奴が自分に変な感情をもっていたのは知っていた。それは生暖かいような、酷く冷たいような、よく分からない感じ。
俺はそれを今まで無視していた。現在も気づかないふりをしている。
恐いから。

よく分からないんだ。無言で抱き締められたって、俺は泣きたくなるような気持ちにしかならない。だって、奴は俺を抱きしめて幸せだって言うけど泣いてるんだよ。実際にじゃない、心で。
奴のことなんて全然知らないしわからないけど、それだけはわかる。俺を抱きしめて心で悲しんでいるんだ。

なんでだろうな。最初は触るなって拒否してきたけど、一度触れられたら許してしまう。


「ごめんね」


何に対しての謝罪かわからない。わからない事だらけだ、本当に。
奴のことも、自分が奴に抱いている感情も。


「謝るなよ」

「ごめんね」

「だから…」

「僕がキミのこと…」


それ以上言葉は紡がれない。ぎゅっと唇を噛みしめて、顔を見られたくないのか俺を更に強く抱きしめた。

ほら、また悲しんでる。
なんでだよ、なんで俺にふれて泣きそうになってるんだよ。
馬鹿みたいじゃないか、いつものお前に戻れよ。頭のネジが1、2本抜けてる間抜けなお前に。
俺をからかって楽しんでる性悪のお前に。

時々こんなことになるから、困るんだよ。

胸が苦しい。なんだ、もう嫌だよ。苦しいよ、お前に抱きしめられて苦しいよ、N。


「ごめんね、ありがとう」


解放される身体。少し肌寒い。


「…どうして…」

「ブラック…?」


どうして、何も言わないんだ。
何か言いたそうにしていたじゃないか、何を言おうとしてたんだよ。
そんな顔で……俺のこと離すなよ…。


「……お前といると変になる」


抱きしめられて苦しくなる。
解放されると泣きたくなる。
離れたくない、て思ってしまう。


「ごめん」

「また、謝った」

「うん…ごめんね」

「もういい。俺、お前のことよく分からない」

「僕も、自分のことよく分からないよ。何でだろうね、でも…真実なんだろうね。この…」


心臓のある場所、そこの前で手を握る。
Nは何を思っているのだろうか。困ったふうに笑顔を浮かべて、少し首を傾けた。


「ブラック」

「変な動きするなよ」

「ブラック」

「…なんだよ」





「待ってて」





"待ってて"。
なにが、とは聞かなかった。理解はしていないけれど、此処でそのことについて問いかけるのは違うような気がした。

今度は満足そうに笑うNの顔を見る。心拍数が急に上がったことに気づかないふりをして、気が向いたらなと可愛げのない返事を返した。








今はまだ動かない

(いつか伝えるよ、だから待っててね)







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瀬都様リクエストのN→(←)黒でくっつく少し前の話です。

ほのぼのかシリアスかで迷ったんですが…シリアスのほうを今回は書いてみました。
シリアス好きなのですが、自分が書くとどうも少し可笑しくなってしまうみたいです…。

Nがひたすら謝ってるのは、僕なんかがキミを好きになってごめんね。とか色々な意味を含んでたらいいと思いまして…^^;
うう…表現できない自分が少し憎いです。

ですが、片思い片思いはあまり書かないので新鮮でとても面白かったです!

瀬都様、リクエストありがとうございました、こんなものでよければ貰ってやって下さい。

では、BW発売おめでとう!