ずっと一緒



「ナマエ姉さん、オレが大きくなったら、結婚してくれる?」

初めて会った時よりも大きくなったシドに、そう言われた。
彼は私の大切な友人・ミファーの弟だ。まだ小さな子供である。冗談だろうし、大きくなったら忘れているだろう。というか、ハイリア人とゾーラ族の恋愛だなんて聞いたことがない。

「ふふ、大きくなったらね?」
「本当か!?約束だゾ!」

私がそう言うと、シドは嬉しそうにニカッと笑顔を向けてくれた。それが可愛くてシドの頭を撫でると、シドは嬉しそうにしたが、ハッと子供扱いされていることに気がつき、

「すぐナマエ姉さんに追いつくから!」

と、拗ねてしまった。もう、可愛いなぁ。更に頭を撫でてみると、更に拗ねられてしまった。







「あ、あのね、ナマエ……誰にも言わないで欲しいんだけどね……」
「え、なになに?」

今はミファーと二人きり。いつも通り楽しく話していると、急にミファーがもじもじしだした。少し頬が赤い。…まさか恋バナ?

「私ね、リンクのこと好きなんだ」
「えっ!そうだったの!?」

予想は的中で、やはり恋バナだった。相手があのリンクだとは……。リンクとはあまり話したことがなかったが、ミファーの幼馴染だということで話すようになった。しかし、二人きりになるとかな〜り、三人でいる時以上にリンクが無口になってしまうから、リンクのことは未だによくわからない。でも、ミファーが好きだというのならとても良い人なんだろう。後イケメンだし。

「ナマエには気づかれてると思ってた」
「いや、全然気づかなかったよ!私は今好きな人いないんだよねぇ……」

この前言われた、シドのプロポーズ(仮)を思い出す。
ハイリア人とゾーラ族との恋って、案外ありえなくないのかもしれない。なんて思いながら、ミファーから好きになったキッカケだとかどこが好きなのかとかいっぱい聞き出した。








今日はいよいよガノン討伐の前日。

「ミファー姉さん、ちゃんと帰ってくる?」
「もちろん。シド、良い子にして待ってるんだよ?」

心配そうなシドを、ミファーは安心させるように撫でた。そして、少し安心した様子のシドが、こちらに向かってくる。

「ナマエ姉さん、オレと結婚するんだから絶対帰ってきてよ!」

そんなシドの言葉に思わずギョッとする。ま、周りにミファーとミファーのお父さん達がいるのに……!しかも、まだあの約束を覚えているとは。

「えっと、うん、心配しないで、大丈夫だからね!」

そう言い周りを見てみると、全員ニヤニヤしてこちらを見ていた。さっきまでしんみりしてたくせに!…ちょっと恥ずかしいが、シドが可愛くて仕方がないんだろうな。それは私も同じである。ミファーと同じようにシドを撫でてやると、シドはニカッと笑った。





あぁ、死ぬ。そう思った。
神獣達もガーディアンも暴れだして、もう勝てる気がしなかった。倒れ込んだ私に、ガーディアンはレーザーを放とうと青い目を向ける。
ミファーは無事だろうか。リンクも無事だろうか。ゼルダ姫は、他の英傑達は?みんなの顔を思い浮かべていると、シドの顔も浮かんだ。シドには、私が死んでも元気に暮らして欲しいな。可愛い弟を持てたようで、とても幸せだったよ。
恋愛を楽しんだことなんてなかったなぁ、と考えたらなんと虚しい人生なんだと思えてきた。一度くらい恋してみたかった。それは人としてワガママではないはずだ。なんでここで死ななければならないんだ。
そう思っていると、強い光が見えた。死に際の私には、なぜかそれが救いの手のように思えた。勢いよく立ち上がり、光に向かい走り抜ける。そして、ガーディアンの放ったレーザーを、間一髪で避けることができた。光に向かうごとにどんどん眩しくなり、そして、光は私の体を包み込んだ。








気がつくと、私は浅い水の中に寝ていた。……え?あれ、ガーディアンは?記憶が朦朧としていて、あまり先ほどのことが思い出せない。とりあえず、傷に水がしみて痛い。

「う〜ん……」

と、頭を抑えながら起き上がると、体中にある傷がピリッと痛んだ。やっぱりじっとしてないと痛いなぁ。いやじっとしてても痛いんだけど、動いてる時よりはマシだ。
ってか、こんなことしてる場合じゃない。早くみんなに加勢しないと。と、思って立ち上がると、あることに気がついた。

「え、ここ……ゾーラの里……?」

どう見ても周りの景色がゾーラの里なのだ。この特徴的な夜光石を使った壁とか、確かゾーラの里やその付近しかないはず。それに、私の隣にはあの祠があった。私が前に見た時はオレンジ色の光を放っていたはずなのに、今は青い光を放っていることが少し気になったが……とりあえずここを出よう。バシャバシャと水の中を歩く。そして、階段を上ると、やはりゾーラの里だった。……え、私、ハイラル地方にいたはずだし、こんなことはありえない。ワープでもしたっていうの?今の状況に呆然としていると、ミファーの像の前に誰かが立っていることに気がついた。ミファーと同じ色の体で、あぁ、シドが成長したらあんな感じなんだろうな、なんて思いながら見つめていると、目が合ってしまった。すると、驚いたように、

