一生ですからね



蛇に睨まれた蛙、とはまさにこの状況を指す言葉なのであろう。
高身長で髪を結んでいる、"白"の方の彼に見下ろされ、足がすくんで動けなかった。そんな私が愉快だとでも言うように、フッと口角を上げる彼。細められた目から覗き込む、紫の瞳から目が離せなかった。きっと今の私は涙目で、情けない表情をしているだろう。逃げればいいと思われるかもしれないが、逃げ道など存在しない。飛び越える為の窓も板も、もちろん存在しないのだから。
だってここは、いつものステージではない。

「……な、なんで私の、部屋に……」

その言葉を、やっとの思いで絞り出した。
いつものゲームの最中なら、迷わず逃げてチェイスを開始するが、ここは私の部屋だ。普段ならハンターとサバイバーが出会うはずのない場所であるのに、どうして彼はここにいるのだろう。
彼は返事もせずに、じわじわと距離を詰めてくる。何か用があるのならすぐに口を開いてほしいものだ。
思い返せば、私は彼がハンターの中でも一番苦手だ。いつも、私のことを見る目だけ違うから。普段は鈍い私でもわかるほどに、妙に熱っぽくて──まるで愛おしい人を見るかのような目が、苦手なのだ。

「白無常さん、その、近いです。」

背後には壁。至近距離には白の彼。本当の本当に逃げ道などない。

「ナマエさん……」

口を開いたかと思えば、私の名前を呟きながら頬をそっと撫でてきた。ひんやりとした指先に、思わずびくりと反応してしまう。

「あの傭兵とは、仲が良いのですか。」

そして、こんなことを聞いてきた。傭兵、つまりナワーブくんのことだ。

「仲は、まぁ、良い方ですけど……」

仲は良いが恋愛とかではなく、お互い仲間として思い合っているだけなのだが……自分でこんなこと言うのは恥ずかしいが、白無常さんはきっと嫉妬……を、しているのだろう。

「ナマエさん、好きです。好きなんです。貴方が他の男と仲良くしているのを見ると、心が引き裂かれそうだ……」

そう口にする白無常さんの表情は悲しそうで苦しそうで、なんだか申し訳ない気持ちになる。それと同時に、あぁこのひとは本当に私のことが好きなのか、と実感させられて顔が熱くなった。

「白無常さん……」

彼を呼ぶと、紫の瞳と目が合って吸い込まれそうな感覚にくらりとした。
なんなのだろう、今のこの感情は。決して同情とかじゃなく、彼の想いに応えたくて仕方がないのだ。苦手だと思っていたはずなのに、どうしてこんなに胸が高鳴るのだろう。そう考えて、やっと気がついた。
──鈍い私が彼の視線の意味に気づくほどに、私も彼を見ていたのか。

「私も貴方のことが、好き……みたいです。」

そう口にすると、白無常さんは少し目を見開いた後に細め、嬉しそうに私を抱きしめた。

「ずっと私の側にいてください、ナマエさん……」

そう言いながらぎゅうっと私を抱きしめる力を強くした白無常さんと……なんだか一生、離れられない気がした。







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