この世界のすみっこで



※公式日本語翻訳の世界線でサンズの恋人である夢主が、なぜか非公式日本語翻訳の世界に飛ばされてしまった、という設定の夢小説です。
※別の個人サイト(現在無くなりました)に投稿していたお話です。部分的にしかデータが残っていなかった為、ほとんど書き直しましたが、大体の内容は変わっていないはず…後3話くらい続きます。
※夢主が人間なのかモンスターなのかは決めておりません。
※非公式Sansのお口が少し悪いかつ病み気味です。




「おい」

 聞き慣れた声が、気持ちの良い睡眠を終わらせた。

「おい」

 聞こえてるってば!
 そう思いながら重い瞼を開けると、やはり彼、サンズがベッドの側に立っていた。

「なに、サンズ……今ねむい……」

 目を擦りながら返事をするが、まだ頭がぼーっとして睡魔が襲ってくる。

「悪いが俺はお前さんのことは知らない。なぜ俺の部屋で寝ているんだ?」

 再び目を閉じそうになっていた私は、サンズの言葉を聞いて驚きのあまり目を見開いた。

「……へ?」

 今、サンズ、なんて言った……?
 自分のこと俺って言った? いやいや、それよりも! 私のことを知らないってどういうこと!?
 サンズの恋人であるはずの私は困惑したが、彼の発言を理解しようと一度考えてみることにした。
 ……そう、これはきっとジョークだ。彼は今、私の面白い返事を期待しているのだ。そうじゃなきゃおかしい。
 しかし、寝起きの頭では、とても面白いものは思いつかない。

「骨の髄まで愛してる貴方にそんなこと言われるなんて、ショ“ボーン”……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……とりあえずお前さんが悪い奴じゃないってことはわかったが……不法侵入って知ってるか?」

 嘘でしょ? 私が寝起きの頭をフル回転させて考えたジョークがスルーされてしまった。
 どう考えても、今のサンズは様子がおかしい。いつもの彼なら、今の言葉を聞けば口を塞いでもジョークが止まらないはずだ。
 もしかして私は、何か彼を怒らせることでもしてしまったのだろうか? 心当たりは……こうしてサンズのベッドを占領して、彼より先に寝てしまっていたことくらいだ。

「えっと……もしかしてベッドで先に寝てたこと怒ってる? ごめんねサンズ。どうしても眠くてつい……」
「……お前さん……マジで大丈夫か?」

 そう言ったサンズの声色は、とても冷たいものだった。

「え? なにか怒らせちゃったのなら、理由を教えてほしいな」

 今まで私は彼を怒らせたことや、喧嘩をしたことすらなかった。こんな態度を取られるのは初めてで、思わず声が震えそうになる。

「そういう話じゃないだろ。マジで何言ってんだ。どうやってこの部屋に入った。家に入るだけならともかく……この部屋には別の鍵をかけていた筈だ」

 どうやって入ったも何も、私たちはいつもこの部屋で一緒に寝ているというのに、今更何を言っているんだろう。訳がわからないことを言い続けるサンズに、私はだんだんと苛立ちを覚え始める。

「マジで何言ってんのはこっちのセリフなんだけど? 私に合鍵くれたのサンズだよね。マジで意味わかんない」
「合鍵……? お前、秘密のパスワードを知っているのか?」
「……は??」

 秘密のパスワード? 一体何を言っているんだ。私はベッドから降り、立ち上がった。

「……もう意味わかんない。そんなに嫌ならソファで寝るから!」
「おい……」

 引き止めるような声が聞こえた気がしたが、もう知らない。冗談でも面白くない話だ。
 サンズの部屋を出た私は、リビングにあるソファに寝転んだ。クッションを抱き抱えてみたが、そんなもので寂しさは埋まらない。サンズの部屋に合鍵のついたキーケースを置いてきたことを後悔しながら、ゆっくりと目を瞑った。





「SAAAAAAAANS!!!!」
「……んん……」
「SANS、早く来てくれ! 俺様はどうしたら良いのだ!!」
「あー……papyrus、これはだな……」

 大きな声がして、眠りから目が覚めた。
 ウトウトしながら瞼を開けると、パピルスとサンズが私を見るように立っていた。

「あー……おはよう」

 昨日のことがあったので、気まずくなりながらも挨拶をする。しかし、二人は返事をしなかった。

(……これは俺様は、挨拶を返した方が良いのか? SANSの友達か?)
(いや……あー、そうだぜ。俺の友達だ)
(だったらそれを早く言え!)

