王サマ業って大変だ




ある晴れた日。初夏の緑に彩られて見慣れた筈の豊邑の街の片隅に、見慣れない女がいた。こっ…これがまたすげぇ可愛い子なんだ!
自慢じゃねぇが、一度目にしたプリンちゃんは絶対に忘れねぇ。それは紛れもなく唯一ぜっっったい的な俺の特技だね!

長い黒髪を結った細い子でさ、心細そうに俯いて、まだ街に馴染んでないんだと雄弁に語る綺麗な目を泳がせてる。思わず声をかけた俺と天化に、大輪の華が咲いたような桃色の笑顔を見せてくれたっけ。

それからだ。
三人で、時には俺とその子の二人で。またある日は天化とその子の二人で。茶を飲むやら街を見るやら、とりとめない話に花を咲かせて日常は廻るようになっていった。
なんだかんだ、天化のヤツもプリンちゃんは"守るべき者"って思ってんだろうな。ぎこちないながら手を貸そうとしたり、はにかみ笑顔で居心地悪そうにしつつ話を盛り上げてやっていたりする。なーんだ、満更でもないんじゃねぇの?
わたわた両手を振りながら、
「すっ…好きなヤツ?俺っちに!?ばっ、んなモンいねぇさ!いるわけないっしょ!?」
なんてまた随分分かりやすく狼狽えてやんの。ばーか、テメェのその顔が答えじゃねぇのよ。丸わかりだぜ?
純情らしいあの子にゃ伝わってないみたいで、やっぱり白い肌を桃色に染めてたけどな。少しだけ地方の訛りのある可愛い声で、
「天化くんは格好良いのに、勿体ないよ」
なんて笑ったっけ。


そんなまどろっこしくも初々しくて可愛い恋をしてるらしいその子と、俺は二人で茶をしばく。
「ねぇ、発ちゃん」
恥ずかし気に口を開いたのは彼女だった。
「うん?なんだいプリンちゃん!」
「……天化のこと、なんだけど…」
あっちゃー来たかコレ。俺はお呼びでないパターンかコレ!なんて内心項垂れながら、
「おう、なんでも訊いてくれよ!!」
なんて言っちまう俺も俺だが。
「……天化って…発ちゃんの護衛なんでしょう?お城での天化って、どうしてるのかなって…」
おーおーおーかっわいいねぇ頬染めちまって!なぁんて茶化す訳にもいかねぇし、
「案外いつも通りだけどよ。まぁ俺の前では無関心無愛想、手厳しいって三拍子揃ってらー。他のヤツにはそこそこフランクだぜ?上司にブアイソっておっかしいよなぁー」
なんて答えりゃ、
「えっ…本当は仲が悪い、とか?どうしよう、私…ごめんね変なこと訊いちゃって…」
なんてしどろもどろ健気な答えが返る訳よ。
「いや、そりゃ違うぜ?仲はまぁ、良いんじゃねぇか。最初っこそいけすかねぇヤツだってお互い思ってたけどよ。今は誰より気ぃ抜けるっつうか…男ならダチってそんな感じよ?女の子には解り辛ぇカンケイかもなぁ…」
フォローってんじゃねぇが、本心で間違いはない。普段はこんなこと、アイツにゃ言えねぇんだけどな。だから天化には内緒な?──なんて付け足して言えば、その子はまた頬を染める。そーかそーか、愛しの天化がブアイソじゃなくて安心したかカワイ子ちゃんよ!

「女中さんに優し過ぎたりしない?不安にならない?」
まだ続く可愛い声。
「うん?不安に?」
「あ、えぇと…発ちゃんが…」
「ああ、俺よりモテっからってか。まぁ最初は不満タラタラだったけどな、それも。アイツが女中サンと仲良くなってもさ、一線引いてるみてぇだし。君も安心しな?アイツはタラシじゃねーからよ」
俺と違ってな、なんて言って髪を撫でてやったんだ。あ、やべ、こーゆースキンシップってまずいか。俺も笑って見せた。発ちゃんは優しいのね、っつってまた笑うんだもんよ!健気だねぇ、意外に一途で健気な天化とお似合いだ。
「それよりさ。俺は君と天化の仲に妬いてんだぜ?ちょっと前まで俺がいなきゃ豊邑の右も左もわかんなかった二人がさぁ…」
「えっ…」
「いや、だからさ。二人とも俺の手から巣立っちまうみたいっつうか…なぁんか君に天化取られちまって遠くなっちゃうな〜、なーんて」

なーんて!ヒューヒューホントはお前ら両想いだぜばっきゃろー告れ告れくっついちまえ!
そう続く筈だった俺なりの激励は、目の前で長椅子に倒れ込んだその子を前に飲み込まれた。な、なんだ!?なんだってんだ!?

「お、オイ!どうしたんだよ!?大丈夫か!?」

全く訳がわからねぇ!目の前で苦しそうに蹲る背を擦っても、細い指が革張りの椅子を引っ掻こうともがくだけだ。ついに震えだしちまった身体を抱き起こそうとした瞬間、

「───っ、ェ…」
「え!?」

俺は聴いたことのない獣の呻きを聴いた気がした。

「っ、萌ええええ!無自覚片想いっ…両片想いぃぃェア!!!!」

地を裂くようなその声は、とてもその子のものとは思えねぇ。バカな俺だって思い至る、この子は妖怪仙人だかなんだかに取り憑かれてるに違いねぇ…──!
そうとなりゃー街医者の手には負えない。俺が迷ってる間にも苦しさからかハスハスハスハス聴いたことのない呼吸音を上げて泣き出したその子に叫んでいた。

「今すぐ、天化が来るから!天化ならお前も安心だろ!?そうすりゃ城の仙道に──」
「やっ…」
「拒んでる場合じゃねぇよ!治療受けろよ!!」
「や、さ…優男攻めぇえ!発ちゃん優男攻めとか!ふええええあぷめえ!飯が!ぷめえ!下りてきた!時間がっ、時間が!」




それきり、その子は豊邑の街から姿を消した。
唱え続けた謎の呪文も、あの奇病も、生い立ちも、少し訛った他の国の言葉も微笑みも、なにもかもを俺と天化の記憶にだけ残して。今となりゃ、あれは俺らを偵察しに来た第二のスパイだったんじゃねぇかって楊ゼンの言葉にも、不本意ながら頷くしかないのかも知れねぇな…なんて言いながら、
「元気かな、アイツ」
「便りがないのは元気な証拠ってヤツさ」
「──ま、それもそうかぁ…」
やっぱり大事な仲間だと思ってるけどよ!

そういや、夏も真っ盛りの街の闇市で、前代未聞の売り上げを誇った闇の書物があったとかなんとか、面倒くせぇ報告書が来てるんだったっけな。武王こと俺のあることないこと世論にゴシップに男色スキャンダルだって聞いたが…いやー、王サマ業って大変だわ!



end?


本当に大変だ、王サマ業。
豊邑の春夏秋冬、ずっとこの子は萌え難民だろうと思います。
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