ゲーマーJKとリンク



※ブレワイのダウンロードコンテンツ配信日に書いていたものです。



BreathoftheWildのダウンロードコンテンツが今日配信されるということで、学校から家に帰った私は制服姿のままゲーム機の電源を入れた。
英傑たちの過去だとか、マスターバイク零式だとか気になって仕方がない。発表されたその日に配信とか急すぎるよ。ありがとうございます。
ソフトを更新し、いざ起動する。すると、ゲーム画面が急に光り出した。
……あ、そういう演出?……でもそれにしては、妙に眩しい。なんだか光がこちら側にまで行き届いているような──なんてぼんやり考えているうちに、その光はあっという間に私を包み込んだ。

「まっまぶし……!」

あまりの眩しさに、思わず目をぎゅっと瞑る。すると、何故か草の匂いとほのかな風を感じた。
思わず目を開けると……目の前に広がるのは自宅ではなく、見知らぬ草原。まるで瞬間移動していたみたいにポツンと立ち尽くしていた。

「……え?」

意味がわからない。困惑する私を気持ちのいい風が包み込む。私は家にいたはずなのに、なぜ太陽に照らされているのだろう。
周りを見渡しても誰もいない。流石に夢だと思って頬を思いっきりつねってみると、じんじんと痛みが襲ってきて後悔した。
とりあえず移動しようと歩いてみたが、最悪だ。靴履いてない。家の中で靴履いとけばよかった、なんて日本人の私が思う日が来るとは思わなかった。
一歩一歩踏み出すごとに石が足の裏に食い込んで痛いし、土の中の水分が靴下にじわじわと染み込んできて気持ち悪い。

「もう最悪!ほんとここ何処なの!」

なんて独り言を言いながら歩いていると、背後から足音が聞こえた。
ようやく私意外にも人が!と振り向くと、そこにはめちゃくちゃ見慣れた人物が立っていた。
水色の服にハイラルのズボン、整った顔立ちに長い耳、背中にはあのマスターソード……。私がいつも画面越しに眺めていた人そのものだった。
一瞬、超完成度の高いコスプレかと思ったが、どう見ても青い瞳はカラコンではないし、サラサラの金髪はウィッグには見えない。本当にいつも見ているリンクがそのまま目の前にいる。思わずジッと舐め回すように見ていると、

「大丈夫?ここは危ないよ」

と、リンクは私に声を掛けてきた。うん、村とか馬宿とか以外は危ないよね、魔物いるもんね、それはここがBotWの世界だったらの話だけどね!?
もしかして私、ゲームの世界にトリップしたってことなんだろうか。一体なんで?どう思い出してもやった事といえばゲームを起動しただけだ。
とにかくここは危ないということなら、安全な場所に行きたい。ちょっとくらい目の前の英傑様に助け求めても良いかな?ミニチャレンジ『迷子の少女を救え』ってことで。

「なんとか大丈夫です。えっと……実は迷子なんですけど、ここってどこなんでしょうか?」
「ハイラル草原だよ」
「え!?」

超ヤバイとこじゃん!えっ、私よくガーディアンに遭遇しなかったね?ハイラル草原って確かウロウロ歩くタイプのガーディアンもいたはずだし、今もヤバイのでは……。
そう気づいた瞬間、今すぐにでも家に帰りたくなった。大好きなリンクが目の前にいるのは本当に嬉しいことだけど、トリップしたからといって私がこの世界で出来ることなんて何もない。
リンクを操っていた時は怖くもなんともなかったボコブリンにでさえ、私にとっては強敵だ。魔物に出会ってしまえば簡単に殺されてしまうだろう。そんな雑魚な私が今ガーディアンに出会ったら……いくらリンクが一緒でも怪我一つでは済まないはずだ。
怖がる私に、リンクは安心させるように優しく声をかけてきた。

「ここからは馬宿も近いし、俺と一緒に行こう」
「ありがとうございます……!」

流石数々のミニチャレンジをクリアしてきた男……!案内してくれるという彼の後ろをついて歩くことにした。
私は黙って、風に吹かれて揺れる金の髪を見つめていた。
元の世界には帰れるのかなとか、この世界で生きていけるのかなとか、不安なことはたくさんあるけど、一プレイヤーとして、好きなキャラクターが目の前にいるということにドキドキしてしまう。
ゲームをやるだけでは知れなかった、リンクの声色や口調。そして困っている人を決して見捨てない彼の優しさを噛み締めながら歩いた。




