きれいなひと
「こうお訊きするのははしたないかもしれませんけれど」
はるが問うと、高杉は先を促すように首を傾けた。短いが艶やかな黒髪が、動きに合わせてさらりと流れる。
「どうして私を? 他に綺麗な女性はいくらでもいるでしょうに」
三年。はると高杉が、こうして褥をともにしている年月だ。正直はるの器量はとくべつ良いとは言い難いし、この色男と釣り合うのかは果てなく疑問である。
それでも、高杉が三年間通じているのはこのはるなのだ。
高杉は灰になった煙草をぽとりと竹筒に落とすと、今さらだな、とけらけら笑った。
「てめえは俺に惚れはしめェ、そこが気に入ってる」
「まあ」
ずるい言い方。はるの声音は咎めているようで、けれど真実そうでない。高杉は今度は声を出さずに口角を上げると、寝そべるはるの露出した項をそっとなぞった。ひくり、はるは肩だけをかすかに揺らす。
「生憎俺ァ、俺の往く道以外のことに構ってられるほど暇じゃないんでね」
「……案外、一途でいらっしゃるのね?」
「そんなお綺麗なモンでもねェがな」
そう言って、高杉は立ち上がり身支度をする。はるも身なりをととのえ、しゃらりと冴えた音で鳴る鈴のついた簪で髪を纏めた。高杉から贈られたもので、はるはその経緯より、簪自体の美しさを気に入っている。
「じゃあ、また会えましたら」
「ああ。元気でやれよ」
腰に剣を差し、すうと背筋を伸ばした高杉を、はるは心底きれいだと思った。