寛三郎のお節介 4
なまえは混乱していた。朝になっても何の連絡もなく、今日は義勇が帰ってこない日かと思われた矢先のこと。嘴に何かをくわえた寛三郎が勝手口から突如飛び込んできたのだ。
伝言は「遅くなる、これをなまえに」。受け取ったのはちりめん生地の巾着とはぎれ。
一体遅くなることと、この二品にどんな関係があるというのか。
義勇が何の理由もなく女中に物を渡すとは考えられない。
何か戻るに戻れない事態が発生し、ちりめん細工を寄越したのだとしたら、自分は何をすべきなのか。水柱からの伝達に、彼女は頭を抱えた。
(鱗滝様か……隠の方にお聞きするべきかしら)
寛三郎に「これは何か」と聞いても品名を答えるだけだし、「どうしたらよいか」と聞いても「義勇カラダ」としか言わないので、なまえはますます困惑した。
鱗滝に聞くにも勝手に寛三郎にお願いする訳にはいかない上、隠は呼び方も分からず、なまえはちりめん細工とにらめっこするほかなかった。
ほどなくして、玄関の方でガタガタと引き戸の開く音がした。何者かと慌てて振り返ると、なんのことはない。そこには義勇が立っていた。
「義勇様!」
「……遅くなった」
「ご無事で……!」
「ああ。……寛三郎から聞かなかっただろうか」
なまえがいつも以上に大げさに心配している様子なので、義勇は連絡が行き届かなかったかと尋ねる。
「いえ!遅くなるとのこと、寛三郎さんからの連絡は受け取りました。しかし……、申し訳ございません!」
「……?」
「こちらのお品はどのようにすれば良いか分からず、まだ何もできておりません!」
申し訳なさそうに謝るなまえは、義勇の目には一見、彼女が迷惑がっているようにも映った。
二人の間に沈黙が流れる。
何に頭を下げているのかさっぱり分からない義勇は、考えられる使用法を述べた。
「好きなように使えば良いのでは」
「……はい?」
なまえの方もまた、義勇の言葉の意味が分からなかった。
水柱は察しの悪い自分に呆れて物も言えず、突き放したような言い方をしているのかと思われた。
「なまえはちりめんの細工物を集めていると寛三郎が言っていたが」
「はい……。集めては、おります」
「……そうか」
ならば問題はないようだ、とまでは口にしないものの、義勇は納得し汚れを落とす支度をしようと浴室の方へ振り向いた。
「??」
取り残されたなまえは、結局のところ手元のこれが何なのか、謎が更に深まって感じた。しかしもう、それ以上のことは聞く間がない。
ひとまずのところ使い方は委ねるような言い方だったので、大事にしまっておいて、いつでも取り出せるようにしておこうと、なまえは手元の彩りをそっと撫でたのだった。