靄2
「炭治郎……!」半年ぶりに見る炭治郎の姿に、なまえは再び言葉を失った。今度は、いい意味でだ。
そこにいたのは、もはや「弟のような炭治郎くん」ではなかった。髪が少し伸びた炭治郎は、重ねた月日の分たくましい体つきとなっていた。背丈も、幾分か伸びたように思われる。こんなに雰囲気が変わってもなお、修業を終えることのできない厳しさをなまえは肌で感じた。
「真菰……じゃない、なまえさん!!」
なまえを認識した炭治郎が、先ほどまでの真剣な気配からぱっと明るい雰囲気に変わる。なまえはいつもの様子に安心して、彼に駆け寄った。
「炭治郎! すっかり雰囲気が変わって!」
「そ、そうですか? 少しは呼吸が身について来たかな?」
「帰りがけに聞いたの。鱗滝さん、あれからもずっと……って」
「……はい」
半年前に見た不安そうな炭治郎の姿が気にかかっていたなまえは、気遣いながら現状に触れる。しかし、炭治郎はどこか吹っ切れたような顔つきをしていた。
「今は呼吸の実用法というか、コツのようなものを教わっているんです。それから実践も。俺は諦めません」
きりりとした目つきの炭治郎に安堵しつつ、なまえの脳裏には疑問がよぎった。鱗滝は何も教えていないはずである。
「教わるって、誰に?」
「ああ、真菰と錆兎という二人の子です。多分、鱗滝さんが呼んでくれたんだと思います。二人は鱗滝さんを知っているみたいなので」
「ああ……! そうだったの!」
炭治郎がずっと一人で苦しい想いをしているのではと案じていたなまえは、ほっと胸を撫でおろした。鱗滝の解せない雰囲気も、実は炭治郎を放っておけない気まずさだったのかと理解し、彼女はそれを温かく思った。
「じゃあまた、半年後……」
そこまで言ったなまえは、炭治郎の目を見て口を噤んだ。炭治郎の瞳は、そうは言っていなかった。
「できればその時には、選別へ行っていたいです」
炭治郎が、今までとは違う、しなやかな強さのかけらを見え隠れさせながら告げる。その様子に、もしかしたら半年後彼はここにはいないかもしれないとなまえは思った。それは、彼の健闘を称える祈りを超えて、小さな確信めいて実感された。
「……炭治郎、無事でね。いつでもいいから、必ずまた会いましょう。禰豆子も一緒に」
一度息をのみ、挨拶の言葉を変えたなまえに、炭治郎が少しだけ目を細め、唇をきゅっと結んだまま頷く。
こうしてなまえと炭治郎は、狭霧山の中で再会を祈り別れたのだった。