どっちの自分?
見えぬ歴史。
見知った顔に知らぬ顔。
「…そりゃこの本の王サマさ!」
無垢な目に馬鹿を見た。
「だろーなお前は」
「…でも、このヘンな本――予言書かい?」
「知らねぇよ。親父のモンかあんちゃんのモンかも知らねぇのに。描いたヤツの名前も知らねぇよ」
「だったら俺っち、そーゆーのあんま信じないさ。」
「だろーな。仙人なのにそんな感じの面してらー」
素っ気ない言い回しも慣れっこの似た者同士で、
「王サマは…バカでサボり魔で遊び人でスースよりダラダラですぐふざけて周公旦さん困らせて」
「オイ」
「…でもその王サマじゃないと、…俺っち仕事なくなっちまうかんね。…困るさ。」
取って付けたように吹かし始める煙草に煙。
無垢な目に馬鹿を見た。
「今日だって逃げさせてくれたヤツがなに言ってんだか」
「こっちの台詞さ!」
「第一、護衛だなんだって肩書きなくたって…他に理由あんだろが」
長い襟足から覗く左隣の耳が赤いのも知っている。
「わかりやすいよなぁ、天化って」
「王サマがわかりにくいだけさ」
「俺?」
耳元で囁いた。
「かなりわかりやすいと思うけどな」
吹き抜ける風に甘い痺れ。
「……ま、トントン拍子で行くのもいーけど」
合わさる目に嘘がないのは知っていて、艶めいて消えない存在で。
「急ぐ旅でなし。お前がいなきゃ意味ねぇか」
「…当たり前さ」
不躾なくらい強気な声に恋をした。
今は二人、木漏れ日の下。重なる影に嘘はない。
そんな不思議な異説と君と、もう少しだけ。
口付けを――。
end.
異説封神の発に脳天痺れた記念。
「描いたヤツの名前も知らねぇ」と言わせてしまってスミマセン!この後キスだけで済まないだろーな。スミマセン!
2010/11/07