キスの場所で22のお題 1、髪(*)




甘えるようなぐずついた涙声を、さざ波のように身体に焚き付け煽る犯人は、この少年──天化を組敷く青年だ。寝台の敷物に滴り落ちるその汗は、青年らしい清涼で主張の強い香水の香りに彩られ、ぱたりぱたりと天化の額までも彩り尽くす。んっ、と微かに眉を寄せて身じろいだ天化は、さ迷わせた視線の終着点を、青年の唇に決めたらしい。
甘い疼きと激しい濁流に流されながら、
「……っ、は……つ…」
漸く漏らした舌足らずなお強請りに、発と呼ばれた青年の頬が緩む。すぐさま互いに頬を撫で喉を撫で、額を合わせば混ざる唇。
ぐちゅぐちゅと陳腐で不埒な唾液の押収は、二人共がなにより弱い甘美を帯びた戯れだった。
「ご機嫌治ったかよ?てーんか?」
ムッと眉を潜めた筈の天化の頬は桃より甘く赤く熟れ熟れて、銀色の涙と涎は乞うように青年を射る。
「機嫌…悪くなんざねぇさ」
そう告げる唇は幾分か尖るものの、甘い熱と媚を含んで憂いているのも事実であった。然る後に緩やかに始まる律動に、跳ねるは天化の甘い声と左足。張り詰めた左の爪先で何度も空を掻きながら、天化の指が発の髪をくしゃりと撫でて離さない。

頭を抱いて身を捩り、発の香りは天化を燃やす。

嗚呼、抱き合っているのだ。それを彼と、他でもない王サマと──洒落た香水の香りを押し流す発の欲情の証。素朴でいて誰より焦がれた雄の臭い。一度手にすれば、それは天化しかしらない特権に姿を変えてしまうから。

「こんな瞬間があっから…あーたといるの、嫌いじゃねぇさ…」

果てたばかりの重い目蓋を半分下げて、発の旋毛に口付けた少年。その可愛らしい嫉妬に独占欲に。果たして青年は気付くだろうか。

二人で笑って更ける夜は、いつだって思慕の膨らむ夜だった。







2013/04/21
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