炭治郎、来たる。
 聞いた話を整理するように頭の中で紡いでいたなまえは、ようやく、水柱邸に何が起こっているのかを把握できてきた。

 炭治郎の語るところによると、「お館様に、義勇さんと根気強く話をするよう言われた」という。
 それを聞いて、“水柱は柱稽古に抵抗を示しているのかもしれない”となまえは直感した。そうであるならば、最近の思い詰めた義勇の様子も、水柱邸に隊士の音沙汰が全くないことも腑に落ちる。

 再会し、立ち話で近況報告を終えた炭治郎は、その後義勇を求めすぐにまた道場へと向かった。

 あれだけ拒絶の色を示されても臆さず近づいていけるのは炭治郎ならではだな、となまえは感心する。炭治郎のお日様のような明るさがアオイの心を融かしたように、義勇の心にも響くといいな、と目を細めて、彼女はその後ろ姿を見つめたのだった。



 ところが、である。
 水柱の夜間警備に向けなまえが支度を進めていると、義勇がいつもより足早に玄関の敷台まで向かってくるではないか。

 何か用事か問おうとすれば、その後ろに間髪入れず「どうしたんですか? 話をしましょう!」と炭治郎がついてくるのが見え、なまえは何とも言えない心地になった。

「ぎ、義勇様……?」
「俺はもう行く」
「はいっ。支度はこちらに」

 冷たく突き放すような表情をしている義勇に、出会った当初の緊張を覚えながらなまえは慌てて握り飯と竹筒を包む。

「あっ! あの……、炭治郎は……?」

 脚絆をつけ終わった義勇が背を向け、「では」とあっさりその場を去ろうとしたので、なまえが急いで確認する。
「俺、待ってます!」と後方で息巻いている炭治郎の声が、同時に二人の耳に入る。義勇の顔はますます強張りを増した。

「……放っておけ」

 そう言い放つと、水柱はあらゆることを避けるように玄関を抜けていってしまったのだった。

炭治郎、来たる。

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