「徹くん、私のこと好き?」
「うん」

徹くんは、いつだってそう言って、私を好きといってくれないのであった。でも、返事じゃなくて愛の言葉をちょうだいよなんて女の子はいえない。引かれる手をギュっと握って、不満を露にすると、徹くんは仕方ないといったように肩を下げてドーナツ屋さんにつれてってくれる。小さくて色とりどりのいろんなドーナツが入っているのと、何もついていないシンプルなドーナツを1つとってお姉さんに渡す。お姉さんは徹くんがニコリと笑うと、頬を真っ赤にしてしまうから、私はドーナツ屋さんが実は嫌いだ。徹くんは勝手に勘違いしている。

「はい」
「そっちがいい」
「これは俺のだから」

そういってもらったドーナツの、いちご味を食べる。すっぱいようなあまいような、そして食管はふわふわしている。まるで魔法のようだ、と口の中で転がしていると「おいしい?」と徹くんは首を傾げた。おいしい。

「帰ろうか」
「やだ」
「ダメだよ。ほら、カラスが鳴いてる」

そんな子供だましは利かないよ、そういうと徹くんはやれやれと言って私の頭を撫でた。お願いだから聞いてくれよ。強くも弱くもない単調な口調がそういって、私を撫でる。そういわれると、私は徹くんに嫌われたくないから、頷くのだ。

「この前お兄ちゃんとバレーした」
「岩ちゃんと?ていうか、二人で?」
「高校生になったら、バレーして、徹くんを負かしてやる」
「ええ、怖いなあ」

大袈裟に驚く徹くんの腕に絡まるように抱きついて「あっという間だから」と呟いた。私が大人になることなんて、あっという間だ。それこそ、徹くんが大人になるよりもずっと…。

「待ってるよ」

徹くんは私の頭を撫でて、よいしょ、という踏ん張り声と一緒に私を抱きかかえた。肩の辺りに頭を乗せて、目を瞑る。
「徹くん、大好き」「うん、俺も」ほらやっぱり、徹くんは好きとは言ってくれない。ずるい人だ。