柱稽古は突然に
 そわそわと来訪者を待っていたなまえは、玄関の外の気配に気が付き、はっと顔を上げた。

 柱稽古をはじめた義勇は柱同士の手合わせに出掛けるようになった。しかし、水柱邸は依然として静かなままだった。遅れて参加した義勇の訓練は岩柱の訓練の後に位置付けられており、なかなか隊士が訪れなかったのだ。
 そんな中、先日とうとう鎹鴉からの連絡が届いた。炭治郎がいよいよ水柱邸へ稽古しに来るという。前回は挨拶もできないまま別れた炭治郎との再会。伝えたい想いで胸を大きく膨らませたなまえは、嬉しい便りに身を引き締めていた。

 早朝からずっと身構えていたなまえは、気配のした玄関へ飛ぶように向かい、期待と、真剣な稽古を前にした緊張感を持って丁寧に戸を開く。

「ようこ……そ」

 しかし戸の向こうに、炭治郎はいなかった。
 むしろ、頭の中で想像していた人物からかけ離れた雰囲気の男が立っていた。
 くすみがかった白磁色の髪はつんつんと逆立ち、見開かれた三白眼は血走っていて獰猛な雰囲気だ。何より目を引く顔を横切る大きな傷跡。
 恐怖に固まるなまえは、次に男のはだけさせた胸元に気がつく。それと同時に、彼が「邪魔するぜェ」と一歩近付いてくるではないか。

「冨岡はどこだァ?」
「き……きゃぁっ」

 後ずさったなまえが後ろ足に躓いて転び、尻餅をつく。男は急な出来事に怪訝な表情を浮かべながらも、手を差し出しもう一歩足を進める。しかし次の足が敷居に近付いた時、彼はそれを跨いでいいものかどうか、一瞬迷う様子を見せた。刀を持った義勇が現れたのはその僅かな間のことだった。

「何があった……?」

 腰を抜かし声も出せないなまえの視線を追い、義勇は周囲の気配を探る。そして探る必要もなく、彼は敷居の向こうに風柱の姿を見つけた。

 てっきり例外的に鬼が現れでもしたのかと焦っていた義勇は事態を飲み込む。それから彼は、風柱の地雷を盛大に踏み抜いた。

「なんだ、不死川か」

柱稽古は突然に

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