それぞれの最終選別
 半年前の誓いは、誠のものとなった。

 水柱邸に仕えて二年が過ぎ、少しした頃に合間を見つけることのできたなまえが、鱗滝の小屋を訪れると、既に炭治郎は最終選別へ向かった後だった。

「岩を、斬ったのですね……!」
「……ああ。まさか、あの子にあれだけの力があるとは」

 半ば独り言のような相槌を打った鱗滝から、まるで炭治郎に越えられない試練を用意していたかのような言葉が飛び出す。はっきりとは語り切らない鱗滝の、その背中がいつもより丸く見えるのでなまえは気がかりに思った。その姿がひどく気落ちしているように見えたからだ。

 部屋の隅では禰豆子がいつもと変わらぬ様子ですやすやと眠っている。
 荷物を置いたなまえは禰豆子の横につき、訪れる度しているように手をそっと握った。炭治郎の力の源は、家族の敵を討ちたい想い、そして何より禰豆子を元に戻したいという気持ちだろう。なまえは禰豆子を見つめながら、彼女の兄の勇気を称え、無事を祈った。

 それにしても、なまえはずっと気がかりだった。どうにも鱗滝の様子がおかしい。
 話しかけても気もそぞろな風であるし、忙しなく道具の手入れをしたかと思えば、不意に手を止め一点を見つめていたりする。天狗の面の下に、鱗滝がどんな表情を隠しているのか、なまえはそればかりが気になった。





 元気のない鱗滝と静かな時を過ごし、床に入ったなまえは、暗闇の中慣れてきた目でぼんやりと天井を眺め、なかなか眠りにつけないでいた。眠る気配のない鱗滝の息遣いが聞こえる。

 最終選別では鬼の潜む藤重山で、七日間生き残って帰らねばならない。
 つまり、七日後以降に帰ってこなければ、それは死を意味する。

 まだ若い炭治郎。二年も修業に費やしていた炭治郎。やっとの思いでこの時を迎えたのだ。
 信じて送り出す強い想いがあったとしても、万が一を思うと心配でならない。

 ましてや、育手である鱗滝には自分の責任としてその想いは特別に重くのしかかっているはずである。鬼を滅することを誓い、血が滲むどころか滴るような鍛錬を重ねた炭治郎が、まさか鬼に喰われるなんてことがあったら……頭に過った不吉な想像を、なまえは打ち消すように振り払った。

それぞれの最終選別

PREVTOPNEXT
- ナノ -