メリメリメリーゴーラウンド
長い間放置していたもので後半あたりかなり飽きて無理やり終わらせるという最悪な事をしています・・・
供養ということで・・・

誰もいない遊園地というのは何故か罪悪感がある。
本来であれば人が行き交う場所を無償で乗り回すからだろうか。
遊園地に行っていた頃は遊園地を自分だけで独占してみたかった。実際それは叶えられたが人のざわめきが全く無いのはかなり寂しいものだ。

「ね、メリーゴーランドに乗ろうよ」

ここに来て以来きょろきょろと辺りを見回していた狛枝が、やっと第一声を発した。

「あ、あぁ、いいぞ」

少し驚いた。
初っぱなからこのチョイスをするとは全く思っていなかった。
メリーゴーランドというのは正直恥ずかしいが、断る理由も何もないので了解した。
狛枝の方から提案すること自体が珍しいので、きっとよほど乗りたいのだろう。

「ほんとに!?良いの!!うれ…うれしい…な」

今度は狛枝が驚いた。まさか了解してくれるとは思ってもみなかったというような様子だ。ちょっとだけ目を伏せた。

「しかし高校生にもなってメリーゴーランドに乗るとは…」

「いいじゃない、誰も居ないんだし。
ボクと日向クンだけで貸し切りだよ」

普段大人びている狛枝が急に幼く見えた。メリーゴーランドをチョイスした点でもそうだが、いいじゃない、とにっこりと笑った顔が子供のようだった。
今まで顔を特に注視した事は無かったが、意外と童顔なのかもしれない。
高身長で美形というイメージだけだったので童顔というと何か近いものを感じた。

「ま、そうだな」

貸し切りというと大金持ちや番組のロケなどという感じがある。
思いがけずこんなよく分からない所で実現してしまったのは、やはりこの島はおかしいという事を印象付けた。
しかし今日の狛枝は何時もの自虐が少ない。

もし今の自分の状況をリアルタイムで伝えられるSNSがあったら今頃「メリーゴーランドなう」などといっているのだろうか、などと考えながらメリーゴーランドに乗り込んだ。
まもなく、メリーゴーランドがゆっくりと動き出す。
やはり無人だ。
スイッチなど何も押さなくても動くので、きっと台座か馬の乗り物に一定の体重がかかったら動き出すとかいう仕組みだろう。
随分危険だ。
狛枝は白馬に、俺はその隣の茶色の、狛枝のより少し小さなサイズの馬にのった。
いずれも座るところに装飾がされている。
ウサミの乗り物もあるようだがきっと誰も乗らないだろう。
狛枝に白馬というのは実に様になる。
白馬の王子様なんて言われても遜色がないと思った。俺はさしずめ只の馬術部だ。
やはりちょっと恥ずかしいが、誰もいないしまあいいだろう。
徐々にスピードをあげ、お気楽なBGMも流れ始めた。
どうやら俺が乗っている馬と狛枝が乗っている馬の上下の動きのタイミングは丸っきり逆のようで、ちぐはぐな感じがする。

「ボク、遊園地来るの1回しかないんだよね。」

「そうだったのか!?子供のころとか、」

驚きで思わずそんな事を口走ったがそうか、狛枝の両親は幼い頃に亡くなってるじゃないか。
着いてからきょろきょろ落ち着きが無かったのもあまり見慣れないからだろう。

「…ごめん、行けるはずないよな。」

今までこいつは両親関連の話題が出たとき、どうしていたんだろう。
そもそもそんな話をする人も居なかったのかもしれない。
同時に以前思ってた事の愚かさを悔やんでいた。
中学生の頃、親が居なければいいのに、と考えた事があった。
親への反抗期だったというのも勿論だ。
しかしそれ以上に、「親が居ない子供というのはかっこいい」といったおかしい自論があった。
親がいないというのは何だか非現実的で、そんな、「他人と違う」というのがかっこいいという風潮だ。
極めて特徴がない俺は、それに対してのあこがれが強かった。
親がいないことで一種のステータスになり、その事情を聞かされる友人に憐れんでもらい。とにかくそんなかたちでも良いから、何か個性が欲しい。そんな風に思っていた。

「そんな、気にしないでよ!!ボクなんかの事で日向クンが気を落とすなんてこっちが謝りたいくらいだ!ああ、長々と言うと迷惑だよね。日向クンは遊園地とか行ってたの?」

違うと否定するように手をぶんぶん降っている。
以前自虐が長すぎると俺が注意したところ、それ以来狛枝は長々と言うのをセーブしてくれるようになった。
自分でもいけないと思っている、と前にも言っていた。
やればできる、と言えばおかしいが、自分をコントロールをすることは出来るのか。

「…まあ、人並みには行ってたんじゃないかな。」

他人事のように言うのは、覚えていないから。
断片的な記憶。
ジェットコースターやお化け屋敷は怖いから乗っちゃだめ、と過保護ばりに言ってきた親。
メリーゴーランドに乗って親に手を振る俺。
買ったばかりのポップコーンを全部こぼしてしまっても、親は怒らなかった。
無言でまたもうひとつ、買ってきた。
これしか覚えていない。

「そっかあ。いいね、小さいころの日向クン見てみたいな〜。
遊園地ではしゃぐ日向クン。」

狛枝は素直に羨ましがった。
やはり本来楽しめた時期であまり楽しめなかったのだから、羨ましいだろう。

「はしゃいでなくて悪かったな」

「まあまあ怒らないでよ」

きっと睨み付けてわざとらしく仏頂面を作ると、狛枝は苦笑した。

「にしてもメリーゴーランドは本当に…平和だね。ぐるぐる回るだけ。平和な王子様になったみたいだ。時が長く感じるけど、退屈はしないね。なんでだろ」

ぐるぐる、ぐるぐる。
俺らが話している間にもメリーゴーランドは回る。
馬なんて本当はこれよりずっと速い。
走ったらもっと速いし、こんなふわふわと浮遊してるような乗り心地じゃないだろう。
現実に目を背けられない。

