発くんと天化せんせい




色とりどりのクレヨンが並ぶお絵かきの時間。
「大きくなったらなんになりたい?」
配られた白い画用紙に、将来の夢。
教室に入ったダレ組さん――なんで年長がそんな名前なんだ。もちろんセンスのどーかしてる天化先生と太公望先生のネーミング。
「ハニーのお嫁さんにきまってんじゃん?ね!」
くりくり大きい目のオマセさんは蝉玉。
「かってにきめんな!」
「ハニーってば照れちゃって」
「俺は竜吉公主さまと結婚するんだからな!」
「ハニー!」
「なっ…異母姉上様に向かってなんということを…!」

「ってかよ、クレヨン白じゃドレス描けないだろ」

勃発しかけたウン角関係のケンカに水をかけるのは、つっつく発。

「ほんっと天化ってセンスないわよねーぇ」
「ぱんつもセンスないんだぜー」

結果、ダレ組さん統治に成功するのはいつも発。

「くっだらねぇ…ガキが」
ぱきん。パキン。色とりどりのクレヨンが折れる音。
「王天君!爪を噛むでない!」
「ぼうちゃんぼうちゃん、」
「先生、大きくなったら僕のお嫁さんに」
「お父さんお迎えこねぇじゃねーかよ楊ゼン」
「王天君!」
「ぬー!おぬしらどんだけ我が強いんじゃー!」
おしゃぶりの治らない口悪い子に蒼い髪二人。ガッチリ拘束された太公望先生と、クレヨンの破片でベタベタの床を拭いて歩く天化先生。
「てんかカンチョー」
「発ーーーーーー!」
茶色のクレヨンでそれはない…あんまりだ…。すっかり傷心の大人と味をしめて懲りない悪ガキ。笑った永久歯が一段と光っていた。


「……寝てる顔は可愛いのにさ、なーんでこんなに悪戯ばっかするさ…?」

お昼寝のお布団の中。寝息を立てる小さい発。ついさっきまで寝ない寝たくないと騒いで走り回って、結局疲れて自分でお昼寝を選んだ発。その隣は溜息の天化。

「一番難しい年頃だからのう」

呟いた太公望が、ずり落ちた普賢のパジャマの肩を引っ張る。反対の隣ですやすや眠る楊ゼンは抱きついて離れない。お気に入りの白い犬のぬいぐるみと一緒に。

「俺っちこれでも頑張ってるさー?発」

専門学校の教科書も教育実習も、どれだけ勉強してもこの子に敵わない。安らかな寝息を立てる発。ほっぺたをつついたら柔らかくて、
「まーったく、どこが大人なんだか…」
優しく引っ張ったら笑っていた。
「どんな夢見てんのか、なー。」
踏み脱いだ布団をかけなおして聞いてみる。
パジャマに着替えてもおひさまの匂い。子供の特権、子供は風の子元気な子。髪を撫でたら微笑む寝顔。
毎日あの手この手で脱がされるズボンに困って、仕方なく見えてもいい黒のボクサーパンツを大量買いしたなんて、言ったらこの悪ガキはどうするんだろう。そろそろ本気で親御さんを呼び出した方がいいんだろうか。
でもケンカが多いわけじゃないのに。
溜息はあくびと一緒にインスタントコーヒーの湯気に溶けた。
「天化、連絡帳の整理が間に合わん」
「わーってるさ」
「誕生日カードも作らねばな。今月は多いぞー」
寝てる間に終わらせないと。この小さい恐竜が悪戯放題叫びだすから。連絡帳に一体なんて書こう。ぐいっと大きく伸びをした。

お昼寝から覚めた夕方。おひさまは恥ずかしがりで、そろそろオレンジ色に隠れる時間。
「てんかーぁ」
オレンジのエプロンの後。
「"天化先生"」
「……天化先生」
予想外の言葉に驚いた。
「どうしたさ?」
「べつにー」
「別にじゃないさ」
縮こまる発の前にまっすぐしゃがんだ。大きく広がる発の目。そのまま黙って動かない。
「発?」
「てんかの目」
「目?」
言いたいことの意味がまったくわからない。目が一体なんなんだろう。
「はじめてみた。」
「初めてじゃないさ?さっきもお話したさ、俺っちと発」
「…だからカノジョできねーんだよ」
デコピンは大人しく喰らう準備をしてる。とうとうおひさまが地球の裏にかくれんぼした。
ハッキリ見据える子供の目、発の目。弾きかけた指が迷う。
「どうしたんさ、発。お腹痛いさ?」
答えない。とことん読めない。

「ナタクがぶったー!」
「ンー!」
聞こえる鳴き声叫び声。反射で走り出した足に思いっきり引っ張られるエプロン。転びかけて叫んだ。
「発!ダメって言っ…」
「てんかはダレ組のせんせーだろ!」
負けじと叫ぶ発の声。きつく結んだお口にチャック、紅葉の手がグーのまま、大きい目は瞬きをしないまっかなウサギさんの目。
「ダレ組のせんせーだろ…」

予想外で手が迷う。薄いおつきさまがみている園の庭。

「発、お迎えだぞーぅ」
響いた太公望先生の声に、弾かれた弾丸よろしく走り出す発。あっけにとられて取り残されたオレンジのエプロンは天化先生。

「あんちゃん!」
小さい体がお迎えの足に巻きついた。何度か来たことがある、長男の彼は高校生の伯邑考。
「あんちゃん」
タックルでもなくズボンを下ろすわけでもなく、足に巻きついて頬をすりよせて離れない。
「発、遅くなってごめんな。待たせただろう」
「へーき!」
足にくっついた発。顔を埋めて離れない。三兄弟の連絡帳を持って走る太公望先生。
伯邑考の右腕が抱き上げる、少しおねむの雷震子。左手で受け取った連絡帳を鞄にしまって、
「旦、おりこうにしてたか?」
「はい」
旦の右手を取る左手。
その横を歩く発。
「一番星みーっけ!」
「ちいにいさま、だいぶ前からでてました」
「あっそ」

ああ、

天化の頭が縦に揺れた。
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