キスの場所で22のお題 11、胸(*)




刺激を望めば甘やかなる口付けを、砂糖漬けの口付けを望めば首筋に気弱な狼の牙を立て、涙を望めば快楽の底で泥と化し、快楽を望めば噎せる程の愛の讃歌を惜しみ無く与う。次期君主たる男との睦事は相反する天の邪鬼な刺激に満ちみちて、いつでも天化を狼狽えさせた。
生半可な痛みでは反応さえする筈のない痛覚も、生半可な精神攻撃には、蔑みこそすれ打破する迄もなく光の如き一刀を振るう剣士の腕も精神も、
「王サマ…」
ただ一人に敵わない。
君主たる男にだ。当たり前だ。叶ってしまっては赦されない。気にする二人でないことは知っている。しかし翻弄され過ぎたのだ。共に時間を重ねてしまったのだ。甘くしなやかで柔和な笑顔、朗らかな陽の光を蓄えた外套。手にすればもっともっとと軋む指先が焦がれ、夜露に濡れていとおしいのだと繰り返し戦慄いた。

──ああ、愛おしき波がまたやってくる。
一人の戦士を殺しにかかり、一人の少年を汚しにかかり、飲み込む波は涙を知らない少年に落涙と陥落を促している。
「っ、……、ぅっ…ぁ…おう、サマっ…」
あ、と小さく震える悲鳴を互いの唇に閉じ込めて、少年の鍛えられた腹部に白が散った。豆だらけの硬く形を変えた足の裏の神経が、ひくりひくりと波の狭間で夢現。くしゃくしゃの顔を隠すようにして外套に顔を埋めた少年は、力なく、歳より幼いその純潔を燃え上がらせてはまた恋を知る。

波に飲まれてざわめく漆黒の闇夜、浮かんだ八重歯が月のように微笑んだ。

「天化…すきだ…」

そう溢す唇にさえ鼓動はうねり唸りを上げて、寝台の波はまた打ち寄せる。

「……うん…」

天の邪鬼な快楽を与え続ける王たる男の素直な言葉は、渇いた血の支配する地に生きる少年の胸を溢れさせてはまた乾かして、渇く頃にはまた潤して。
渇望する歓びを、涙する喜びを、強さを、

「──愛してるぜ」

睦言を抱き締めるその幸せを、強さを、危うさを、尊さを、降りしきる穏やかな粉雪のように儚い命の口付けで、凡てを教えて微笑んでいた。肋の浮かぶ胸に熱い熱い烙印を落とされて、

「護ってくれんだろ、俺のこと」

頷く鼻先が誇らしげに染まる紅。

「──うん」

紡ぎかけた確かな二文字は、甘美な吐息の波に呑まれた。





アダルティ・両想いもたまには
2013/12/17
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