starving (久々鉢)


※現パロ、没

「邪神って、わかりますか」
 白の壁に映える真っ黒な眼差しで、少年は前触れもなく訊いたのだった。


 心遣いと分かっていても、私はそこで問いたくなる。〈その瞳こそ邪な者を映し出していやしないのか〉と。
「俺も、ゲームでやっただけなんだけど」
 私が首だけで振り向いたのを気に喰わなかったのか、彼は眉を多少(、それは大体、ニンニクを溶かした油が前腕に跳ねたときの程度に)顰めてから、こう付け加える。
「アンタはゲームとかやらなそうだね、まず友達が足りないっぽい」
「ゼロとしないでもらって有難う」
 一度目を丸くして瞬いたあと、フフと笑みを漏らすのを、美しいと感じたのは軽率だったろうか。否、美しいならば美しいのだろう、それが今までは唯一孤高でなかったというだけで。
「君は、友達が多いんだな。ロータリーで見かけたことが」
 顔色が変わり、息をスウ、と入れて、彼はきっと諦めたのだろう。一方で私の心臓は無限を見たようであった。裏切り、背徳、妬み、漂白、それらを全て置き去りにして、一心不乱に血を運ぶのは、もはや何のためなのか。
「言わなくていいのに」
「別に咎めてなんかいないだろう」
「それは分かってます。分かってる。ただ、台無しだなって」
 ああ、その自嘲をどうか熱い心に換えて、例えば過去の私をなぞってみないか――駄目だ、駄目すぎる、我ながら気色の悪い台詞だ。きっとこの壁の向こう側で、見ておいでなのだ。ただ単にすり抜けられないだけで、私が捧げた時間を投げ捨てたことも、私が省みず跪こうとしていることも、全部、ぜんぶ。謝りたいことを必死で喉元に留め、しかし私は目の前で三角座りをした神と対話する。
「何も気にしなくていい、ここでは」
「本当にそう思ってるの? 閉じ込められといて、その心持ちって、どうかと思うケド」
「本当にそう思っている」
 この感情は慈愛だ。本当にそう思っている。生まれ変わることだけを望んで邁進した私は、極めて正しかった。そう望ませた、システムで縛ったあなたも正しかった。そしてたった今からは、正しい彼に仕えて、だから私はもう二度と、あらたな空気に触れずに終わる。
「まぁ、ここなんにも見えないしね。せめて窓でもあればなあ。時計は、持ってますか?」
 持っていなかった。思えば彼に協力できそうな類のことを、私は一般的になにも持ち合わせていなかった。誇れるものだって半分を先程捨てたし、もう半分は――道具がなければどうにも苦しい。これもあなたがピアノを作ったせいで、もうすぐ私はあなたを恨む。
「楽器かあ。やろうと思ったこともないな。センスも、機会もなかったです」
 彼が照れくさそうにするから、辛くもあなたを恨む暇が無くて済んでいる、たかがそれだけのこと。
(中略)

 それを恥じる私はやはり、邪な影をたたえて、彼の瞳に存在しているのです。




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