寛三郎のお節介2
指令を受けた任務地方向へひた進みながら、義勇は先日起こった出来事を思い出していた。下弦の鬼と対峙した時のことである。棘のようなものを足元へ散らばし、それを踏むと攻撃が放たれるという厄介な血鬼術を用いる鬼で、戦地となった山の麓では多くの隊士が負傷していた。
義勇は件の鬼の首を滞りなく斬ることができたが、戦っている最中、ひとつ気にかかることがあった。
それは、寛三郎が「指令ジャ」とその場に現れることだ。以前から度々そういったことはあったが、先日は足元の棘が大変に危険だった。実際に寛三郎は棘を踏んだ。義勇が咄嗟に避難させたので攻撃は受けずに済んだが、寛三郎の足に少しばかり傷がついた。
これが上弦の鬼であれば小傷程度では済まなかったかもしれないと思われて、内心ヒヤリとした。彼にとって寛三郎は、日々を共に過ごす最大の相棒だ。言葉にせずとも心の内に寄り添ってくれる寛三郎を、義勇はとても大切にしている。
「寛三郎」
戦地が近づいた時、義勇が口を開いた。
「ナンダ」
「俺が刀を抜いている時は離れていてくれ」
一言そう告げると、寛三郎は義勇の前を誘導しながら高らかに答えた。
「問題ナイ……」
「……」
「ヤクトウガアル」
「ヤクトウ?」
「なまえガ用意シテイル……義勇モ入ルト良イ」
「……そうか」
「なまえニモ勧メタ」
「……ああ、」
そこまで聞いて、義勇には何となく状況が理解できた。
なまえが寛三郎に薬湯を用意し、先日の彼女はそれに付き合っていたのだろうと。
「ホレ、傷ノ治リモ良イ」
一時、空に留まった寛三郎が朗らかな調子で足を見せたので、義勇が確認する。確かに傷は炎症もなく順調に治ってきているようだった。
「それならば良かった」
再び動き出した一人と一羽の会話は続く。
「良イ嫁ヲモラッタナ」
「違う」
「ソウカ、幸セニナ」
「……違う」