溢る君愛好症(特殊*)




かぁいいかぁいい!
何度そう思ったか知れない。ともすれば何度か声に出した。腕の中でちびちび杯を傾ける天化に新しい杏酒と蒸留酒を交互に勧めて、もう酒瓶は五つ転がった。残すは酒樽ってトコか。
「ん?飲まねぇの?」
「王サマの考えはわかったさ。酔わせようったってそうはいかねぇかんなっ!」
「あーあー、んなろくでなしなことしねぇって」
まだ不服に唇を突き出した天化を腕に閉じ込めて、俺もちびちび酒を舐める。舌の先だけが甘ったるくチリチリ痺れる。
「だってあーたさっきから全然飲んでねぇ」
「飲み過ぎてアソコ役立たずになったら後で泣くのはお前だろ」
「……!泣かねぇさ!!」
相も変わらず否定する場所がおかしいのはご愛敬。
「入れてぇ王サマああんって言う癖にー」
「潰れっちまえこのアホ!」
酒の所為か俺の所為か、赤く色付いた耳を食べると、反撃した筈の天化の肩がぴくりと跳ねる。割れた腹に回した腕を少しだけ緩めながら、腹筋の合間を指が昇る。黒いジャケットの裾を弄りながら開いた肩口を舐めずって、もう一度強く抱き締めた。背中越しの鼓動が重なる。
ごめんな、なんて。コイツに届かないように喉の奥で言いながら。
「っ…、…サマ…」
「ん」
「……するんかい?」
「んー、いや?その前に天化可愛がりてぇ。最近ちゃんと触れてなかったろ」
「んなこと、ねぇけど…」
コイツ、弱ぇんだわ耳の裏。わざと唾液たっぷり啜り上げた舌先でつつくと、今度は逃げようと身を捻る。
「だーめ。ほら、行かせねぇぞ」
「──っす、くすぐったいさっ…!」
なんて言ってる癖に、天化の声は文句なしに楽しそうだ。普段の明朗さに酒と俺が甘味を足して、
「……は、ぁ…っ」
快楽を予感させるため息吐息が止まらない。辿り着いた指で胸の先端を押し潰すと、とうとう首が前に折れた。
「っ…ぉ、サマ…っ!」
その顎を浚って口付けに興じる。

……あー、いつもより甘ぇし熱い。

何度か唇を重ねて啄むうちに、天化から力強い舌を捩じ込んできた。っとにあーもう、くっそ可愛い!
これ以上強請る術を知らない青いコイツが可愛くて仕方ねぇ。──今から俺がしたいような残酷な婬蕩なんざ、考え及びもしねぇんだろう。ごめん、
「天化……」
「ふぅ、ぁー……っ…」
ごめん、きっと許して貰えねぇだろうなーってよ。頭の中で何度も詫びながら、せめてもの償いよろしくお望みの舌を分けてやる。途端にデカイ目をふやけさせて首を傾けた天化は、勢いよく俺の舌に絡まって固執した。じゅるじゅる泡立つような、そんな唾液と粘膜の押収に弱い。天化も、俺も。
「はっ、…んー…っ、ん…」
俺の名を呼びながら何度も首の角度を変えて、必死で俺の口付けに追い縋る。バクバク走り出した心拍と、ズクンと甘く疼き出した下半身を二人して持て余しながら、甘ったるい鼻を駆け上がる婬の音。
天化の味。俺の味。酒の味。

息が止まるような長い戯れに、天化はすっかり四肢の力を抜いてやがんの。かーわいい。俺の足の間で爪先が落ち着かないらしい。

知ってるぜ?
いつ俺のターバンを落とそうか、いつお気に入りのジーンズのファスナーを開けようか、ヤツは機を伺っている。流石の剣士サマってヤツだよな。ま・俺が上手なワケだけど?

「んむ、ぅ──!?」

一瞬の息継ぎに胸を反らした天化が、すぐさま塞がれた唇と咥内に驚きの目を開く。
「ん、」
「んっ…く、っは…」
流し込んだのは酒だ。勿論俺の口から天化の熱い咥内にな。
あー、やべ。これはマジでクル。

咥内には燃えるように熱い蒸留酒。その中で蠢く舌と舌。唾液でもって混ぜ返して、妖しく強請る天化の舌に八重歯を立てれば、──ほらな。陥落だ。

「んっ!」

唇を離して頬を包めば、どろっと情欲に濡れた両面。こくんと喉が上下して、
「──っぷはぁ…」
「っ、とに色気ねぇなぁーっ」
この場に不釣り合いな笑い声を立てながら、真っ赤になった額を撫でて汗を取る。
「んー…王サマ…」
「気持ちいいだろ」
とろり、とろり。ふやけた思考で、天化の指先が俺の頬を辿って、もう一度唇を強請られる悦びったらもうう!

「口直し、すっか?」
「うん、甘いのがいいさ。うんと甘いの、」
「俺も。天化のあまーいのがいいぜ」

次に傾いたのは果実酒の酒瓶。そのまた次は蒸留酒。
何度も何度も、この新しい口付けに酔った。

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