色ボケキャンパス1時限目

「…はい。」

90度に腰を折り曲げた発の頭上。
「…へ?なんだって?」
「ですから、…はい、と」
微かに視線を反らせた黒髪の女性。同じキャンパスの二年生、法学部主席の子。ガード固い子。
「え、マジで?マジで、つきあって」
ぱちくり繰り返される発の瞬きを遮った。
「なっ…何度も言わせないで下さい!」
「邑姜ー!愛してる邑姜」
オーバーアクションの両手で抱き締めたカノジョ。驚いて赤くなって固まった小柄なその子が、一年間追い掛け回したその子が今は腕の中。
春だ!大学三年目にしてついにこの世の春がきた!


「だからさぁ、もうほんっとマジで可愛いの!」
「ハイハイわーったから!うっさいさ!」
「なぁわかる?わっかんないよなー!」
昼下がりの学食で延々始まるカノジョ自慢。だれきった表情筋に朝から続くアホな声。
「構ってらんない」
頭にひしめく今日のメニュー。
「うっしゃ決めた!俺っちカレーうどん!!」
「…シケてんな…」
「誰が」
「カリカリすんなよ」
「誰のせいさ!」
荒っぽく腰掛けた椅子が軋む。漂う湯気もビミョーな温度で確かに湿っぽい。食べたくて食べてる訳じゃない!
「なぁなぁ、記念になんか奢ってやるから!カルシウム!魚食えって!」
肩にへばりつく大柄な色ボケ。同じ大学三年生。歳は発が一個上。ホームルームのクラスが同じで、たいして取っていない数のゼミも被って、いつの間にやら腐れ縁。
「いらねぇからさっさとどっか行くさー」
パキン。両手の中の割り箸は、軽快な音と共に片方に曲がって歪んで割れた。
「…やっぱ熱烈片想いだなお前…」
「…よけーなお世話さ彼女持ち!」
あしらって口に運んだビミョーな味。やっぱりカツカレーにすればよかった。朝コンビ二で買い込んだ菓子パンとウインナーパンに恨みはない。でも結果こうして腹は減る。
新歓カンパで居酒屋梯子し過ぎた馬鹿片方、カノジョなし。懐も腕も寒い給料日前。春なのに。

「拗ねんなチェリー」
「――ぶはッ」
白い机に虚しく散らばるカレーうどん。
「黙ってろあーた!」
頭に刺さる割り箸一膳は勿論カレー込み。
「ああわりぃ、ゴメン、素人童貞!」
「いっぺん死んで来い!」
「いっぎゃあああああああああ痛いマジでマジでちょっと!!」
めり込む割り箸に発の悲鳴がこだました。悲しきかな、他の学生の白い目に気が付ける程大人になれない。

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