馬宿に着くまで特になにも話さなかった。リンクは無口な設定だったはずだし、私からも特に話しかけなかったのでそりゃそうだろう。特に気にすることではない。馬宿につき、「ここまで案内してくださりありがとうございます!」とお礼を言うと、柔らかく微笑んでくれた。そのあまりのかっこよさに思わずニヤけそうになるのをこらえていると、リンクが突然少し驚いたように口を開く。

「えっ、靴履いてなかったの?」
「あっ……」

私が外なのに靴を履いていないことに、リンクは今気づいたらしい。

「えっと、無くしてしまって」

元から履いてなかっただけだが、靴を履かずハイラル草原まで向かったアホだと思われたくないので誤魔化す。

「荷物も持ってないし……大丈夫?」

無表情だけど、なんとなく心配してくれているように感じる。荷物を持っていない=旅人ではない、とはもうわかっているだろう。どうしよう。トリップしてきました!とか言ったら引かれると思うし、とりあえずこの世界でありえそうな設定で話す。

「あはは……実は魔物に襲われた時に落としちゃって……」

そう言った後に気がついた。心優しいリンクのことだ。これ、ミニチャレンジ更新『無くした荷物を探せ!』にならない?大丈夫?

「あっ、でも、荷物に大した物は入っていないので、大丈夫なんですけどね!!」
「でも……」
「本当にハンカチくらいしか入ってなかったので大丈夫ですから!リンクさんは気にしないでください!」

このミニチャレンジをクリアされても、渡せる報酬は持ってないし。体くらいしか払えないしな、とアホな冗談を考えている私は、たった今自分が墓穴を掘ったことに気がつかなかった。

「……なんで俺の名前知ってるの?」

リンクのその言葉で、私はようやく自分がしでかしたことに気がついた。

……違うの!私は別に怪しいものじゃないの!リンクにとって自分の名前を知ってる人ってほぼイーガ団だと思うけど、私がイーガ団ならここに辿り着くまでの間に突然「コーガ様の仇!」とか言ってあっさり倒されてるよ!いや、このリンクがコーガさん倒してるかは知らないけど!後ツルギバナナも持ってないし!
と、必死で言い訳を考えるも、どれもとても言えたものではない。

「あ、あ……えっ、えっと……な、なんでも助言するので!! 命だけはご勘弁を……!!」

焦りに焦った結果、私は頭を下げながら意味のわからない発言をしてしまった。相手はリンクなんだから、魔物でもない私を殺すわけがないのに何を言ってるんだろう。そう後悔するのは口に出してからのことだった。






「ナマエ、何ぼんやりしてるの?」

ご飯を食べている途中だというのに、手を止めて一点を見つめる私を不思議に思ったのかリンクが声をかけてきた。

「ん?いや、私とリンクが初めて会った時のこと思い出してた」
「あー……あの時ね」

あの後、私は成り行きでリンクと共に旅をすることになった。足手まといになるので勘弁してください、と言ったところ、「なんでも助言してくれるんだよね?」と言われてしまい、私に拒否権など存在しなかった。
そして旅をするようになってわかったこと。このリンクは私の操作していたリンクではないと言うことだ。マスターソードを持っているものの、まだまだ記憶と力を取り戻している最中のリンクだった。だから、今はリンクの役に立てている……と思う。
でも……

「……私、このままリンクと一緒に旅を続けてもいいの?」
「え?うん。急にどうしたの?」
「いや……助言はできるけど魔物倒せるほど強くないから。いつか本当にただの足手まといになるんじゃないかなって」

そう言うと、リンクはまっすぐな目でこちらを見つめてきた。いつもこの青くて綺麗な瞳に映されると、心臓の鼓動が早くなる。私はそれがバレないように、冷静なフリをした。

「……俺、正直最初はナマエのこと怪しんでた。教えてもないのに俺の名前知ってるし……だから一緒に旅しようと思ったんだ。それはごめん。でも、今は違う。今は本当にナマエの存在に助けられてるんだ。だから……ずっと一緒にいたいと思ってる、から……そんなこと言わないで?」

まさかリンクがそう思ってくれているなんて思わなかった。怪しまれてたってのは改めて言葉にされると少しショックだけど、リンクの立場からすれば当然のことだ。
思えば……最初の頃は口数の少なかったリンクが、今では食事中に談笑するようになっている。既に私たちの関係は「助言」とか「足手まとい」とか、そういうのが関係ないものになっているのかもしれない。
私はだんだんと自分の口角が緩んでいくのを感じた。

「リンク……ありがとう! 私も一緒にいたいな……」

そう言うと、リンクは照れ臭そうに口角を上げた。その頬が少し赤い気がするのは、気のせいじゃなかったらいいな。







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