私のロミオ



おお、ロミオ、ロミオ、貴方はどうしてロミオなの?お父様との縁を切り、家名を捨ててください。もしもそれが無理ならば、せめて私に愛すると誓ってください。そうすれば私も──


「ナマエ、何をぼーっとしてるの?」
「あ、エミリー……。ちょっと考え事をね。」
「そう。疲れてそうだから、心配したわ。」
「心配かけてごめん。大丈夫だよ。」

そう言うとエミリーは安心したように……いや、まだ心配そうに「ならよかったわ。」と返事をした。
友人の前でぼーっと考え事をするなんて、気づかれたらどうしよう。ごめんなさい、エミリー。いくら友人にでも、今の私の悩みを打ち明けることはできない。だって──殺人鬼に恋をしている私を許す人なんていないはずだから。
私達は、大量の賞金をかけた"命がけのゲーム"をしている。そして、このゲームで命を脅かす存在が"ハンター"だ。そのハンターに恋をしてしまうのは……きっと、許されないことである。
一目見た時から、ずっと彼の姿が焼き付いて離れない私はどうしたら良いのだろう。私はこの恋を誰にも打ち明けないまま、このゲームを終えるのだろうか。報われず、伝えることのできないこの気持ちのやり場に私は悩んでいるのだった。

「ナマエ、そろそろゲームの時間よ。」
「あ、ほんとだ……気合い、入れなくちゃ。」

エミリーの言葉にハッとして、気を引き締めなければと自分の頬を軽く叩く。ゲーム中は、ぼーっと考え事をしている余裕なんてないのだ。今回のハンターは、一体誰だろう?彼だったなら、なんて少し考えた頭を振って、もう一度頬を叩いた。




生存者はもう私しかいない。地下室?いや、それはもう無理だ。だって、目の前に今回のハンターである、私の友人を殺した男が立っているのだから。

「き、切り裂きジャック、さん……」

"彼"だ。

「切り裂きジャック……うむ……その呼び方でも別に良いが、少し直球すぎないか?ジャックと呼んでくれ、ジャックと。」
「えぇと、ジャックさん……」
「最後のサバイバー、君の名前は?」
「……ナマエです。」
「ナマエ。君はどうしたい?生きるか、死ぬか。」
「私は……」

そんなことを聞いて、ジャックさんはどうしたいのだろう。そして、私は、どうしたいのだろう?
ジャックさんは私の友人を殺した。それなのに、彼のことを憎めず……むしろ、こうして話せたことが嬉しいと思ってしまう私に生きる価値なんてあるのだろうか?それに、もし他のゲームで彼以外のハンターに殺されるくらいなら──

「貴方になら、殺されてもいいです。」

そう答えると、ジャックさんは興味深そうに「ほう。」と呟いた。どうせ死ぬのだから、どうにでもなってしまえ。そう思い、私は口を開く。

「ジャックさん、一目見た時から貴方が好きでした。」
「……珍しいサバイバーだね。」
「それは……自覚してます。さぁ、どうぞ。チェアに括り付けてください。」

そう言うと、ジャックさんは黙って私の体を抱えた。そして私は、目をつぶりながら大人しく運ばれる。
どうして貴方はハンターで、私はサバイバーなのでしょう。貴方がサバイバーだったなら、あるいは私がハンターだったなら……少しは変わったかもしれないのに。
そんなこと、今更考えても遅いけど。
少し経つと、ジャックさんはピタリと足を止めた。きっとチェアの前に着いたんだ。そう思い黙って吊られるのを待っていると、ジャックさんは話し始めた。

「今回は味気なかったから、また私とゲームをしよう。」

え?
と、思わず目を開けるとジャックさんの腕から降ろされた。

「くれぐれも私以外には殺されないこと。君を殺すのは、私だ。そして、その時にさっきの返事をしようじゃないか。」

そして、だんだんと距離が遠くなっていく。
──地下室ハッチに落とされたんだ。驚きの表情を見せる私に、ジャックさんの表情はわからないが、きっと笑っている。
死ぬ覚悟はできていたのに、どうやら彼に殺されるまで死ぬわけにはいかないらしい。

「あぁ、もう、ずるいなぁ……!」

殺されることが生きがいになってしまうなんて、そんな可笑しな話ある?大量の賞金なんてもういらないから、また貴方に会って、その時は……。







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