「傷だらけじゃないかッ!大丈夫か!?」

と、近寄って来てくれた。

「歩けますし、大丈夫です。」
「いや、無理は良くないゾ!休んでいってくれ!」

優しい方なんだろう。とても私のことを心配してくれている様子だ。しかし、私は休んでいる場合ではないのだ。

「すみません、仲間のところへ行って戦わなくちゃいけなくて……」
「魔物と?そんな姿で行っても、魔物にやられてしまうゾ。」
「確かに……」

と、思いながら目の前の彼を見つめる。……本当にシドみたいだ。なんか装飾品まで似ている気がする。
あ、なぜかゾーラの里に来たついでに、私は無事だということをシドに報告しようかな。心配してくれてたし……。そう思い、目の前の彼に訪ねることにした。

「やっぱり少し回復するまで休んで行こうと思います。ところで、シドって今どこにいるかわかります?会いに行きたいんですが……」

そう言うと、目の前の彼はきょとんとした。

「シドはオレだゾ?あぁ、自己紹介をしていなかったな!オレはシド!ゾーラ族の王子だ!」
「…………え?ん?」

目の前の彼が何を言っているのかわからなかった。だってシドは私よりも小さかったのに、目の前のシド(仮)は私よりもミファーよりも大きいのだ。

「……どうしたんだ?」

混乱している私に声をかけてくるシド(仮)。

「え、いや、シドって私よりも小さいですよ!?」

思わずそう言うと、シドさん(仮)は何を言っているのかわからないというような表情をしてきた。いやこっちの表情だわそれは。

「とりあえず仲間のためにも早く休んだ方がいいゾ!宿はこっちだ!」

シドさん(仮)はそう言うと、私の体をヒョイと持ち上げた。……え?人生で初めてのお姫様抱っこ、なんだけど。思わずカチコチに固まる私に気づいていないようで、すぐに宿のベッドに寝かしてくれた。あ、宿のお金、はらわなきゃ……なんて考えているうちに、疲れからか意識を手放してしまった。





どうやらぐっすり寝ていたらしい。ベッドから起き上がると、すっかり体は楽になっていることに気がつく。後であのシドさん(仮)にお礼を言わないとな。あ、宿のお金払わなきゃ!そう思い、急いで声をかけた。

「あの、おはようございます!お金払わずに寝てしまってすみません……!今すぐ払います!」
「……え?お金ならシド王子に貰いましたよ?」
「え?」

払ってくれてたんだ……今すぐお礼言いに行かなきゃ。ってか、本当にシド王子って呼ばれてるじゃん……。本当にシドってこと?

「泊めてくださりありがとうございました!」

そう言って宿を出ると、シドさんはまた像の前に立っていた。急いで駆け寄る。

「シドさん!」
「ん?おお!もう大丈夫なのか!?」
「はい!えっと、お金返します」
「いや、いらないゾ!受け取ってくれ!」

お金を出そうとすると、断られてしまった。シドの顔を見上げると、ニカッと笑顔を向けてくれた。……シドそっくりだ。

「……本当に、シドなの?」
「あぁ!オレはシドだゾ!」

嘘をついている様子ではない。つまり、と考えようとしていると、

「シド王子!おはようございます!」

と、他のゾーラ族の方がシドに喋りかけた。

「あぁ、おはよう!」

と、シドは元気よく挨拶を返している。周りのゾーラ族はこれがシドだということに違和感を抱いていないようだ。つまり、本物、ってことだよね。……私もしかして未来にトリップしちゃった、てきな?なんて、非現実的な考えが頭に浮かぶ。

「あの、ガノン討伐って、成功しましたっけ」
「……いや、失敗したゾ。それがどうしたんだ?だいぶ前の話だが……」
「……その失敗した日から何年経ちました?」
「丁度100年、だな」
「……ミファーは今いますか」
「いや……ミファー姉さんは……亡くなられた」

シドは悲しそうな顔をしながらそう言った。
失敗したというのは、なんとなくわかっていた。あの状況で成功するなんてありえなかっただろうから。でも、あれから100年経ったことと、ミファーが死んでしまったということは、こんな急に言われても現実味が湧かなくて混乱する。ミファーに、二度と会えない?少し泣きそうになったが、ぐっと堪える。シドの前で泣くわけにはいかない。すると、シドが「そういえば、君の名前はなんていうんだ?」と質問してきた。
……正直に答えよう。100年経ったなら、私のこと覚えてるかわからないけど。

「……私、ナマエなの、覚えてる?」

そう聞くと、シドはビックリしたように固まった。







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