引き留める



「つわりね。」

エミリーにそう言われて、思わず呆然とする。
最近、食べたものを戻してしまうことが多かった。変な病気にかかってしまったのかと、エミリーの元へ相談に来たのだ。

「そ、それは、妊娠ってこと?」
「そうよ。……誰の子供かは知らないけど、大丈夫なの?こんな荘園で……」

彼女の言うことはごもっともだ。私たちは賞金をかけたゲームに参加する為にこの荘園に来たのであって…プライベートではハンターさんはみんな優しいのだけど、試合中はみんな本気だ。真剣にやる。
そんなところに妊婦が混ざったら?

「……もし、迷いがあるのなら、いつでも私のところに相談・・にきて。」

明らかに命を宿したことに対して喜んでいない私に、エミリーは同情したのか、優しく言葉をかけてくれた。

「ありがとう、エミリー……」

そう礼を言い、自室に戻る。
どうすればいいんだろう?中絶は禁止されている為、闇医者にでも頼まない限り無理なことだ。いや、そもそも堕ろすなんていう選択肢など存在しない。私の中では、産む一択なのだが……。

「ジャックさんは、どう思うかな……」

それが心配だった。喜んでくれるかな?それとも、堕ろしてくれと頼むだろうか。ジャックさんことだし、そんなことは言わないとは思うけど、やっぱり不安だ。それに、ジャックさんはこの荘園のハンターだ。もし、私はゲームをクリアしてしまったらこの荘園から出ていかなければならない。ジャックさんは出られないわけで……将来のことを考えると、憂鬱になりそうである。
あぁ、もう、私のバカ!なんで勝手に妊娠しないものだと勘違いしていたのだろう。まぁそれは、ジャックさんが人間ではないからだけど。勘違いしていて……毎回、そういう行為の時には避妊をしないよう求めてしまっていた。ジャックさんは妊娠するとわかっていたのだろうか?……いや、わかっていたら、きっと避妊するよね。

「はぁ……どうしよう。」
「何がですか?」

背後から突然声が聞こえて、思わず心臓が飛び跳ねた。

「じ、ジャックさんいつのまに!?」
「すみません、ノックしても返事がないものですから心配になりまして。」
「あ、全然気づかなかった……それはすみません。」
「いえいえ。ところで……何か悩みでもあるんですか?」
「えっと……」

い、言いづらい。

「その……ジャックさんはもし私との間に子供ができたらどうしますか?はは。や、例えばの話なんですけどね?」
「……それは、本当に例えばの話ですか?」
「えっ、と……」

痛いところをつかれてしまい、思わず涙がこぼれ落ちてきた。ぽろぽろと溢れ出てくる涙を、ジャックさんは右手で拭いてくれる。そんな優しさに安心し、私は打ち明けることにした。

「ジャックさん、ごめんなさい。私、勝手に妊娠しないって思ってて……赤ちゃんが……でも、嫌いにならないでください!」
「嫌いになんてなりませんよ。さっき、子供ができたらどうするのか、と問いましたね。もちろん喜びますよ、それも閉じ込めてしまうくらい。」
「ふふ、何言って──」

私を安心させる為に、冗談を言ってるんだね。ジャックさん。そう思った。

「ずっとこの日を待っていました。これでもうナマエはこの荘園から出られない。私から離れることはない。ずっとここに、私と、その子と、永遠に暮らしましょう。」

この日を待っていた……?それってつまり──いや、考えるのはやめよう。私はジャックさんが恐ろしく感じた。その理由は、これ以上深く考えてはならないことだ。知ってしまったら、わかってしまったら……私はきっと、今まで通りではなくなってしまうだろう。

「はい、ジャックさん。」

これでいいのだ。







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