炭治郎、来たる。
怒涛の勢いで義勇へ迫った炭治郎はその後、近くにある藤の花の家紋の家に滞在すると言って義勇の出発から間も無く去っていった。どうせ夜間に一人きりなら、せめて夕飯を一緒に食べるくらいしたいものだったが、家主の居ぬ間だ。義勇に確認してからでないと、となまえも炭治郎に声はかけず二人は別れた。
■
「おかえりなさいませ、義勇様! ……と、炭治郎……?」
翌朝。玄関まで出迎えたなまえの言葉に、義勇はぎょっとしたように肩を揺らした。
なまえの視線を受け義勇が振り向くと、すぐ斜め後ろに炭治郎がぴたりとついて立っていた。
「義勇さんが帰ってくるところが見えたので!」
炭治郎はにこにこと笑ってはいるが、まだ薄暗い早朝五時半である。
なまえが戸惑っていると、義勇は彼女の横を足早に通り抜け、座敷へとすたすた消えていった。
なまえもこれには参ってしまった。
義勇の困惑も理解できるし、炭治郎の懸命さにも共感するからだ。
女中として、水柱の表情が固いことは大いに気になっている。現況、勢いよく迫る炭治郎に些かの圧迫感を感じるのは事実である。しかし同時に、足を痛めながらも懸命に働きかける炭治郎を放っておくことも、彼女には難しい。
「炭治郎、足の状態を悪化させたら大変だわ。座敷で休んで」
「お構いなく! 俺、義勇さんに話をしてきます!」
「え、ええ……」
炭治郎に悪気はないのだ。困ったなまえの脳裏に鱗滝の顔が浮かぶ。
(こんな時はどうしたらいいの、助けて鱗滝さん!)
彼女はハラハラとした様子で、兄弟子と弟弟子の追いかけっこを見つめるのだった。