 まさかパピルスにまで無視されるとは思わず呆然としていると、ようやくパピルスが口を開いた。

「ゴホン! ……SANSの友達よ、俺様は……」
「なぁ兄弟、朝はまず朝食だろ? 手作りのパスタはまだか?」
「俺様としたことがつい忘れていた!! すぐ用意するぞ!!」

 遮るようにサンズがパスタの話題を出せば、パピルスはあっという間にキッチンへと駆け込んでいった。
 この場にサンズと二人になってしまい、シーンと静まり返る。恐る恐る彼の方を見ると、冷たい目をしてこちらをじっと見ていた。
 
「……今のうちに帰れ」
「帰れって……」
「お前さんの自分の家にだ」
「そんな……」

 家を出ていけってことは、つまり、別れようってこと?
 サンズの言葉の意味を理解した瞬間、私は思わずポロポロと涙を溢してしまった。泣かないようにしなくちゃと思えば思うほど涙は止まらない。

「どうしてなの? 私……なにか……」

 私、何か嫌われることをしちゃったのかな──そう考えた時、トマトソースの香りが鼻をかすめた。

「俺様達の家が……恋しくなってしまったのだな!?」
「え……?」
「おい兄弟……」

 いつのまにか、両手と頭にスパゲティを乗せたパピルスがキッチンから戻って来ていた。彼がいつから私達の会話を聞いていたのかはわからないが、何か勘違いをしているということは確かだ。

「だとすれば仕方あるまい! ここに住んでも、俺様は構わないぞ!」
「え、えっと……」
「こんな素晴らしい家は他にはないからな! 恋しくなる気持ちは理解できるぞ! 条件があるとすれば……それは俺様とも友達になるということだけだ!」

 パピルスはそう言いながら、「ニェーヘッヘッヘッ!!」と声を上げて笑っている。サンズも思わず笑みが引き攣っている。私は笑うことすらできなかった。

「……私達って、もう友達じゃなかったの?」
「ニョーホー! 俺様とも既に友達だったというのか!? なんて……なんて素敵は響きなのだ! SANS!! どうして早く連れてきてくれなかったんだ!?」
「最近知り合ったばかりの友達なんだ」

 これまでの二人の会話を聞いて、確信する。
 二人とも、私のことを忘れたフリじゃなくて……忘れてるんだ。
 私は、サンズのことを「兄ちゃん」と呼び「ニャハハ」と笑うパピルスしか知らない。私のことは友達以上の家族として思っていてくれていたはずなのに。
 何かがおかしい。それともおかしいのは私なの? 今までの思い出が……全部無かったことになってるなんて、そんなの受け入れたくないよ。

「俺様の名はPAPYRUS様だ!」
「わ、私は……ナマエって、いうの」
「イカした名をしているな! 俺様には劣るが! ニェッヘッヘ!」
「あー……俺の兄弟は、クールだろ?」
「そう、だね」

 私はこれからどうすればいいのだろう? 昨晩の言動を思い返せば、とてもここには居られないと思った。このサンズにとっては私は不審者で……それなのに私は、サンズにとって訳のわからないことばかり言ってしまった。

「家に……家に帰ります。すみませんでした」

 そう言って頭を下げると、パピルスは悲しそうな顔をした。

「ニェ!? も、もう帰るというのか!? まだナマエの歓迎パーティーもしていないというのに!!」
「……兄弟もこう言ってるんだし、まだここに居てもいいんじゃないか」
「ほんとうに……?」
「ただ、俺の部屋にはもう許可なく入るなよ。そういうもんだ」

 サンズはそう言うと、私のキーケースを渡してきた。恐る恐る中を確認すると、サンズの部屋の鍵が無くなっている。
 私の幸せな世界は、突然終わりを迎えた。







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