半年に一度の帰省。狭霧山からの帰り支度を整えたなまえは、鱗滝の返答を受け言葉を失った。この度の帰省ではすれ違いになって会えなかった炭治郎について、一年半を経過した修業の様子を聞いたところだ。

「もう儂から教えることはない」

 鱗滝は厳かにそう告げ、いつものように薪を割る。彼の手元を、なまえは困惑して見つめた。

 なまえの脳裏には、前回の帰省中に話した炭治郎の姿が思い起こされていた。「鱗滝さんが何も教えてくれなくなった」と不安そうにこぼしていたのだ。それから半年が経つというのに、鱗滝は今でも「教えることはない」という。

「では炭治郎くんは……」
「あとは本人次第だ」

 それ以上の質問を遮るように鱗滝が斧を振り下ろし、小気味よい音が辺りに響いた。
 天狗の面からにじみ出る口調や様子は、決して炭治郎を見放したり諦めたりした訳ではなさそうに見える。しかし一方で、これ以上状況が進むのを鱗滝が拒んでいるようにも見えた。だが、なまえがこのような鱗滝を見るのは初めてで、また何か修業上の意図があるのかもしれないことを思うと、安易に疑問を呈するのは憚られもした。

 なまえに見つめられた鱗滝が、ばつが悪そうに鼻の辺りをこする。なまえは自身の疑問や戸惑いが匂いとなって察知されてしまったのではと気まずく思い、極めて明るい声で繕った。

「わ、私は……良き事が巡りますよう、いつもお祈りしております。ではまた」
「ああ。義勇によろしく伝えてくれ」

 鱗滝の解せない雰囲気を飲み込んで、なまえはしっかりと頷いてみせた。

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