頑張るあなたへ





もうどれだけ走って来たか知らねぇ。

生まれた時からオヤジっていうでっけぇ目標がある俺っちは、他の誰よりも得をしてるし、誰よりも早く長く、強さへの道を走ってると思う。
宝貝人間にもコウモリにも絶対勝ってやるだけの修行はしてっし、勝ってやる自信もあるさ。当然っしょ?

だけど時々、──本当に時々。
脚の動かし方を忘れる瞬間がある。んな情けないこと、俺っちらしくねぇことなんか誰にも言う訳ねぇ。
前を行くコーチに、前を行くオヤジに、後ろから俺っちを追い越しそうになってる天祥に気取られないように、脚が動くまで待つ暇なんかない。

走り続けたこの脚は、今までどうやって動かしてたさ…目標より遥か手前、眼前の切り立った崖みてぇな壁は、どうやって越えてく?今までどうやって越えてきた?
どうやったら走れるさ?
まだまだ先は長いってのに!ここでまた離されてたまっかい!走れ!走らなきゃなんねぇさ俺っちは──!


コーチが振り向くことはない。
わかってるさ、そんなコーチだから俺っちはコーチに着いてくことを選んだんだ。後悔かんなかい。慰めて欲しくなんかない。憐れみはいらねぇ、馴れ合いも好きじゃないさ。
俺っちが望んでんのは、今この壁を乗り越えられるだけの力だ。

脚を、膝を、爪先の蹴り挙げを、踵の踏み込みを、爪先の抜ける感触を、土踏まずで体を支えるあの感覚を。あと一歩を踏み出す力──それが、欲しくて欲しくて指先から零れ落ちて消えてっちまう。

「よっ!」


遥か後ろ、どん尻から歩いてきた大股のマントに叩かれた。肩が――

「へぇー!すっげ、頑張ってんじゃん、天化!」

――熱い。

そう笑ったら最後、息切れしてぶっ倒れた白いマントとターバンに、馬鹿みたいに笑って、腹抱えて。

俺っちはまた前を向く。

──へへ。そっか、そうかい。このひとはいつもこうやって歩いてたっけ。俺っちは歩いたことあったっけ。覚えてねぇけどまた笑いが漏れた。
身体と言うことだけ馬鹿でかい、動かなくなった王サマを背に乗せて、また明日の脚を動かした。

壁なんざ、とっくの昔に消えちまったべ!




end.


天化らしい弱音ってなんだろう、天化らしい立ち直り方ってなんだろう、と考えた時期がありました。
年末へ向けて忙しくなるこの時期、頑張るすべての人へ届け!発天パワー!

2013/11/20
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