「子供のころだったら純粋に楽しめたんだろうな。」

再度子供のころの記憶がフラッシュバックする。
親が手をふりかえしてくる。
楽しい、と、確かに思っていた。
でも子供ながらに、乗り物は乗り物、と割りきっているものがあった。
つまらない子供だ。
ろくに夢すら見られないのか。今俺がいうことじゃないけど。

「そうだろうね…でもボクは凄く、今、…楽しいよ」

まるで楽しいことがいけないことかのように、一言一言かみしめて言った。
さっきもそうだった。もごもごと何事か呟いて顔を伏せていたが、あれは「うれしい」と言っていた。

「狛枝、楽しいか?」

少し、きつく聞いた。また狛枝が余計な事を考えている、そう思った。

「……う、ん。…もちろん」

やっぱりだ。
こいつは何に怯えている?
なんで?

「…なぁ、楽しいことは素直に楽しいって言っていいんだぞ」

顔は伏せたままだ。メリーゴーランドの速度が少しずつゆっくりになっていた。

「…ボクだって言えたら言ってるよ!!だ、だって心の底から楽しいって思っちゃったら、言っちゃったらさ!ボクのせいで日向クンに何が起こるか分からないじゃない!!キミが死ぬかも知れない!!」

メリーゴーランドが止まった。終わったのだ。
幻想の時間が終わったのだ。この瞬間、ここはただの現実に戻った。
軽快でチープなBGMが消える。
ああ、そうか。
狛枝はそうだった。
幸運とか不運とか、そんな非絶対的で不安定なものから逃れられないんだ。
でも違う。

「俺に何の関係があるんだ?お前の気持ちと幸運も何の関係もないじゃないか。お前が楽しいって言ったところでそれは気持ちの問題なんだから、俺やお前が不運なことに巻き込まれるとしてもそれはお前の才能とは何ら関係ない。狛枝は悪くない。
だから大丈夫だよ。」

幼い子供に言い聞かせるように、優しく言った。
今まで狛枝はどれ程言われていたんだろう。
お前のせいだ、と。
狛枝のせいだと勝手に決めつけて、それで解決させようとしているに過ぎない。
狛枝はいらないところにまで責任を感じているんだ。

「…ボクは…悪くない」

俺が言ったことを繰り返した。
死んだ馬の上に、止まってもなお降りない。
俺は馬から降りた。そして、狛枝が乗っている白馬の正面で立ち止まる。

「そうだ。お前が関係あるのは、お前に何か幸運な事が起きた時だけだろ?」

狛枝は戸惑っている。
まさかこんなに自分が悪くて当たり前だということをきっぱりと否定されるとは思っていなかったのだろう。

「で、でも、ボクなんかが日向クンと遊べてましてや乗ってみたかったメリーゴーランドに乗れるだなんて幸運」

「それは幸運なんかじゃない!!」

どうやらこいつは幸運や不運に敏感になるあまりに基準がよく分からなくなっているようだ。


「こう考えたらいいんだよ。俺と遊ぶのは絶対的で、俺とメリーゴーランドに乗ることもいつか必ず起こっていた事だって。それが今日だっただけだ」

少し語調を荒くしてしまったので、また、できるだけ優しく言った。
狛枝が白馬から降りた。そろそろと。
謝って滑り落ちないように。
こんなに俺が近い所にいるんだから支えてやれるのに。

「物事全てが幸運と不運で構成されるほど単純じゃない世界だって、狛枝だってわかってるだろ?なんて、俺に言われたくないだろうけど」

「…でも、例えこれが幸運じゃなかったとしても…ボクにとっては命に関わるんだよ。ボクと友達であることによってキミが死ぬかも知れない。
前も…そうだったんだ。ボクの初めての友達は犬だったんだけどさ、大切にするあまり犬は死んでしまった。不慮の事故でね。」

犬。俺にとってはただの動物、ペットだ。
正直犬と人が友達ということはよく理解できなかった。
不慮の事故、と一言で片付けたが、きっと一言ではいいきれない程の苦しみ、悲しみが背景にあるだろう。
「だからさ、死なせるなら最初から仲良くしなければいいんだって思ってた。
だけどキミがその気持ち以上に、こんなボクに構ってくれたんだよ。友達になりたいって本気で思わせてくれたんだ」

「…ちょっと俺への皮肉はいってないか?」

「そんなわけないでしょ。」

「だから俺が死ぬのが怖いって?」

「…う、ん。安直に…言えば、そう。」

「俺はその言葉を待ってたんだって。あーだこーだ理屈じゃなくて。」

「直接言えるほどボクは強靭な勇気をもちあわせていないよ」

「そっか。…でも俺は死なないから。不運なんか知るか!って感じだ」

「…そこまで潔いと本当に死なないって思ってきたよ。元凶になるボクが言うのもなんだけどさ、その…死なないでね!」

「守ってくれないのか?」

と不安げに聞いてみると、

「守る」

力強い返事が返ってきた。

「そう言ってくれると心強いよ。」



「…狛枝、楽しいか?」

「…うん。…楽しいよ。」



「…日向クン。」

「ん?」

「……す、」

「今日は本当にありがとう。次、何乗ろうか?」

狛枝が何かを言いかけた気がした。が、きっと気のせいだろう。それを聞き返すのも野暮だ。

「こちらこそ。そうだな、お化け屋敷でも行くか」

「うん、いいよ!」


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