微力でも。3
気まずい別れをしたアオイとなまえの二人が再会したのは、それから数日後のことだった。出会ったのと同じ街で互いに買い物をしていた二人は、商品を選んでいる店内で棚ごしにぱちりと目が合い、相手の存在に気が付いた。
先に挨拶をしたのはなまえの方だった。とはいえ「ぁ……どうも……!」と、喉の奥が締まって声もろくに出せず、小さく会釈をしただけである。なまえとしてはアオイを怒らせ、嫌われてしまっただろうと思い、それ以上の言葉を交わすのには勇気がいった。
アオイもまた、棚の反対側で大きく目を見開いた以降、泳がせた視線を下に向け、やや早く会釈をするのみに留まった。彼女は先日の出来事を自分の失態と捉え、いたく恥じていた。
店内を巡る二人は、その後そろりそろりと別の棚を眺めに移動し、互いに鉢合うことのないよう細心の注意を払って買い物を終えた。
勘定の列に先に並んだのはアオイで、なまえは後ろから彼女の背中を穴が開くほど見つめた。先日のことを謝らなければ、と話しかけるきっかけが欲しいなまえは、勘定を終え振り向いたアオイに視線を送ったものの、アオイは地面を見るように目線を下げ、なまえの横を通り抜けてしまった。
失意の中勘定を済ませ、状況を変えられないまま別れることになってしまったとなまえが落ち込んで店の暖簾を抜けた矢先のことだった。
「あのっ! なまえさん!!!」
店の外で待っていたアオイがなまえの前にぬっと現れ、手首を掴んで引き留めた。
「おっ……お話したいことがあります! お時間が許すようでしたら、あちらの茶店でっ、おっ、お茶を飲んでゆきませんかっ!?」
周囲の客が振り返る剣幕である。両手でなまえの手首を掴んだアオイは、血の気を失い緊張しきった顔でそう絞り出した。
なまえは圧倒されながらも、彼女が必死にしてくれた提案に感謝し、こくこくと頷いて応じたのだった。