ミファー姉さんのことは、あまり覚えていない。父からよく聞かされているから思い出せたり知れたりしただけで、容姿だってこの像がなければ忘れていたかもしれない。なんて思いながら、いつも通りミファー姉さんの像を見上げた。
後もう一人、ナマエというハイリア人についてもよく聞かされた。好きなハイリア人がいたことは覚えているが、あの頃オレは小さかったし、あまり覚えていない。ナマエ姉さんに子供らしいプロポーズをしたことが一番記憶に残っている。一目惚れだったし、初恋だったオレはとりあえず結婚を申し込むという行動に出たのだろう。今では、ミファー姉さんみたいに像があるわけじゃないから、容姿はすっかり思い出せなくなってしまった。オレが一目惚れしたハイリア人、もう一度見てみたいものだ。
ふと、視線を感じ其方を見てみると、傷だらけのハイリア人がこちらを見ていた。なぜか惹かれるような、魅力的なハイリア人なのに、ハイラル城に行ってきて命からがら帰ってきましたとでもいうような傷。そんなの放っておけるわけがなく、オレはすかさず声をかけた。




そのハイリア人が、ナマエだったなんて。

「ほ、ほんとにナマエ姉さんなのか……?」

こんな現実味がない話、疑うつもりはないがそう聞いてしまう。

「……うん、私でも信じられないんだけど、なんか気づいたらここにいて……」
「……そうか、ナマエ姉さんなんだな。オレは信じるゾ!」

そう言うと、ナマエ姉さんは「信じてくれるの!ありがとう……」と嬉しそうに言った。
──やっと、見つけた。
そう思った。もう一度一目見たいと思っていたハイリア人。その人が100年経った今、やっと現れたのだから。あんなにぼんやりとして思い出せなかった容姿を、くっきりと記憶に刻めるまでナマエ姉さんを見つめた。当たり前だが、100年も経ってるんだからオレの方が体が大きい。もし抱きしめたら、オレの体にすっぽり収まるだろう。

「このまま、ゾーラの里に住むと良いゾ!食事だって困ることもない。魔物から襲われることもない。良いだろう?オレはナマエ姉さんと過ごしたいゾ!」
「え、でも、ガノンは……」
「大丈夫だ、今リンクが向かっている。もうナマエ姉さんが無理する必要はない。……ガノンは、リンクじゃないと倒せないんだ」

そう言うと、ナマエ姉さんは目を伏せた。そして、「……そうだね、私が行っても死ぬだけだし……少しゾーラの里で過ごそうかな」と眉を下げて笑いながら言った。

「あ、でもちゃんとお金は払うよ?ってあぁ!今お金ないんだった……!!」

しんみりとした雰囲気だったのに、急にそう言い焦り出したナマエ姉さんに口角が緩む。遠慮する必要なんてないゾ。
少し過ごそうかな、とナマエ姉さんは言っていたが、オレにはそのつもりはない。ずっとここで暮らしてほしい。無理強いはしないつもりだが、なんだかまた急にいなくなりそうで、もう二度と会えなくなりそうで嫌だった。






私がシドに押されるがまま、このままゾーラの里で暮らすに方向にどんどん話が進んでいく。確かに、100年前の私の家なんてもう潰れているだろうし、所持金もゼロだ。行く宛なんてない。でも、よく考えたら暮らすといってもどうやって?お金がないんだから宿に泊めてもらうのも悪い。

「ねぇシド、私が寝泊まりする場所なくない?宿に毎回泊めてもらうのは悪いし……」
「本当はナマエの部屋を作りたいところなんだが、ゾーラの里は修復中で厳しいんだ……だからオレの部屋はどうだ?」
「エッ」

シ、シドの部屋で寝泊まり……?
思わず思考が停止する。いや、小さいシドなら良いんだけど、今はこんなに立派に成長した男性であって…。男性経験の乏しい私にとってそういう関係でなくてもちょっと意識してしまうというか……。固まっている私に対してシドは「いいだろう?」とニコニコしている。……住まわせてもらう身だしワガママは言えないだろう。そう思い、礼を言いながら頷くしかなかった。
ふと、じっとシドを見つめる。(私にとっては)昨日まであんなに小さかったのに、こんなに成長したシドを見るとやっぱり違和感がある。顔を見るためには絶対見上げないといけないし、なんせ他のゾーラ達よりもシドは大きい。私の身長二つ分くらいありそう…。あの父あってこそだろう、そう考えるとやはり本物のシドなのだと実感せざるをえない。シドに、タイムスリップ的なことをしてしまったと説明するとすぐ信じてくれたのは驚きだが、本当に有り難い。疑われたらどうすればいいのかわからないし。

「……シド、大きくなったね」
「まぁ100年も経ったからな!」
「あ、100年も経ったんだし、ナマエ姉さんって呼ばなくていいよ?実質、シドの方が年上になっちゃったしね」
「じゃあ、ナマエって呼んでいいのか?」
「もちろん」

そう言うと、「ナマエ、最高だゾ!」と嬉しそうにニカッと笑いながら言うシドの可愛さはあの頃のままだった。







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