disposable23, 4 (久々鉢)*


※現パロ、人外


 この世の維持に必要なものは愛だと教え合うだけの関係。種族とか使命とか、そんなのどうでもいい。



 木造りにニスが塗りたくられた、百円均一で売ってる素材みたいな壁をした部屋。彼らはここに、他人と共同で暮らしを構えている。
「……また吊られた」
 ブスッとした顔で久々知兵助はリビングルームへ帰ってきて、ソファに勢いよく埋まる。寡黙が時によって悪なのを、彼は気がついているのだろうか。
「バレてるんじゃないか、人間でないって」
「馬鹿いえ、三郎だって尻尾ついてるじゃんか」
 兵助は足を高く上げ三郎の背側に伸ばして、ツン、とつま先で突く。鉢屋三郎の尻には尻尾、背中には羽が生えていた。仕舞わないと誰か帰ってくるぞ、と兵助は咎めているつもりらしい。
「だぁ! 足はやめろこんちくしょう」
 手ならいいのかよ、とか、ビクッとしてたくせに、とか、ジト目で見て色々言ってくるので、三郎は兵助を面倒くさいなあと思っていた。たかが暇つぶしのゲームに負けてきただけ、だろうに。
「お前が喋らないのが悪いんだろが」
 こうなったら最後、彼の面倒くさいモードが切れるまで、付き合ってやらねばなるまい。駆け引きには多少は心得があるとの自負もあるから、指南してやりたい気持ちもなくはない。
「喋ったさ。この前お前がそう言うから」
 三郎は、ほう、と意外に思った。輪の中で自発的に話題を先導する兵助を想像して、心の中で(あくまで好意的に)笑った。
「でもさ、逆効果だったみたい。自分だけが真剣だった、ってこと、あるだろ」
「さあ、私真剣になったことないし……」
「はーん。だからお前は女にモテないんだ」
 よっと。兵助はソファを離れ、キッチンの方へ立つ。女にモテない、が悪口には聞こえてこなくて、三郎は兵助をあらためて、別の種類の者なんだなあと隔絶したところに置いた。自分と彼を隔てるのは、カウンターテーブルや漏れ入る光によって出来る室内の陰影だけでは、ないのだ。
 そもそも人間の女にモテて何になるのだろうか。負け惜しみでなく、三郎は無感情に近い位置でそう思う。また私みたいな不毛がこの世に産み落とされる。それは憐れ、というほかないのだから。
「三郎さ」
 遠くから声がする。兵助の目線はあくまで注がれるコーヒー、豆乳の描く放物線、二つの液体が混ざる界面に対してあるのに、三郎は呼吸が出来なくなるくらい見つめられているように感じた。
「したくなった?」
「……さぁ」
 どちらかといえば、「そうでもない」が正しかったが、兵助がその気であるのなら、まぁ。なんであろうが求められれば結局嬉しいし、せっかくこの心臓が動いていても、自室にこもってセックスぐらいしかすることがないので。


「お前、さぁ、吸わないんなら、言って……、よ」
 出来るだけ抽送の折り返しのところで言葉を発し、平常を装おうとするのは、三郎のプライドがそうさせたものだ。
「んー今日は単純に」
 兵助は三郎の腰を押し上げていた手を離し、繋がっている部分の入り口を、指先でそっと撫でる。
「ヒッ」
「入りたかったよ、お前に」
 この男、言わなくていいことは言ってくる。聞けば呆れ返りそうな台詞も、特別な距離で言われると、もしかして特別な意味なんじゃないかと期待してしまう三郎である。
「狭くなった」
「言うな……」
「分かった、言わない」
 兵助はニッコリ笑ったあと、真剣な表情に戻ってまた動き始める。顔を見ていると腹が立ってくるので考え事をしてやろうとして、ズルっと壁と固体が擦れる感触を捉えてその後、三郎の頭の中は自分の体内のことで溢れてしまった。触れているだけで気持ちがいいのに、気持ちがいいように触れてくる。そんなの、
「はんそ、く、だわ……」
「?」
 俺はちゃんとルール守ってたよ。不慣れCOだってしなかったし対抗に暴言だって吐いてない、今日の村は温和な奴ばかりだったからそれにも助けられたってのもあるけど。ただその、俺役職引いてはしゃいじゃったからさ。そこは反省してる、そういうこと。――関係ない日常報告を並べられても何も理解出来ない。自分の頭が使い物にならなくなっていく様を目撃して、三郎は酷く昂ぶった。兵助が狙ってこれをやっているのであれば、大したものだと思う。やっぱり腹が立つので、三郎は兵助を睨みつける。
「ア、三郎、その顔好き」
「ふっ、サービスです、っ」
「三郎、三郎、さ、」
 肩の辺りに息を埋めて、名前を何度も呼んでくる。回数を重ねる度に呼吸が乱れて、やがて聞き取れなくなって、詰まるようなうめき声、熱と反射、ため息。
「ハァ……」
「……テメェ、何がルール守ってるよ、だ」
 マナーの方はどうしたとオラつきたくなって、しかし挿入の前にボヤッとしてゴムの有無の確認を怠っていた自分にも非はあるかもとか、そもそも中に出されて怒る淫魔がいるんだろうか、とか思い至り、じわじわ冷めていく温度も気持ちがよくて、握った拳を開いて兵助の首の辺りにぽすんと落とす。
 荒い鼻息はやがて、すぅ、すぅと静かなものに変わった。暑い。離れて欲しくなって、手のひらを後頭部に撫で付けると、
「ゥ、さぶろ、きもちわ、るい」
と兵助が言う。
「え、まさか」
「ゴメン」
 顔の下に潜り込んでその色を伺うと、極めて青白い。
「揺らさないで、アァ、でちゃう」
「おま、馬鹿、だから聞いただろうが」
「ウン、ウン……」
 大抵、性行のときは精液と血液が交換条件になっていたけれど、今日は兵助のほうで要らないと言ったのだ。兵助は瞼を固く閉じて、耐えるようにじっとしている。三郎は、こっちの顔のほうがよっぽどエロいな、なんて不謹慎なことを思った。
「しょがない、楽になったらでいいから」
「ンン……」
「待っててやるから、このまま、な」
 唸り続ける頭をヨシヨシと抱えてなだめる様は、まるで聖母じゃないか。けったいな事実もあったものだと三郎は自嘲して待つが、この後血を摂って復活した兵助に「もう一回したくなったわ」と言われて犯される未来を、彼は未だ知らない。




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