可愛がられる



「あ、黒無常!こんにちは。」
「……」

黒無常、と呼ぶと不機嫌そうな表情になる彼。これは名前で呼べと言っている時の顔である。

「ふぁ、ふぁんうじん…こんにちは。」

頑張ってそう呼んでみるも、黒無常もとい范無咎にフッと笑われた。

「相変わらず名前は発音が下手だな。」
「日本生まれだから仕方ないし!」

彼ら、范無咎と謝必安の名前が呼びづらくて仕方ない私は、いつも黒無常と白無常と呼んでいるのだが、二人はそれが気に食わないようで。名前で呼べと言ってくるくせに、いざ呼ぶと発音が下手だと笑われるのがオチだ。ふぁんうじんとしゃびあん……で、たぶん発音はあってるんだけどなぁ。
と、思っているとなぜか頭を撫でられた。范無咎のらしくない優しい手つきに少しドキドキするも、なぜ私は撫でられているのだろうか。

「どうしたの?」
「別に。ただ撫でたくなっただけだ。」

ふ、ふーん?と、されるがままになる私。しかし、あまりに撫でるものだからそろそろ照れくさくなってきた。

「ふぁんうじん、しゃがんで!」

突然そう言うと、范無咎は撫でるのをやめしゃがんでくれた。そして、どうしたんだと一言。

「こうしたかったの。」

と、言いながら范無咎の頭を仕返しに撫でると、驚いたような顔をされた。

「……」
「なんか、照れてる?」

普段見ない范無咎の様子に思わずそう口にすると、「調子にのるな」と言われた。つ、ツンデレってやつだ、これは。うん。
なんて言い聞かせていると、范無咎が「……仕方ないな」と呟いた。その意味がわからず疑問符を頭に浮かべていると、范無咎は手に持っている傘を開いた。それを見て、あぁ白無常と入れ替わるのかと納得する。
そして現れた白無常は、途端に口を開いた。

「名前、私の名前も呼んでください。」
「……しゃびあん。」
「ふふ…相変わらず可愛いですね、貴方は。」
「その可愛いは馬鹿にしてない?」
「そんなことないですよ。」

謝必安は微笑みながらそう言い、范無咎と同じように頭を撫でてきた。なんだこの扱いは……?

「二人して私の扱いがなんか……ペット?」
「その例えは間違ってないですが、そういうわけではないですよ。」
「間違ってないのね。」

間違ってないんかい、と思ってついジトリと見つめると、謝必安の顔が近づいてきて……頬に少し柔らかい感触がした。

「えっ、え……?」
「私たちはただ、名前が可愛くて仕方ないだけです。」

そう言う謝必安の顔は近いし、頬にはまだ感触が残っている。何が起こったのか理解できた瞬間、顔がぶわっと熱くなった。キ、キキキキ……!

この後私は、ゲーム中なんども暗号機をバチってしまうのであった。頭から離れなくて集中できない……!







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