声には出さない







 side 発

なんてこたぁない。分け合う子供じみた熱ってのに酷く弱ぇ。
後々そこにわいてくる問題がちっぽけに見える──否、見えなくなっちまうぐらいにはそれは甘い。

何度も吸い合って、戯れて、胸の中まで抉って嘲って、昇る朝日と共にサヨナラだ。それが気持ちいいのなんのって、たった一瞬の抱擁で涙が乾く。それが手離せなくなる、文字通り溺れてる。
──って、そう思ってたんだ、俺は。

真冬の澄んだ湖面に薄く張った氷が、穏やかに溶かされてく。晴天の霹靂で引き上げられた溺死体の指先が、徐々に真実味を帯びて震え出す。寒さにじゃない、あったけぇんだ。
頬に受けるなまあったけぇ風は、桃の蕾の産毛を撫でて、それからすっと、俺の涙を浚いやがった。
そうだ、今、俺は落涙真っ最中。なんだってンな格好つかねぇ醜態晒してんだ?一体何が。

陽に包まれながら胸の中に込み上げてきた情けなくて甘ったるい疼きが、何度も身体を沸き上がらせる。
ゆっくりと、ぐつぐつと、甘ったるい蜜みてぇな芳香を放って俺が出来上がる。

息も忘れて高鳴る胸を、苦くて切ない針で優しくつつかれて──そうなると俺は酷く弱い。そう知ったのはたった今。

歳と見た目のわりに骨太なんだって知ったその手が、無防備に俺を手招いて、いたずらっ子の表情で広い地平を駆けてった。その地平に、俺もこのまま溶けちまえばいい。

きっと失う身体は痛いんだろうとか、陽が暮れたら寒ぃんだろうとか、そんなことはどうだっていいんだ。

あの手を取って、俺の手を重ねて。
それはきっとどんな熱より心地良いってのが、お前とならわかる気がする。

触れたくて堪らねぇ、誰にも触らせないまま俺らがひとつになりゃあいい。最果てから吹いた風が、甘い香りを巻き上げた。

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