王様が気に入っているという噂の少年を捕まえた。
少年は子供だった。力を籠めれば折れそうな腕や幼い顔立ち。何故こんな少年を…俺には理解できそうにもなかった。

プラズマ団は基本人間という種族を好まない。その一番が王様であり、我らは言わばその王様のポケモンを第一に考える姿勢に惚れた信者というやつだ。
なのにその王様が人間に構っている。見たこともないくらい笑顔で楽しそうに。

この少年を捕らえたのは、それで組織が決裂するのを恐れたゲーチス様の命だ。

痛めつけてやった。ポケモンを少年から遠く離れた所で解放してやった。……何故か少年のポケモン達は俺たちに襲いかかろうとしてきたが、ゲーチス様がその考えは間違っているとちゃんと粛清して下さった。これでもう彼らも馬鹿な人間には近づかないだろう。

痛めつけている内に少年は気を失った。少年は泣かなかった、助けを求めなかった、変わっている子供だった。


…呻き声。きっと少年の身体は傷だらけだ。主に蹴りつけたり殴ったりしたから打撲の後ばかりらしいが。
俺は少年が寝ている部屋で少年のことを見張りしている。今日は偶然仕事がないからって、任されたのだ。
別に構わないが…俺みたいな下っ端に任せて大丈夫なのだろうかと少し心配になる。自分で言うのもあれなんだが、よく漫画とかアニメとかで下っ端に大事な奴の見張りを任せた悪の組織は、大概の場合拉致した相手に逃げ出されてしまっている。勿論、それは漫画やアニメの世界だけだろうだが…それでも心配というか。
もし、だ。この少年が逃げ出してみろ。俺はクビだ。いや、クビなんかで済めばいいが………やめておこう、今は仕事に集中だ。




特に何も起こることがなく、1時間が過ぎた。
少年は目を覚まさない、時折そのような仕草をみせるが、起きることはなかった。

暇、である。

仕事だとわかっている。だがこれほどまでにやりがいのない仕事など初めてだ。
はやく起きてしまえば、この暇な時間もどうにかなるのに…と少年の顔を覗き込む。
幼い顔立ちは苦痛の表情を浮かべていた。何となくそれが嫌で少年の頭を撫でる。
少年が苦しんでいる原因は自分達にある。だが、子供にこんな表情は似合わないと思ってしまったのだ。
矛盾している、俺は苦笑いをした。人間の心配をするなんてプラズマ団らしくない。俺達は王様やゲーチス様、ポケモンのことさえ考えていればそれでいいのだから。

少年のほっぺたをつつきながら、思う。
コイツだって結局はポケモンをモンスターボールという狭い部屋に閉じ込めて、こき使っている――俺達にとって――悪党なのだから。


バンっと大きな音が背後から聞こえた。油断しまくっていた俺は驚いてビクリと肩を揺らす。少年のほっぺをつついたままだって指は、驚いて揺れた拍子にうっかりとほっぺに攻撃してしまった。
強くささる指、背後から聞こえた大きな音、少年が目を覚ます、大きな音の原因は同僚のプラズマ団、N様にバレたかもしれないと叫ぶ、俺絶体絶命じゃないか!きっとこのまま王様や少年に処刑されて人生を失うんだぁああああごめんよ母ちゃん親不孝ものでぇえ!!

…て、ふざけている場合じゃない!


「王様はなんて言ってるんだ?」

「怪しい行動をしている、君達が僕に秘密で何かしているのは知っているさ、て」

「時期にバレるな………どうすればいい?」

「この餓鬼のことを探しているみたいだ…バレるとどうなるかわからない。お前は隠し通せ、俺はゲーチス様に報告してくる!」


じゃあまかせた!と同僚が去っていく。ちょ、ま、と言葉になっていない音を発して俺は少年に視線をあわせる。

に、睨んでる…のか?

眉間に皺を寄せて、俺のことを睨んでいる?少年。ぶっちゃけて言おう。本人は睨んでいるつもりなのだろうが、全然怖くない。むしろ可愛いもんだこんなもの。
ゲーチス様に睨まれてみろ、腰がぬける。いやまじで、あの人は怒らすと恐ろしいのだ。


グイッと服を引っ張られる。結構強い力だったので慌ててバランスをとった。


「俺のポケモンは」

「か…解放したさ。当然だろ、お前はポケモンという素晴らしい生き物を閉じ込めてこき使ってたんだ…文句は聞かないぞ!」

「別に、文句なんて言わないけど」

「は?」


予想外の答えだ。


「俺のこと信頼してくれているなら、自分から戻ってくるさ。それより…」

「え、わっ」


間抜けな声がでた。しょうがない、俺を驚かせた少年が悪いんだ。
いきなり立ち上がって俺に急接近してきた。また服を引っ張られたからビックリしたんだ、少し下を見れば間近に少年の顔がある。殴られるのだろうか、痛いのは苦手なんだけどな…。


「俺のこと逃がしてよ」


にっこりと少年が微笑む。子供らしく、無邪気に。
純粋に可愛いと思った、心音がうるさい気がする。ななななんだ俺、このくらいのことで動揺してどうするんだ…!でも、可愛い…


「じゃないと俺、Nに助けを求めてアンタを倒しちゃうかも」


さっきまでの胸の高鳴りが嘘みたいになくなった。多分今の俺、顔青白いだろうな。

もし少年が王様に助けを求めてみろ、俺はクビ、そしてどうなる…あああああ、駄目だ恐ろしい!


「おおお俺がそんなことさせない!」

「あははっ動揺しすぎ、冗談だって。Nに助けを求めるとか死んでも御免だし」

「っ騙したな!」

「子供にだまされるくらいアンタが単純なだけだろ」


なんなんだこのクソ餓鬼!!文句を言おうと口をひらくが、少年が先に喋り出す。
何故か少年は壁を見つめていた。


「子供の俺が1人でなんか出きるわけないじゃん。1人でなんて」

「……やたら1人を強調しているのは気のせいか」

「気のせいじゃないよ」


爆発音と共に壁が砕け散る。いきなりのことで俺は状況についていけていなかった。

煙りのむこうに六体のポケモンのシルエットが見えた、気がした。


「ありがとう、皆」


少年が崩れ去ったほうに歩いていく。煙りがはれた時には、少年はもうポケモンの背の上だった。


「信頼してくれているなら、戻ってきてくれる。俺とコイツらは仲間だ。アンタ、もうちょっとポケモン達のことも考えてやりなよ」


じゃあね、少年はそう言って何処かへ消えた。



少年の言葉が頭で何回もリピートされる。
何故なんだ、ポケモンのことを第一に考えているのは我らなのに、何故少年をポケモンは選ぶのか……


少年が惹かれる理由がわかるような気がして、悔しかった。

きっと王様もポケモンも、そして俺も、


少年の強い意志を宿す瞳と、あの笑顔に惹かれたんだろうな、

なんて








END




―――――――
水琴塔様リクエストのプラズマ団男性×♂主人公です。

これ、×になってないですね…申し訳ないですorz
プラズマ団男性とのことで、七賢人もいいかなぁとかも思ったんですが下っ端にしました。下っ端くんのキャラは定まらないようです(苦笑)

とても書くのに時間はかかりましたが、色々と妄想が膨らませて楽しかったです!

水琴塔様こんなものでよければ受け取って下さい!!リクエストありがとうございました!

BW発売おめでとう!