芽吹く




あの日の青空に架かる虹、大好きな親父の妙な顔に、頷いて笑ったおふくろの顔。言葉に詰まった聞太師は、それこそまるで女の人みたいな長い髪を掻き上げて、天禄兄貴は木刀片手に顔をくしゃくしゃに歪めてた。
ふぅん。不思議なもんさね。なんでこう、子供にはわかんないことばっか――……


「……か、天化」
あらゆる夢を描き出して、どうするべきかを考えた。最前で戦う為の最善を尽くすのみ。即ち其処に自分が自分である為の。
「天化」
そんなに気負わずに言えば、とっ散らかして拾い集めた小難しい結果は、既に"そう"としか積み上げられない状態だった。
「天化ー!」
「うわッ…」
日に焼けた足がはね除けた布団の向こう岸には、青いジャージが胸を張る。
「起きろー!」
朗らかに叩かれた戸はしかし物騒に吹き飛びかけた。
「…ぅ、おは」
「もう時間過ぎるぞ!朝トレ追加!」
「ええ!?まだ一刻にもなんねぇさー!」
挨拶もそこそこに布団より高く飛び上がる身体にグローブが飛ぶ。
「1秒の油断が命取り、だ。戦場に待ったはないぞっ」
厳しく楽しい声が舞うなら、
「……はい」
従うしかないだろう。寝台で大きく伸びをして、戸に背を向けた華奢な様で太い骨は、清虚道徳真君が一番弟子・黄天化。
ふあぁ。
口の端から漏れる欠伸を噛み殺した丸みが、たわんだサラシを手繰り寄せる始まりの朝日。

懐かしい混濁は所謂夢と云う物で、戦場に向かう意識と共に、柔らかい脂肪が少年に戻る矛盾の時間。日は昇る。何度でも。

「……随分、懐かしいモン見ちまったさ」
きつく巻いたサラシに締めるバンダナ、こなれた相棒は黒のブーツ。
「オヤジもみんなも元気にしてっかねー」
くるりと暁に背を向けて足を運んだ。洞府をくぐれば掛け声に弾かれてトレーニングのコースは続く。回る回る丸い地球に、終わりなんて最果てなんて、あるわけないから走るのだろう。

今この瞬間の誇りを胸に、強さの勲章を鼻に頬に。とっくに棄てた古傷を胸の奥に。

「男が泣くもんじゃねぇぞ!」

「……ーっし!んじゃ行ってくるさー!」
「よし!上がったら朝食だぞー!」

師の声に軽く背を向け手を振った。ブルン!動力炉の如し唸りを上げて空をかける春のある日。

護るのだ。
薄紅の誇りを、この命ある限り――。









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