見ているだけ 5題




其ノ弐

そんなものは弱い奴のすることで、俺っちの辞書には、何度ひっくり返したって書かれっこない言葉だったさ。竹簡と墨のムダっしょ。
攻めるが勝ちの先手必勝、攻撃こそ最大の防御って、戦士なら誰だって刻み込まれた本能の渇望さ。欲っさなきゃ戦場で死あるのみ。それならまだまだ幸運なモンで、中途半端に殺される──死に地獄が待ち構う。
そんな場所。
そんな言葉が、悔いのない、今。
俺っちの胸に刺さる杭に触れて頭に湧いた。
力が抜ける。目が開かねぇ……閉じた目蓋の下には、逃げ出した誰かを追っかけた、──真っ赤な服に包まれた、平和の街の火が浮かんだ。

ああ、あのバカ、頭良かったんかな。
逃げて逃げて居場所を作ったあの人の居場所を、最期の場所を、創りながら俺っちの魂は生まれて初めて空を飛んだ。ひゅーう!たっけぇさー!
とことこ逃げ出す街の火が懐かしくって、涙が流れて、煙草落としてごめんな王サマ。一人にしてごめんな王サマ。

きっとずっと、誰よりも弱いあーたが好きだった。


きっと言っちゃーならねぇから、へへ…防衛逃避してやるもんね!! 王サマよ。
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