うまくいかないことばかり



サバイバーがハンターに恋をしてしまうのは、悪いことなのだろうか。もしそうなら、私は悪い子だ。

「……貴方は毎回抵抗しませんね。」
「だって、リッパーさんがお姫様抱っこしてくれてるから…抵抗なんてできないですよ。」

リッパーさんにお姫様抱っこで運ばれている最中の私は、本来ならどうにかもがいてハンターの手の中から脱出しなければならないのに、感情が勝ってしまい大人しく運ばれている。

「もうちょっとサバイバーらしくしていただけませんかね…」

毎回こんな調子の私にリッパーさんは困り果てているようだが、そんなの御構い無しにお姫様抱っこを堪能する私。他のサバイバーはマジギレしていいと思う。……じ、時間を稼いでることにしてもらっていいですか?

「だってゲームの時にしか会えないんですもん!」
「そりゃ、私はハンターですからね。」
「だからサバイバーの私はリッパーさんに捕まるしかないんですよぉ!」
「……全く、貴方と言う人は。」

そう言うと、リッパーさんは優しく私を降ろした。

「え?チェアに座らせなくていいんですか?」

てっきり、容赦なくロケットチェアに括りつけられると思っていたから思わずそう聞くと、

「もうすぐ暗号機も終わる頃ですし…少し話をしたいと思ったんです。ダメですか?」

と、リッパーさん。

「え、ええ…!?もち、もちろん良いです!」

あまりに嬉しすぎる言葉に、興奮気味に食いついてしまったがまぁ仕方ない。

「それは良かった。」

そう言うリッパーさんの表情は、仮面で見えないけれど微笑んでくれたような気がした。リッパーさんの隣にこうして並んで話せるなんて、まるで夢みたいだ。
何を話そうか。知りたいことはたくさんあるので、どれから聞こうか迷う。そういえば、よくよく考えると私はリッパーさんの本名を知らないし、リッパーさんも私の名前を知らないな。…聞いてみてもいいだろうか。

「あの、リッパーさん。…私、まだリッパーさんの名前を知りません。良かったら教えてくれませんか?私の名前はナマエです。」

そう聞いてみると、リッパーさんの動きがピクリと止まった。一体どうしたのだろう。名前を教えたくないのだろうか?タブーなことを聞いてしまったのだろうか?どうしよう。そう焦っていると、少しの沈黙の後、リッパーさんは答える。

「……良い名前ですね。私の、名前は──」

ガチャン。

リッパーさんが名前を言い終わる前に、暗号機が全て解読されたようだ。サイレンの音のせいで、肝心なリッパーさんの名前が聞こえなかった。
いや、聞こえないフリをしているんでしょう?
急に頭がチクリと痛んで少し顔をしかめつつ、

「ごめんなさい、音が大きくて聞こえませんでした。」

と、リッパーさんに謝ると、何故か悲しそうに右手でポンポンと私の頭を撫でてくれた。ん…?撫でて…?

「そうですか。ではナマエさん、またの機会に。」

そう言って去っていくリッパーさんを見つめながら、私は口をパクパクさせ、顔を赤らめながら頭を抑えるのだった。仲間から「早く逃げて!」と言われたのは言うまでもない。
ハンターが近くにいるわけでもないのに鳴り止まない心音を隠しながら、急いで脱出ゲートまで走っていくと、エマちゃんが待っていてくれていた。他の二人は反対方向のゲートにいるようだ。

「ナマエさんがハンターを引きつけていてくれたから助かったの!ありがとう。」

その純粋な言葉に、自ら捕まりに行っていたようなもんだとはとても言えずに笑顔を返すしかなかった。

「エマちゃん、行こう。」
「うん!」

エマちゃんと手を繋ぎながら外へと出る。次、リッパーさんに会った時は今度こそ名前を聞こう、と思いながら。
本当はリッパーさんの正体に気づいているくせに。
また、頭がズキンと痛んだ。帰ったら薬を飲もう。



【サバイバー】
ナマエ

うわさ
恋人が亡くなったショックで精神病を抱えている為、薬を常備している。彼女が望むのは大量の賞金ではなく、忘れてしまった恋人だ。






また彼女に出会うだなんて、想定外だった。だが、彼女がアイツ・・・のことを覚えていないのは好都合だ。
今日も対戦相手に彼女がいる。きっと彼女はまた嬉しそうに、こちらに駆け寄ってくるだろう。頬を桃色に染め、愛おしいそうに私を見ながら、話しかけてくるのだろう……。
と、考えていると物陰からひょっこりと顔を出す者がいた。目が合うと、気づかれましたか、と言いながらその者は姿を現す。

「リッパーさん、こんにちは……!」

彼女だ。思った通りの姿で、彼女は話しかけてきた。
──なぜ切り裂きジャックこのわたしが一番側にいた女性である彼女を殺さなかったのか、それは誰にも知られたくないことだ。なぜなら、彼女が求めているのは殺人鬼わたしではない。芸術家アイツなのだから。
そして今日も私は、アイツのように振る舞う。

「ナマエさん、こんにちは。全く、いつになったらサバイバーらしくなるんですか?」
「リッパーさんがハンターなかぎり無理ですね!」

──ヤツはもう存在しない。この体は完全に私のものだ。
いつまで経っても面影を求める彼女に同情しつつ、いつまで経っても続けば良いのにとさえ思うほどに、私は彼女を愛してしまっている。







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