バレンタイン は 片思い?
「ハイ日向クン!!チョコあげる!」なんて言えたらどんなに良いことか!!

*

「ハイ、狛枝。ハッピー、バレンタイン」
日向クンは一単語一単語区切るようにそう言った。
それは緊張していたからなのかは分からない。
そして、何がなんだか分からないボクの、だらんと力の抜けた右手に小さな紙袋を握らせた。
「…なに?これ」
とりあえず思った事を率直に言ってみると、
「いっいや!!今日バレンタイン、だろ!だからそのホラ、最近男同士でも友チョコとか言って交換するし別に変な意味であげる訳じゃなくて!」
と、変にあたふたしながら言い訳をした。
そんなことはボクだって知っているよ。
チョコを渡す習慣があるだなんて、そんなことは知っているんだ。
今日はバレンティヌス司祭の命日っていう厳かな日なのに日本だけが浮かれてチョコを渡し合っている事も知っているよ。
ボクが疑問に思っているのはそこじゃない。右手に握らされている紙袋を見る。
なんだ、これは。
今の文脈からすると間違いなくチョコレート?
これは。
「…あ、チョコとか嫌い…だったか?」
日向クンの声なんか聞こえない。
この世界全ての音が消えた。
ボクの世界の中はしんとなった。
頭が真っ白とはこの事か。
ボクの頭は元々真っ白だけど。
これは。
キミがボクにチョコをくれるということはつまりキミはボクを思ってくれている?
キミの事を勝手に思っていたのは一方通行じゃなかったってこと?
これは自惚れじゃなくていいの?
キミはボクの事を意識してくれていたの?
あわよくば好きでいてくれているの?
だからキミはこの幸運を捧げてくれるの?
分からない。
日向クンの気持ちが分からない。
でもキミがボクにチョコを…
と、ここで考えたことが振り出しにもどり、
「狛枝!!」
「はいっ!!!!」
日向クンがボクを呼ぶ声でボクはこの世界に戻ってきた。
条件反射で声が裏返りながらも返事をした。

「あ、ご…めん。いや、そのあまりにも嬉しくて!!こんなゴミクズに苦労して作ったチョコをくれるなんてキミって相当暇なのかな?それともボクの事を好きでいてくれてるのかな?」
あわてて言い訳をした。
日向クンに似てしまったのだろうか。
ボクと日向クンは本当に似ているね。
ボクが今考えたプランでは、
ボクも好きだよ。そう軽くいいながら何気なく渡すはずだった。
ポケットに入っているぐしゃぐしゃになっているであろう小包を。
キミがくれるなんて思っていなかったから、ちゃんと計画まで立ててきたのに、すっかり都合がよくなってしまった。
それでどこで取り違えたのか。
ボクは、
「結婚してください!!!!!!」
と、あろうにもないこと、いやあわよくば最終的に考えていた事を叫んでしまった。
日向クンは固まっていた。とてもびっくりしていた。
ここだけ時間の流れがゆっくりになったかのような錯覚に襲われた。
なんだか訳が分からない。自分で何を言っているのか分からない。
いやでもキミが好きでいてくれているならばこうなりたいんじゃと極めて自分都合な事が一瞬よぎる。
いや、だめだ!!
だめにきまっているだろう。
そもそも男同士で結婚だなんてそんな非現実的な事、じゃ、ないか。
いたたまれなくなって恥ずかしくなって、キミに無理矢理ぐしゃぐしゃの小包を押し付ける。
そして、反対方向を向く。
逃げる。
ボクは勝負に負けた。
ボクが勝手に始めた賭けともいうような戦いにまけた。
そこには日向クンだけが取り残されていた。
それより。
今なお全速力で走りながらも、ボクは思い出す。
そんな前提であんな事言ったけれど、
日向クン、ボクのこと好きなんじゃなくて友達っていってなかった!?

「結婚ってどういうわけだよ…友チョコじゃなかったのか?」
そんなことボクには聞こえない。


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