしてないが、これでも華の女子高生だったのだ。急に体の関係を求められるほど、精神が大人ではない。

「名前ちゃんどうしたの!?具合悪い!?」
「えっ?」

 気がつくと、部屋着に着替え終わった善逸さんが目の前にいた。

「話しかけても上の空だから心配したよ!大丈夫?」
「あ、ごめんなさい。考え事してただけなので、大丈夫です!」

 そう言うと、善逸さんは「よかった〜」とほっとした様子だ。私はくすりと笑いながら、「じゃあ、食べましょうか」と声をかけた。



 夜になり、そろそろお互いに布団に入る時間が近づいてきた。流石に男女なので、寝室は別にしてくれた。無駄に大きい家を買っていてよかったと善逸さんは笑っていたが、一緒の布団の方がなにかと都合が良かったかもしれない。
 なんて考えていると、善逸さんが声をかけてきた。

「ねぇ、名前ちゃん」
「どうしました?」

 善逸さんは元気のない様子だ。

「名前ちゃんはさ、俺と暮らすの……怖い?」
「えっ?どういうことですか?怖くないですよ」
「俺、耳が良いってことは言ったことあるよね。だから、人の考えてることがちょっとわかるんだ。心の声が聞こえて来るわけじゃないよ!でも、どういう感情なのかとかは、わかるんだ。名前ちゃん、よく考え事してる時……何か怖がってるだろ。やっぱり初対面の男といきなり住むのは、怖かったのかなって」
「そんなことないです!」

 私はすぐに否定した。

「善逸さんにはすごく感謝してます。初対面の、ここらでは見慣れない格好をしている私を助けてくれたんですよ。もう、感謝しきれないくらいです。そんな優しい善逸さんのことを怖がるわけないですよ!私が怖がってるのは……別のことです。……いつか、話します」

 流石に、まだ事情は言えない。
 私の言葉に、善逸は「良かった」と微笑んだ。

「いつか話してくれるのを待ってるね。じゃあ名前ちゃん、おやすみ」
「おやすみなさい、善逸さん」

 布団に入っても、しばらく眠れなかった。

 善逸さんと暮らし始めて暫く経った。仲は確実に深まったが、未だに抱いてもらっていない。消滅するまでのタイムリミットがわかれば気持ちも楽なのだが、全くわからない為少し焦っている。でも、やっぱり勇気は出なかった。今の私にできるのは、家事をこなすことだけ……。

「ずっと気になってたんだけどさ……」

 先程まで「美味しい!名前ちゃんの料理は最高だよーー!」と箸を進めていた善逸さんの手が止まった。

「どうしたんですか?」

 そう尋ねると、善逸さんは「それだよそれ!!」と言いはじめた。一体どうしたのだろう。

「俺たち、一緒に暮らし始めて暫く経つじゃん!?」
「え、はい」
「なのになんでまださん付けに敬語なの!?おかしいよね!?」

 なんのことかと思えば、そういうことか。

「えー、そう言われましても、癖づいちゃったし……」
「今日からそれ禁止だからね!敬語使ったら口聞かないから!」

 そこまで言うか、と思いつつも「わ、わかったよ善逸さん」というと、「さん付けもだめ!!」とうるさくなった。

「じゃあ、私のこともちゃん付けなしね?」

 そう言ってみると、「えっ!う、うん、名前……」と言いながら照れ始めた善逸さん。……えっ、なにそれずるくない!?そんな反応されたら、こっちまで照れてしまう。
 私は心臓がうるさくならないように、悶えるのであった。バレるわけにはいかないバレるわけにはいかないバレるわけにはいかない……!



「なんか、名前と結婚したみたい」

 二人ともご飯を食べ終えて、皿洗い中。善逸がふと、そんなことを言ってくるもんだから、お皿を落としそうになった。

「い、いきなりどうしたの?」
「だって!女の子と一つ屋根の下だよ!?俺はもう結婚したって錯覚してきたよ!」
「ただの錯覚だから!」

 あぁもう顔が赤くなるからやめて!善逸はこういうキャラだって分かってるのに!女の子だったら誰にでもそう思うくせに!
 一緒に暮らす上で、音で感情わかるとかチートだとしか思えない。今のところ特に善逸の態度が変わるわけでもないから、恋心は気づかれていないと信じているが。

「名前みたいな女の子を嫁に貰えたら、幸せだろうな〜」
「えっ」

 何気なく呟いたのであろう一言に、思わず顔が熱くなる。善逸もそれに気づいたようで、とても恥ずかしくなって顔を背けた。

「……べ、別に深い意味とかないからね?誤解だからほんとに。ほんとだからね」
「わ、わかってますよもう!」
「あーーー!敬語禁止って言ったよねー!」
「わかってるって!」
「わかってなかったじゃん!!」
 
 深い意味ないとか、わかってるもん。善逸はそういう人だもんね。そう考えると悲しくなって、それを誤魔化すように余計に騒いだ。







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