あなたをずっと想ってる
禰󠄀豆子、この間の手紙で義勇さんは二月八日生まれらしいと聞いたよ。針供養の日だから、お参りの後に義勇さんのところへ行ってみないか?久しぶりに顔が見られるといいんだけど。
ああ、それはいいな!
禰󠄀豆子の仕立ては上等だから、義勇さんもきっと喜ぶよ。
……あ。だけどあの時みたいになるかもしれないな……!
かえって気を遣わせたら申し訳ないから、あまり大袈裟にならないように渡そう。
義勇さんが喜んでくれたら嬉しいけど、あの時みたいにいただく訳にはいかないからね。
そうと決まったら、俺も何か持って行くよ。
蕎麦なんか、喜んでくれるかもしれない。義勇さん、ああ見えて食べるの早いんだよ。
えっ! 冗談なんかじゃないよ!
本当、本当。
義勇さん、元気にしてるといいなぁ。
*
寒さが増すばかりの二月に入り、八日が経とうとしている。
このところは平地でも雪が降る。活動が夜間なことを鑑みれば、さぞ厳しい環境の中にいることだろう。
手紙の頻度は下がったが、お館様から話は聞いている。
――義勇は、頑張っているよ。
頼もしく思うことはあれど、安心など到底できない。
鬼殺隊は鬼を殲滅する為なら何でもする。
そのための組織だ。そこに異論を挟む余地はない。重々承知している。
しかし錆兎よ。
最終選別は、命宿し若者にとって些か厳しすぎるのではないか。
儂は愚かにもそんな風に思うことがある。
甘いことを言っている。
それでは鬼を斬ることなどできない。
お前はそう言って、儂を叱るだろうか。
強く志の高いお前達の前では口にできない、老人の戯言もあるのだ。
指先が凍るほど、寒い思いをしているのではないか。
ひとたび傷を負えば、冷えた空気が体に堪えるだろう。
せめて腹くらいは、満たせていることを祈る。
あの子の心が底まで冷えきってしまわぬよう。
憂いが必ず晴れるよう。
見守っていてくれ、錆兎。
義勇よ、己のために戦い抜くのだ。
そして必ず生きて、生きていてくれ。
*
鱗滝さん、今日はハレの日の食事にしよう。
だって、二月の八日だ。何の日か分かる?義勇の生まれた日だよ。
……なぁんだ、やっぱり知っていたのか。
鱗滝さん、俺、すごく恵まれているよ。
孤児になっても鱗滝さんのおかげでこうやって生きていられるし、鬼を倒すって目標もできた。
それに、俺には友がいる。まるで兄弟みたいな友だ。
義勇が来てくれて、勇気が何倍にもなった。ああ、あいつの名前にも勇の字が入っている。のんびりしたように見えて、勇ましいよ、義勇は。
だけどあいつ、少し自信のないところがあるからな。
放っておくと、すぐに後ろ向きなことを言う。
でもね、鱗滝さん。義勇は見た目よりずっと剣術が上手いよ。俺、たまにヒヤリとする。負けたくないと思うし、あいつにいいところを見せたいとも思う。
だから、二人で最強の剣士になれるように頑張ります。
そして、必ずこの世から鬼を無くしてみせる。
鱗滝さん、この話は本人には秘密にしてね。
照れくさいんだ、実は兄弟のように大切に思っていること。
だめ、だめ。絶対内緒!
たとえあいつが同じように思っていたとしてもだよ!
そうじゃなきゃ、兄貴の面目が立たないもの。
ね、約束。
*
まったく、この跳ねた毛は一体誰に似たのかしら。
寝相も悪いから、ほら、こうして布団を掛け直してあげないとならない。
一緒に寝られなくなるのは、少し心配ねえ。
ねえ義勇。
私はあなたが生まれた日のことを、今でも鮮明に覚えている。
二月の八日は、私が姉さんになった日でもあるのだから。
艶々とした黒髪は今より柔らかで、体だってうんと小さかった。
うっかり潰してしまわないか、とても心配だったくらいよ。
それでも、隣で眠ることは譲れなかったっけ。
姉になれたことが嬉しかったのよ。誇らしかった。
弟のことを守るのが、姉の務めでしょう?
ねえ義勇。姉さん、気がついているのよ。
口には出さなくても、あなたが心の内で、寂しく思っていること。
大丈夫、心配することなんて何もないよ。
私たち、この世にお互いきりの姉弟ですもの。
お嫁にいこうと、この先どんな苦難があろうとも、何も変わったりしない。
いつまでも、義勇を守ってあげる。
どんな時でも、心はそばにいるから、安心してね。
何よりも大切な、たった一人の弟。
姉さんは、あなたをずっと想ってる。
義勇、義勇。
幸せになってね。