1番最初の訪問者
現パロ


テレビを点けた。
チャンネルを適当に変えていくが、どのチャンネルもカウントダウン一色のようだった。
これでいいか、と適当にチャンネルを決め、みかんを食べようとこたつを出る。
台所の冷蔵庫を開けるまでで既にこたつで暖められた足は冷やされてしまった。
袋の中に十数個押し込まれているみかんを取りだし、一刻もはやく先程までの温もりを取り戻そうとそそくさとこたつへ戻る。
こたつへ足を入れる瞬間が好きだ。
あの微睡みが襲ってくる感じ。
冷蔵庫から取り出したみかんを、円状の御盆に並べてゆき、タワーを作る。
てっぺんにみかんをひとつ置いたらこれでセッティング完了だ。
みかんを持ってきただけであっという間に日本の典型的な冬の風景になった。謎の満足感を得る。
そしててっぺんにあるみかんをもったいなさを感じながらも取る。
みかんの皮を剥きながら、テレビをちらりと見た。
「新年まであと15分42秒!!」
画面の右下には黄色でそう表示されている。
この番組はどうやらカウントダウンライブのようだった。
イケメンと呼ばれる部類の男性アイドルユニットが踊り、歌っている。
真冬だと言うのにタンクトップのキラキラした衣装を着ていて、とても寒そうだった。
こういうのには興味もないし憧れもわかない。
何となくそれを見ながらみかんを食べる。

日向創はみかんをヘタからむく。
それを以前友人に言ったら、
「ヘタからむく意味がわからねえんだけど…普通ヘタの反対側からじゃね?」
と全否定されてしまった。
少々むかついたので試しに反対側からやってみたが、意外と剥きやすかった。
くそ、左右田のくせに…悔しい…
剥いた皮を見ながら友人を思い出した。
その友人もきっと今ごろ女子とでも一緒にいるんだろう。
確かこの前、年越しパーティだなんとか言っていた。日向も誘われたのだが、断った。
そういうのがあまり得意ではないのだ。
それに年越しは大人しく家でまったりしたかった。
とはいったものの。
正直すこしむなしかった。
一人で年越すというのは、思った以上に寂しいものなのではないか、ということをついさっき思った。
しかしもう遅い。
きっと盛り上がっている事だろう。
と、ここで二個目のみかんにはいる。
テレビを見ると、
「新年まであと5分29秒!!」
とある。随分ゆっくりみかんを食べてしまった。
今は女性ユニットがトークをしている最中だった。
あまり面白くないなと思いながらもチャンネルは面倒臭いので変えない。




日向は正月があまり好きではない。
何て言ったって、自分の誕生日だからだ。
「明けましておめでとう。あ?そういえば誕生日だったね」
そんなノリで正月のついでに誕生日を祝われる。
ケーキはない。
変わりに餅と草餅が出る。
プレゼントだってない。
人よりほんの少し多めのお年玉になって消える。
そもそも日向の家は純和風だったので、正月は本格的にやるのだ。
余計に日向の誕生日という存在は薄まっていた。
小さい頃は何もしらなかったので、それが普通だと思っていたのだが、小学校に入って普通じゃないということを友人から知らされた。
あの時から、正月が嫌いになった。
流石に今はもう自分の誕生日なんてどうでもいいのだが。

自分の誕生日は正月だというと途端に羨ましがられる。
何もよいことはない。別にもう慣れた。
むしろ皆の方がよほど羨ましい。
ケーキを買ってもらい、プレゼントをもらい、その日一日は「自分の誕生日」というただ一つのイベントで埋め尽くされるのだ。
親も自分も、今日は子供の、自分の、誕生日という気持ちで一日が過ぎていく。
今日は元旦、という親どころか日本人全員が思っている1月1日と違って。
祝われることがないから、年を重ねた気にならなかった。
今年もそうだろう。
日向自身そこまで執着しているわけではないが、毎年そう考える。
今年から一人暮らしだったせいか、余計に考えてしまった。

テレビを見ると、カウントダウンは残り僅か30秒になっていた。
自分の誕生日までカウントダウンしてみるか、と少し自嘲ぎみに、テレビのタレントやアイドルと一緒に小声でカウントダウンする。
「にじゅうきゅー、にじゅはーち、にじゅな」
と。
ピンポン!ピンポンピンポン!!ピンポーン!!
突如部屋のチャイムがけたたましく鳴った。
こんな時間に一体誰だ。
しかもしつこい!!
どうやら日向がドアを開けるまで押し続けるようだ。
日向はこたつから出、重い腰を上げた。
ピン!ポン!!ピピピピンポーン!
ドアへ向かいながら、もうすこし普通に押せないのかと考える。
ああ、せっかくカウントダウンしていたのにこのままではここで新年を迎えてしまう!

寒い廊下を通り、ドアの鍵を開ける。
恐らくドアの向こうの相手が友人だったら向こうから勝手に開けてくるだろう。
何もしなかったらそれは知らない人だろう。
中々ドアは開かれなかった。
向こうはこちらがドアの鍵を開けた事を知っているはずだ。
知らない人か?
ドアが開かれないことを怪しみ、日向はドアの穴から見てみようと身を乗り出した。
「う、わっ」
が、そのドアが動き、危うくバランスを崩しそうになる。
ドアが盛大に開かれた。そして、
「誕生日おめでとう、日向クン」
ちょうど、テレビから騒がしい音と拍手が聞こえてきた。



たんじょうび おめでとう ひなたくん
続きものになる…………………………と、思い…ま、す


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