新衣装(無影の陽)の話



朝起きて軽い身支度をし、朝食を食べようと部屋を出ると、ドアの前に箱が置いてあった。
──あぁ、新しい服か。
瞬時にそう理解して、箱を持ち上げる。こうして荘園の主、つまりゲームの主催者から服が届けられることがたまにある。主の気遣いなのか、詳細は不明だがこれを楽しみにしているサバイバーは多い。もちろん、その中に私も含まれている。
部屋に持ち帰って、どんな服だろうか?とワクワクしながら箱を開けると、後悔するなんてことは知らずに。




「ナマエ?もう朝食の時間が終わったわよ?」

コンコン、と綺麗なリズムで部屋のドアを叩かれ、そう言うエミリーの声が聞こえる。
しまった、朝食のことをすっかり忘れていた。今の私は、つい先ほど似合わないだろうと鏡で確認するために、新しい服を着たばかりなのだ。出る?いや、この姿は見られたくないし。でも心配かけちゃってる。どうしようか、なんて返事しようか。なんて考えているうちに、「開けるわよ」と声が聞こえて、あっと声が出る前に開けられる。

「ナマエ、起きてたのね。…あら、その服は」
「いや、これは…」

今の私は、新しい服を着ているわけで。当然、それはエミリーの目にとまる。

「新しい服、いいじゃない!」

エミリーは笑顔でそう言ってくれたが……。

「いや、メイド服だよ…?」

思わずそう口にする。
そう、新しい服がメイド服だったのである。確かにラック君もマーサもメイド服の服を持っているが、なんで私まで。需要がなさすぎる。褒めてくれるのはうれしいけど、これで人前に出る勇気はない。

「男にとっては最高だと思うわよ?」

そう言い、なぜかニヤニヤしているエミリー。それは可愛い子限定の話だって!!と心の中で叫ぶが、もちろんエミリーには聞こえていない。

「やっぱ恥ずかしいから着替えるね…」

思わずそう言うと、エミリーは焦ったように「もったいないわ」と言う。えぇー…と思いながらエミリーを見ていると、彼女はあっと思い出したかの様に口を開いた。

「そういえばナマエ、今日予定があるんじゃなかったかしら?」
「……ああ!!服のことで忘れてた!!」

エミリーのその言葉で、今日謝必安さんと会う約束をしていたことを思い出して思わず声を上げてしまった。普段なら、絶対忘れないのに…!!時計を確認すると、もう約束の時間だった。これはやばい…!急がないと!謝必安さんのことだから、きっと約束の時間の前にはもう待っている。
と、今すぐにでも走り出す勢いで部屋を出ようと思ったが、私は今メイド服を着ていることを思い出した。……この格好で、私は謝必安さんに会うのか…?この格好で…!?似合ってないと思われたらどうしよう。引かれたらどうしよう。でも、着替えている時間はないわけで。

「エミリー思い出させてくれてありがとう、行ってくる!」

女は度胸…だよね!エミリーは可愛いって言ってくれたし…ビクビクしてられない。お世辞の可能性とかは考えないでおこう!
そう心に言い聞かせて、待ち合わせ場所へと向かった。




待ち合わせ場所の近くまでついたは良いものの、早く顔を見せなければ…と思う半面、この格好を見てどう思われるだろう…と考えると性格上渋ってしまう。ただえさえ遅刻しているというのに…!そうハッとして、待ち合わせ場所まで走る。すると、見慣れた背の高い影が見えた。

「謝必安さん!遅れてごめんなさ…い…」

ごめんなさい、とうまく言えなかった。彼の姿に目を奪われてしまったからだ。彼もまた、「いえ、大丈夫ですよ。」と言った後、こちらを見つめたまま黙っている。
今の謝必安さんは普段の彼の衣装ではなく、見たことのないものだった。上品な金色と綺麗な透き通った空色が、彼の白を引き立ててとても様になっている。まるで貴族のような煌びやかさに、彼を目に焼き付けるように見つめる。ドキドキと胸が高鳴っているのは、ハンターが近くにいるからではない。

「ナマエさん…その服、とても似合っています。とても可愛らしい。今すぐ抱きしめたいくらいに。」

と、黙っていた謝必安さんが口を開いた。その言葉に、思わず顔が熱くなる。全く、この人は口が上手い!そう思いつつも、私には似合わないと思っていたこの格好を謝必安さんが褒めてくれたことが嬉しくて、頬が緩む。

「謝必安さんも、すごく…かっこいい。素敵すぎて…どう言葉にしたらいいのかわからないです…」

今すぐ抱きしめられたいくらいにかっこいい。そう思いつつ言葉にすると、心を読まれたかのように抱きしめられた。ふわりと謝必安さんの香りがして、腰に手が回される。まるで包み込まれるような抱擁に、心臓がはち切れそうだ。

「し、謝必安さん…」
「我慢できませんでした。」

そう言う謝必安さんの背中に手を回し、抱きしめ返す。すると、頬に優しく謝必安さんの唇が当てられた。きゅーんと心臓が締め付けられて、私は彼が好きで好きで堪らないと実感させられる。

「ナマエさん、とりあえず私の部屋に行きましょうか。忘れてるかもしれませんがここは外なので。」

そう言った彼にこくんと頷いた私は、「外ではできないようなことをする」という意味の含まれた言葉だということには、全く気づいていなかった。どうなったかは……きっと、ご想像の通りだ。







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